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『 ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

あらすじ
 平凡なサラリーマン「」は、勤めていたブラック企業をある日辞めた。
 心は晴れやかだ。その日は大人気ファンタジーゲームシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日だからだ。
 「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらつきゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で
 「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のか⁉

本編
プロローグ
「はあ……はあ……」
 
 俺は狛江の1ⅮKアパートに帰宅する。“帰還”と言った方が適切か。『人生』というクソゲー内の『労働』というクソみたいなイベントから解放されたのだから!
 
 俺が勤めていた会社は絵に描いたようなブラック企業だ。長時間残業、休日出勤などは当たり前、上司や先輩からのパワハラは日常茶飯事、有給休暇は架空の話、低い給料……挙げるとキリがない。心を病まない自分を呪ったものだ。
 
 しかし、それらももう過去の話……。そう、会社を辞めたのだ!
 
「お前なんか雇ってくれるところないぞ!」
 
 元上司に言われた。お決まりの台詞だ。俺は言い返してやった。
 
「こんなとこ、いつまでも続かねえよ!」
 
 気分爽快だ。唖然としていた元上司の間抜け面を思い出すとニヤニヤが止まらなかった。不審者として通報されるのではと内心ヒヤヒヤしながら帰ってきた。
 
「ただいまー!」
 
「おかえり~!」
 
 ……これは幻聴。同棲中の可愛い彼女が明るく出迎えてくれるわけではない。そもそも彼女いないし。だが、それくらい気分は晴れやかだ――転職先も決まっていない、貯金もほぼゼロに等しい状況ではあるが――俺が数年に及ぶ劣悪な労働環境からの脱出を決めたのには理由がある。
 
「ガラガラ……ペッ!」
 
 俺は手洗いとうがいを済ます。
 
「ふう……!」
 
 スーツやズボンを脱ぎ捨て――一応ハンガーにはちゃんとかける――Tシャツとパンツになる。
 
「……おっと、あれを忘れちゃ駄目だな……」
 
 冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出し、コンビニで買ってきたつまみとともにテーブルにドンと置く。
 
「さて……!」
 
 ゲーミングチェアに腰かけた俺は、パソコンを起動させる。そして“あれ”がダウンロードされていることを確認する。
 
「よし!」
 
 俺は満足気に頷く。そう、何故に今日退社したかというと、全世界待望のゲーム、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日だからだ。趣味などほぼ無い俺だが、『レジェンドオブ』シリーズの新作は別だ。俺はこのシリーズを第一作から欠かさずプレイしている。溺愛していると言ってもいい。何故、このゲームに心が惹きつけられるのかというと……“自由度”が半端なく高いのだ。
 
 ゲームジャンルを大雑把に言うと、『本格的ファンタジーRPG』だが、『勇者』として世界平和を目指してもよし、反対に『魔王』として世界征服を目論んでもよし、武器などを扱う『商人』として、世界を裏から牛耳るもよし、『剣豪』として武の道をストイックに極めるもよし、『賢者』として魔法などを研究するもよし、『魔法使い』、『農民』、または『盗賊』、『遊び人』などになってもよし。さらに、『エルフ』、『ドワーフ』、『ゴブリン』など、人間以外の種族になってもよし。多彩な生き方が出来るゲームなのだ。
 
「ふむ……」
 
 俺は考える。このゲームは自らの分身、いわゆる『アバター』を作成することも出来る。身長、体重はもちろん、性別や肌の色、髪型や顔つきまでかなり細かく設定出来る。この作成作業に多くの時間を費やすこともある。
 
 しかし、このゲームはオリジナル主人公だけでなく、既存のキャラから一体を選択して自由に動かせる。百近い国や地域、勢力に属する、数千ものキャラの生涯を体験出来る。勇者で経験値をためてレベルアップしていく『王道』を進むことも、魔王で敵対者をねじ伏せていく『覇道』を歩むことも、レアモンスターとなって、雑魚モンスターを捕食する『邪道』を行くことも出来る。
 
「う~ん……」
 
 俺はチェアの上で胡坐をかき、腕を組む。オリジナルキャラを作成しても、既存のキャラを選んでも、どうプレイしても楽しいゲームだ。しかし、数年間新作を待っていたのだ。ここは思案のしどころであろう。
 
「そうだな……」
 
 俺はマウスを動かし、マップの東端に位置する小島をクリックする。小島の情報が出る。ふむ……近隣の大きな島の管理下に置かれていて、主に流刑地として使われていると……。莫大な財宝が眠っているとか……⁉ な、なんだって⁉ む……『※あくまでも噂である……』か。これは島ごと掘り起こしても出てこないパターンだな……。シリーズを遊び尽くしているから、このメーカーのやり口は分かっている。だがちょっと待てよ……ワンチャン財宝を掘り当てれば、一気に金持ちルートじゃないか? このゲームでも当然金はあるに越したことはない。
 
