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『四国?五国でいいんじゃね? 』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

あらすじ
 これは遠い未来にあり得るかもしれない世界。
 四国地方は文字通り──かつての時代のように──四つの国に分かたれてしまった。
 『』、『』、『』、『』という四つの勢力がそれぞれ国を治め、長年に渡って激しい争いを繰り広げ、土地はすっかり荒廃してしまった。
 そんな土地に自らを『タイヘイ』と名乗る謎の青年が現れる。その体にある秘密を秘めているタイヘイは自らの存在に運命めいたものを感じる……。
 異なる種族間での激しいバイオレンスバトルが今ここに始まる!

本編
プロローグ
 四国山地――四国の中央部を東西に貫く、千数百メートル級の山々が連なる山地――この山地のとある場所にて騒動が起こる。
「きゃあ!」
「うわあ!」
「ははっ! ここらは俺ら、『亜人』の縄張りとする!」
 豚の顔と人間の体をしたものが高らかに叫ぶ。その手には槍が握られている。槍の先には血が滴っている。それを見た人々が恐れおののき、悲鳴を上げながら散り散りになって逃げる。
「お頭! どうしやす?」
「貴重な労働力だ! 逃がすな、適当に痛めつけろ!」
「へい!」
 お頭と呼ばれたものの指示に従い、豚頭たちが逃げるものたちを追いかけまわす。
「お、お助けを!」
「どうする?」
「娘以外は要らねえな、爺は始末しちまえ」
「なっ⁉ 血も涙もないのか⁉」
「うるせえ! てめえらみたいな『はみ出し者』に情けなんかかけるかよ!」
「うっ⁉ ……ん? はっ⁉」
 老人は閉じた目を開いて驚く。自身に突き立てられていた槍の柄を片手でガシッと掴む者がそこにいたからである。その者はコートを羽織り、フードを目深に被っている。豚頭は戸惑う。
「な、なんだ、てめえは⁉」
「ん~?」
 その者はフードを外す。短い銀髪の青年の顔が露になった。
「に、『人間』か⁉」
「人間? う~ん、まあ、そうとも言うな……」
 青年が片手で槍を抑えながら、もう片方の手で顎をさする。
「ヒ、『ヒト』如きが俺たちに逆らうんじゃねえよ!」
「そういうお前らは何者だよ?」
「お、俺たちは亜人の一種、『獣人』だ!」
「ああ、『ケモノ』ってやつか……」
「そ、そうだ、誇り高きケモノだ!」
「そのわりには汚ねえ真似をしているな……埃臭いの間違いじゃねえのか?」
 青年が自らの鼻をつまむ。豚頭は激昂する。
「てめえ、良い度胸してんな、殺してやる!」
「お、おい! 若いやつは生かしておけってお頭が言ってただろう⁉」
 傍らに立っていた他の豚頭が慌てて止める。
「はっ! 一人くらい関係ねえよ! ……ん⁉」
「……」
「う、動かねえ……⁉」
 豚頭が槍を引き抜こうとしたが、全く動かないことに戸惑う。青年があくびをする。
「ふあ~あ……どうした?」
「は、離せ!」
「ああ、悪い……」
「あっ!」
 青年が槍の柄をポキッと折ってしまう。青年が目を丸くする。
「ああ、ごめんな、力加減を誤った……」
「て、てめえ、マジでぶっ殺す!」
 豚頭が青年の首根っこを掴む。
「うおっ……」
「へへっ、てめえの首を折ってやるよ……」
「……そりゃあごめんだな」
「あん⁉」
「よっと……」
「ああん⁉」
「おらっ!」
「! が、がはっ……」
 青年の強烈な頭突きを喰らって、豚頭が崩れ落ちる。
「て、てめえ!」
 他の豚頭が槍を突き立てる。
「ふん!」
「んなっ⁉」
 青年が頭突きで槍の刃先を破壊する。青年が額の辺りを撫でる。
「ふん……」
「な、なんだてめえは……『超人』か?」
「超人……まあ、そうとも言うな」
「俺たちに……『亜人連合』にケンカ売るってんだな⁉」
「え?」
「それならば報告しなきゃならねえ!」
「ちょい待ち」
「ぐえっ!」
 その場から離れようとした豚頭の首根っこを青年は掴む。
「よく分からねえが……面倒は避けてえ……眠っとけ!」
「ぐはっ⁉」
 青年が頭突きを喰らわせ、豚頭を倒す。
「ふう……」
「ど、同胞⁉ な、なんだ、てめえは⁉」
「ん? まだいやがるのか……」
 他の豚頭たちが青年を取り囲む。
「こいつ……やっちまえ!」
「……しょうがねえなあ!」
 青年が首の骨をコキコキっと鳴らしてから、豚頭たちに勢いよく飛びかかる。それからわずかな時間をおいて……。
「……ごはっ……」
「お前がこの連中のお頭か?」
 青年の頭突きを喰らい、豚頭たちのお頭がガクッと跪く。
「な、なんなんだ、てめえは……」
「俺か? 通りすがりの石頭だ」
 青年が額を撫でながら、精悍な顔つきをほころばせる。
「ふ、ふざけんな……」
「我ながらうまいこと言ったつもりだが……って、聞いてねえし」
「あ、ありがとうございます……」
 老人が若者に支えられながら、青年に礼を言う。青年は手を軽く振る。
「なあに……」
「しかし、これから大変なことになるかと……」
「ん?」
「ここは『四国』の中で、どの国の勢力も及ばない緩衝地帯にある集落群……ここでこのような騒動が起こったことは、四国になんらかの波紋を起こすやもしれません」
「ひょっとして……迷惑になるか?」
「い、いえ! 恩ある方にそのようなことを……」
 老人が慌てて首を左右に振る。青年が顎に手を当てて呟く。
「緩衝地帯っていうのは……」
「我々、はみ出し者が住み着く場所です。この四国の中には、居場所が少ないのです……」
「はみ出し者……」
「それぞれ何らかの事情を抱えているものたちのことです……」
「何らかの事情ね……くだらねえ」
「!」
 老人の顔が険しくなる。青年が手を振る。
「おっと、すまねえ……俺もその何らかの事情を抱えている側だ……」
「! それでは、貴方も……」
「ああ、重なっている……」
「重なっている?」
「まあ、それは別にどうでも良い。記憶が曖昧なところがあるが……この島は変わりねえってことだな?」
「は、はい……『ヒト』、『ケモノ』、『アヤカシ』、『キカイ』がそれぞれの国を治めていて、四つに勢力が分かれています……」
「『』、『』、『』、『』ね……」
 青年は老人の言葉を繰り返す。
「ええ……」
「……ここらも含めて、その勢力には馴染めない連中が形成しているのが、集落群だよな?」
「そ、そうなります……」
「そうか……」
「あ、あの……?」
「……だったらよ」
「は、はい……」
「集落群を一つにして、にしちまえば良いんじゃねえか?」
「ええっ⁉」
 驚く老人をよそに青年は手を叩く。
「決めた! っていうか、それが俺に課せられた使命、あるいは俺にしか出来ないことかもしれねえな……ちょっとカッコつけすぎか?」
「あ、あの、貴方は一体……?」
「俺か? ただの石頭だ」
「い、いえ、お名前は……?」
「名前ね……タイヘイだ」
「タイヘイさん……」
「ああ、天下泰平から取った! 今思い付いた! 俺がこの島の仕組みを変えてやる!」
 タイヘイは力強く宣言する。


「……なんか、悪いな」
 行列の真ん中あたりでタイヘイが呟く。老人が首を傾げる。
「なにがですかな?」
「いや、俺のせいで住み慣れた場所を離れざるを得なくなっちまって……」
「貴方のせいではありません。あの襲撃してきた者たちを退けてくれたことには皆、大いに感謝しております。ただ……次はもっと強力な侵攻が予想されます」
「もっと強力な……」
「はい。その為に近くの集落に移動するのです。はみ出し者同士で助け合わないといけませんからな……」
「そうか……だけどよ、いつまでも守り一辺倒ってわけにもいかねえだろう」
「皆が皆、タイヘイさんのように力を持っているわけではありませんから……」
 老人は苦笑しながら答える。タイヘンは頭をかく。
「だがよ……」
「タイヘイさん、貴方は記憶が曖昧だとおっしゃっていましたが……ひょっとして、外からこの四国にいらっしゃったのですか?」
「いや、それも曖昧なんだよな……」
「はあ……」
「どこかで頭を強く打ちすぎたのかもしれねえ」
「あれだけの石頭なのに?」
「それもそうだな、じゃあ雷にでも打たれたかな……」
 老人の言葉にタイヘイは笑う。老人は頭を下げる。
「失礼、大恩ある方に余計な詮索を……」
「いや、気にすんな」
 タイヘイは手を左右に振る。老人はやや間をおいてから口を開く。
「……先日、貴方は国を造るとおっしゃった……」
「無茶か?」
「無理ですかな」
「無理か」
「無謀とも言います」
「無謀か」
 タイヘイは苦笑する。
「……ですが、あるいは……可能な道筋もあるかもしれません」
「本当か?」
「ええ、ただ、蜘蛛の糸のようにか細いものですが……」
「ゼロじゃないなら、それに賭けるのもありだろう」
「!」
 タイヘイの言葉に老人は驚く。タイヘイは首を傾げる。
「どうかしたか?」
「い、いえ、若者らしい言葉だなと……」
「青臭いか?」
「いいえ、案外そういう方が時代を変えてしまうものなのかもしれません」
「勢いだけはあるからな」
「ふふっ……」
 腕をぶんぶんと振り回すタイヘイを見て、老人は笑う。
「その可能な道筋ってのを示してくれよ」
「ええ……」
「あ、亜人の襲撃だー!」
「む!」
 タイヘイたちが目をやると、行列の側面から豚頭たちの集団が襲い掛かってくるのが目に入った。リーダー格の者が行列の中で声を上げる。
「行進を止めるな! 戦える者は応戦を!」
「戦う⁉ おまえら如きが⁉ ブヒヤッヒャッヒャッ!」
 豚頭が下卑た笑い声を上げる。
「くっ!」
「お礼参りだ! やっちまえ!」
「おおっ!」
「そうはさせねえ……よ!」
「うおっ!」
 タイヘイが飛び出し、強烈な頭突きを喰らわせ、豚頭を一体吹き飛ばす。
「て、てめえはひょっとして⁉ 噂の銀髪石頭野郎か⁉」
「どんな噂か知らねえが……多分そうだな」
 タイヘイは頷く。
「こ、こいつをまず仕留める!」
「お、おおっ!」
 豚頭たちはタイヘイを取り囲む。タイヘイは笑みを浮かべる。
「へっ……」
「な、なにがおかしい⁉」
「わざわざ集まってくれるとは……手間が省けるぜ!」
 タイヘイが一瞬で豚頭たちとの間合いを詰める。豚頭が驚く。
「うわっ⁉」
 タイヘイは頭を思い切り振りかぶる。
「そらあ!」
「ぐえっ!」
「おらあ!」
「ぎえっ!」
「うらあ!」
「ごえっ!」
「……ざっとこんなもんか?」
 タイヘイが周囲を見回す。あっという間に豚頭たちの大半が制圧された。
「! 同胞! くっ……」
「ん? 第二陣か……」
 タイヘイが見上げると、小高い丘になっている部分に豚頭たちの集団が見える。
「よくも同胞たちを!」
「先にケンカ売ってきたんだろうが……」
「か、囲め! 数で圧倒す……」
「同じことだ!」
「げえっ!」
 タイヘイが指示を出そうとした豚頭に頭突きをかます。タイヘイは頭を撫でる。
「……さっさと片付けさせてもらうぜ」
「ぐっ……」
「どうした? ビビったか?」
「調子に乗るな!」
「⁉」
 何者かの突進にタイヘイが吹き飛ばされる。
「ふん……」
「!」
「やったぜ、ざまあみろ!」
「自慢の石頭も、体に攻撃喰らっちゃあ、ひとたまりもねえな!」
「ああ! 所詮はもろい人間だ!」
 豚頭たちが歓声を上げる。その内の一頭が突進を繰り出した者に声をかける。
「さすがはイノマル様……見事な突進でした」
「……こんなものかよ、拍子抜けもいいとこだぜ……」
 豚頭たちとは少し異なった、猪の頭をした獣人が肩をすくめる。
「亜人連合の幹部、イノマル様の突進を喰らって無事でいられる者などいません。後は我々にお任せ下さい」
「ああ」
「あ~痛って……」
「⁉」
 イノマルたちが驚く。吹き飛ばされたタイヘイが体を起き上がらせたからである。
「……そこの豚頭、やるじゃねえか」
 タイヘイがイノマルを指差す。
「お、俺は猪だ!」
「豚も猪も似たようなもんだろう」
「全然違う!」
「そうか? どこが?」
「この突進力だ!」
「うおっ!」
 イノマルが再度突進を敢行し、タイヘイを豪快に吹き飛ばす。
「どうだ!」
「……」
「くたばったか」
「あ~効いた~」
「なっ⁉」
 イノマルが驚く。タイヘイがまたも起き上がったからである。
「なるほど、豚とは違うわ……一緒にして悪かった」
「へ、平気なのか……? 人間にしてはタフなようだな」
「人間にしてはね……」
 イノマルの言葉にタイヘイが笑みを浮かべる。
「まあいい、今度こそ終わらせる!」
 イノマルが足で地面を軽く二、三度蹴る。
「来るか……」
「二度あることは三度あるだ!」
「三度目の正直……っていう言葉もあるぜ?」
「抜かせ!」
 イノマルが凄まじい勢いで突進する。
「おっと!」
「な、なに⁉」
 イノマルが驚く。自身の突進をタイヘイが受け止めてみせたからである。
「……ふふっ」
「その細身でその力……一体どこから⁉」
「この体からだよ!」
「!」
 タイヘイの両腕がググっと膨らみ、イノマルを徐々に押し返す。
「ぐっ……」
「ま、まさか……?」
「そのまさかだ……よ!」
「うおっ⁉」
 タイヘイがイノマルを投げ飛ばす。豚頭たちが驚く。
「イ、イノマル様が投げられた⁉」
「あ、あいつ、なんて力だ⁉」
「腕が膨らんだぞ⁉ 風船か⁉」
「ただのチャラい銀髪野郎じゃないのか⁉」
「石頭の頭でっかちじゃなかったのか⁉」
「うおい! 後半、単なる悪口じゃねえか!」
 タイヘイが豚頭たちの反応に文句をつける。
「く、くそ……」
 イノマルが立ち上がる。タイヘイが笑う。
「へえ、結構タフだな」
「黙れ!」
「お~怖……」
 タイヘイが首をすくめる。
「舐めるなよ、人間如きが……」
「舐めてたのはそっちだろう」
「獣人が人間に後れはとることなど決してありえん!」
「世の中、例外っていうのは結構あるぜ」
 イノマルが地面を力強く踏みしめる。
「次で終わらせる!」
「気が合うな、俺もそう思っていた」
「うおおおっ!」
「!」
 イノマルがこれまでよりも早く突進する。
「終わりだ!」
「おりゃあ!」
「⁉」
 再び腕を膨らましたタイヘイがイノマルの側頭部を思い切り殴りつける。イノマルは真横に吹っ飛び、岩壁にぶつかり、動かなくなる。タイヘイがため息をつく。
「ふう……」
「イ、イノマル様が……負けた……」
「な、なんなんだ、てめえ!」
 豚頭の内の一頭がタイヘイを指差す。
「え?」
「ただの人間がそんなこと出来るわけねえだろう!」
「別にただの人間なんて言った覚えはないけどな……」
「なに⁉」
 タイヘイが三度両腕を膨らませてみせる。豚頭たちが驚く。
「‼」
「俺にも獣の強さが備わっている……それだけのことだ」
「なっ……⁉」
 タイヘイの言葉に皆が驚く。
「ふん……獣と人のハーフか……」
「!」
 鹿の頭をした者が現れる。豚頭たちが声を上げる。
シカオ様!」
「シカオ様がいらっしゃったぞ!」
「イノマル様が倒されましたが……?」
「僕をイノマルなどと一緒にするな……」
 シカオと呼ばれた者が豚頭を睨みつける。
「も、申し訳ありません!」
「し、しかし、あの銀髪、かなりやります!」
「パワーが少しばかりあるだけだろう……案ずることはない。戦いはパワーだけではないということを証明してやろう」
「おおっ! 頼もしいお言葉!」
 シカオの言葉に豚頭たちが沸き立つ。
「あの~盛り上がっているところ悪いんだけど……」
「ん?」
「次はお前さんが相手してくれるわけか?」
 タイヘイがシカオに問う。シカオが頷く。
「ああ、そうだ」
「……大丈夫か?」
「大丈夫とは?」
 シカオが首を傾げる。タイヘイがシカオの体を指し示す。
「いや、細い体つきだからよ……俺のパワーに耐えられるかなって……」
 タイヘイが腕をゆっくりと振り回してみせる。
「はっ、まさか心配してくれているのか?」
「ああ、弱い者いじめはしたくねえからな」
「弱い者だと……?」
 シカオの目が険しくなる。タイヘイが頭をかく。
「あ、怒った?」
「ふっ……」
「ん? 笑った?」
「そうやって怒らせようとしても無駄だよ。そんな手には引っかからない」
「あら……」
 タイヘイが首を捻る。シカオが掌を広げて指をクイっとする。
「……かかってきなよ」
「へっ、行くぜ!」
「はっ!」
「なっ⁉」
 タイヘイがシカオに飛びかかるが、シカオの頭に生える長い角によって、タイヘイは体をすくわれ、地面に叩きつけられる。シカオが鼻で笑う。
「ふん……ご丁寧にパワーで対応する必要はない……」
「ちっ……」
 タイヘイが立ち上がる。
「ほう、タフだね」
「くそっ!」
 タイヘイが再び飛びかかる。
「それ!」
「おっと!」
 シカオが再び足元をすくおうとしたため、タイヘイがジャンプして、それをかわす。
「む!」
「もらった!」
「甘い!」
「ぐわっ⁉」
 かわしたと同時に攻撃を繰り出そうとするが、シカオが頭を素早く振り回して、長い角で器用にタイヘイを突く。タイヘイはバランスを崩し、攻撃を中断する。
「そらっ! そらっ!」
「くっ……」
 シカオが間髪入れず、角で連続攻撃を行う。素早いラッシュをタイヘイは防ぐのが精一杯という状況になる。
「おおっ! シカオ様が優勢だ!」
「あの銀髪野郎、手も足も出ないぜ!」
「やっちまえ!」
 豚頭たちが口々に快哉を叫ぶ。
「期待に応えて、そろそろ終わらせようか!」
「調子に乗んな!」
「む!」
 タイヘイが角を弾いて、後方に飛び、距離を取る。
「はあ……はあ……」
「ははっ、何をやるかと思えば、呼吸を整えるだけかい?」
「はあ……」
「自慢のパワーを発揮出来なければ、打つ手なしか……」
「……」
「終わりだ……この角で串刺しにしてあげよう」
 シカオが角をタイヘイに向ける。
「…………」
「行くよ!」
「……自慢はパワーだけじゃねえぜ?」
「なにっ⁉」
「そらっ!」
 タイヘイが両手を振るうと、斬撃が飛び、シカオの角が切断される。シカオが驚愕する。
「なっ……⁉」
「悪いな、その角を斬らせてもらったぜ、ウザいから」
「そ、その腕は⁉」
 シカオが指を差す。タイヘイの両腕が鋭利な刃物に変形していた。タイヘイは両腕をわざとらしく掲げてみせる。
「当ててみな」
「……『』の力か?」
「当たり」
「ば、馬鹿な……人と獣の力だけでなく、妖の力まで……?」
「鹿に馬鹿って言われるとはな……はっ!」
「し、しまった⁉」
 タイヘイは隙を突き、シカオの懐に入り込む。
「近寄ればこっちのもんだ!」
「がはっ⁉」
 タイヘイの膨らんだ腕から繰り出された強烈なパンチがシカオの腹にめり込み、シカオは膝をつく。
「シ、シカオ様がやられた……」
「マ、マジかよ……なんなんだアイツ……」
 豚頭たちが困惑する。タイヘイが睨みをきかせる。
「さて、今度はお前らの番か……」
「! ど、どうする⁉」
「や、やるしかねえだろう!」
「お、俺らで歯が立つ相手かよ!」
「うろたえるんじゃないわよ。みっともないわね、これだから獣人は……」
 高い声が聞こえてくる。豚頭たちの表情が変わる。
「そ、そうだ! まだあの方がいた!」
「ああ! 『猪鹿蝶』の最後の一羽! フジン様!」
「うおおおっ!」
 豚頭たちが大声を上げる。
「うるさいわよ!」
「す、すみません……」
「ったく、なんで私があいつらとひとくくりなのよ……」
 フジンと呼ばれた蝶の頭をした者が背中の大きな羽を動かしながら現れる。タイヘイがそれを見て驚く。
「うん⁉ ちょうちょ⁉」
「そう、『虫人』よ」
「ちゅ、虫人……」
「『亜人連合』だからね……獣人だけだと思った?」
「じゃ、若干そう思っていた……すまん……」
 タイヘイが申し訳なさそうに頭を下げる。
「別に謝らなくてもいいけど……」
「お前、女か?」
「分類的にはそうね」
「そっか……じゃあ、苦しまない程度に……」
 タイヘイが手を組んで骨をポキポキとする。フジンが戸惑う。
「そ、そこは手加減するとか、そういう流れじゃないの⁉」
「加減してどうにかなる相手じゃねえだろ?」
「ふっ、分かっているじゃない!」
「!」
 フジンが羽を広げる。タイヘイが身構える。
「あいつらの尻ぬぐいをするのは気が進まないけど、ここでアンタを倒せば、私の覚えもめでたくなる……!」
「やれるもんなら……やってみろ!」
「はっ!」
 自身に飛びかかろうとしたタイヘイに対し、フジンは羽を高速で羽ばたかせる。そこから粉が散布されてタイヘイの顔にかかる。
「む! こ、これは……⁉」
 タイヘイは慌てて顔を覆う。フジンが笑う。
「ふふっ、なかなか勘が良いけど……遅かったわね」
「くっ……な、なんだ……?」
 タイヘイの足元がふらつく。フジンがさらに笑う。
「ふふふっ、私の鱗粉には相手を痺れさせる効果があるのよ。アンタのパワーもそれでは十分に発揮出来ないでしょう?」
「くっ……」
 なおも足元がふらつく中、タイヘイが構えを取り直そうとする。
「おっと!」
「‼」
 フジンが低空飛行し、タイヘイの懐に入り、タイヘイの体を掴む。
「は、離せ!」
「まあまあ、そうつれないことを言わないで……よ!」
「うおっ⁉」
 フジンがタイヘイを抱えたまま空高く舞い上がる。フジンが笑いかける。
「ふふっ、どう? ここからの景色……新鮮じゃない?」
「くそっ……」
「なによ、バタついて……風情ってもんがないわね……ああ、そうだ」
「⁉」
 フジンがタイヘイの体をパッと離す。タイヘイの体が空中から落下し、思い切り叩きつけられる。フジンが笑みを浮かべる。
「ふっ、ざっとこんなもんよ……」
「おおっ! さすがはフジン様!」
「俺たちは信じていた!」
「ざまあみろ銀髪野郎め!」
「さ、さっきからなんとなく耳には届いていたけれど……アンタらも調子がいいわね……」
「そこが俺らの取り柄ですから!」
「全然褒めてないわよ」
 豚頭の言葉をフジンは切って捨てる。
「そ、そんなあ……」
「情けない声出している暇があったら、さっさととどめを刺しなさい……」
「は、はい!」
「返事は良いのよね、返事は……」
 見下ろしながらフジンは苦笑する。
「よし! 慎重に包囲を狭めていき、一気に槍を突き立てるぞ」
「りょ、了解……」
 豚頭が倒れているタイヘイの周辺に集まり、それぞれ距離を詰めていく。
「よ、よし、今だ!」
「ああん⁉」
「うおおっ⁉」
 豚頭たちが一斉に槍を突き立てようとしたその時、タイヘイが勢いよく立ち上がる。空中でそれを目にしたフジンが目を丸くする。
「痺れの効果は、そんな簡単に切れないはずなんだけれど……」
「おりゃあ!」
「フ、フジン様!」
 フジンが視線を移すと、タイヘイが周りに群がった豚頭たちに頭突きをして回っている。思わぬ反撃をとられたことによって、豚頭たちは混乱している。フジンはしばらく様子を見ていたが、ハッと気がついて、考えを改める。
「獣人どもが何頭やられようが、知ったこっちゃないって思っていたけど……どれだけ戦力を残すのかも、私の評価につながるのよね……ならば、ねえ、銀髪!」
「あん⁉」
 タイヘイが見上がると、ほぼ真上の位置にフジンが立っていた。
「弱い者いじめしてないで、亜人連合の幹部の首、欲しくないかしら?」
「……じゃあ、降りてこいよ」
「嫌よ、なんでせっかくのアドバンテージを失うような真似をすんのよ」
「それもそうか……」
 タイヘイが頭を抱える。フジンが戸惑い気味に笑う。
「ア、アンタって、アホなの?」
「アホって言うな!」
 タイヘイが頭を上げて叫ぶ。
「だってそうとしか思えないじゃない……⁉」
「……その高さなら届く」
「くっ⁉」
「はっ!」
 タイヘイの鋭い刃に変身した両腕から、斬撃が放たれる。フジンが舌打ちする。
「ちいっ、これがあったわね! ……あら?」
 斬撃の勢いが鈍く、フジンまで届かない。タイヘイが俯く。フジンが笑みを浮かべる。
「痺れの効果はまだあったようね……おかげで助かったわ」
「くっそ……」
 タイヘイは膝をついて、悔しそうに地面を殴る。
「その様子だったら豚頭ども相手にも消耗しそうね、私は上で優雅に見物させてもらおうかしら……」
「おい! 降りて来いよ!」
「……え、やだ」
 一瞬面食らったフジンは断る。タイヘイは苦笑する。
「だよな~」
「こんな優位をむざむざと捨てるバカはいないでしょうが……ちょっと考えたら分かるでしょ」
「そう……だな!」
「なっ⁉」
 フジンは驚く。自分と同じ高さまで、タイヘイが達していたからである。
「ちょっと考えたら分かったぜ、俺にはまだこれがあった……」
 タイヘイは自身の両脚を指し示す。もの凄い量の火が足裏あたりから噴出されている。
「そ、その脚……まさか、『』の力?」
「当たりだ! はっ!」
 フジンの体を掴んだタイヘイは反転し、きりもみ回転をしながら、地上に落下した。自身の体もろとも、フジンの体を地面に叩きつけたのである。タイヘイはゆっくりと立ち上がる。
「ア、アンタ、なんなのよ……?」
「お、お前まだ喋れたのか……俺は……人と妖のハーフと獣と機のハーフの間に生まれたハーフ……言い換えれば人のクオーターか?」
「! そ、そんな存在が……」
「お、大人しくなったな……さてお前ら……後で大事な話がある」
「ひ、ひいいっ⁉」
 タイヘイの睨みに豚頭たちは震えあがる。タイヘイは首元を抑えながら、歩き出す。
「爺さんにさっきの続きを聞かなきゃな……」


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