「やってみるか……うん……? な、なんだ……⁉」
 
 突然、視界がぼやける。フラフラとなった俺はチェアから転げ落ちて頭を打ってしまう。
 
「むっ……こ、ここは……⁉」
 
 俺は目を開けて驚く。砂浜に倒れ込んでいたからだ。全裸で。


「えっと……」
 
 俺は現状把握に努める。裸で砂浜に倒れ込んでいた。おかしい、自室でゲームをしていたはず。
 
「……痛っ!」
 
 ベタだが、頬をつねってみた。痛い。俺は半身を起こして考える。
 
「夢じゃない……?」
 
 俺は――体感としてはついさっきまでの――行動を思い起こす。急にフラっとして、チェアから転げ落ち、頭をしたたかに床に打ったのだ。そこからの記憶がない。俺は考えたくない結論に早目にたどり着く。
 
……天に召された?
 
 俺はしばらく沈黙する。その後、激しく首を左右に振る。
 
「いやいやいやいや! あり得ない! そんな馬鹿な!」
 
 俺は自らの出した結論を否定する。
 
「しかし、他に可能性が……チェアから落ちたな……頭を打ったし……」
 
 俺は頭を触る。……ん? ちょっと待て。俺は体を確認する。腹筋が見事にシックスパックを形成している。これは俺の、中年オヤジ一歩手前のだらしない腹ではない! 程よく引き締まった腹をさすりながら立ち上がり、海へと向かう。透き通るような色の海だ。日本ではまずお目にかかれないではないかというほどだ。あれか? 闇バイトの馬鹿者に頭を殴られて、拉致されて、全財産を奪われた挙句、外国の浜辺にでも捨てられたか?
 
「……ないな」
 
 俺は首を静かに左右に振る。貧乏な独身の元社畜の家を襲って、何が得られるのか。金目のものなどない。精々パソコンくらいか。ほぼメリットは皆無だ。俺は海を覗き込む。
 
「ん……⁉」
 
 俺は海面に映る自らを見て驚く。なんだ、この顔は……。海面には冴えない眼鏡の、チーズ牛丼を食べてそうな男ではなく、なんというか、今ひとつ特徴に乏しい男が映っていた。決してイケメンとは形容出来ないが、ブ男と卑下するほどでもない、なんとも凡庸な顔面だ。体つきは筋肉質だが……大柄でもない。平均的な体格であろうか。俺は海面から目を離して水平線を眺めながら呟く。
 
「……どこかで見覚えが……」
 
 俺は顎をさすりながら考える。それから何度か、海面に自らの顔を映す。こんなに自らの顔を確認することは今までない。何度目かの確認の後、俺はハッとする。
 
「この雰囲気というか、肌質は……『レジェンドオブ』のキャラクターのそれだ! ……って、いやいやいや!」
 
 俺は再び首を左右に激しく振る。つまり……恐らくは……そういうことか? 俺は目覚めた当初から心のどこかで抱えていた荒唐無稽な結論を導き出してしまう。そうあって欲しいという『願望』だったのかもしれない。
 
「俺……『レジェンドオブインフィニティ』の世界に転生しちゃったのか……⁉
 
 俺はその結論を口に出してしまった。やや間を置いて俺は噴き出す。
 
「ぶっ! 馬鹿な……! あり得ない……!」
 
 俺は三度首を左右に激しく振り、後頭部を強めに撫でる――ちなみに髪の毛色は黒で、長すぎず短すぎず――しかし……。
 
「それ以外に説明がつかん……」
 
 そう、他に自分を納得させる理由が無い。
 
 いわゆる『異世界転生』、『ゲーム世界に転移』……現世で命を落とす、もしくは何らかのアクシデントに見舞われ、別世界へと転生・転移する……そういう小説やらアニメが流行しているのは知っている。だが、自分がそうなるとは……。というか、現実で起こるとは……。
 
「こうなった場合……」
 
 一番に頭に浮かぶのは、『現世への帰還』だ。いきなり「おめでとうございます! 貴方は大好きなゲームの世界に転移しました!」と言われて――正確には言われてないが――有頂天になるほどおめでたくはない。ノリが悪い? 急に別世界に放り込まれて、「ヒャッハー!」となる方がおかしいだろう。
 
「戻るには……ゲームオーバーになるか? ……嫌だな」
 
 俺は即座に自分の呟きを否定する。このシリーズでゲームオーバーになるというのは、「」だ。ゲームではセーブ機能が搭載されていて、例えば戦闘で負けても、セーブした地点からやり直せるが、ゲームの世界が現実の世界になった今――ややこしい――セーブなんて都合の良いことが出来るとは思えない。
 
 ゲームの仕様的に「自死する」ことも出来ない。もしかしたら出来るかもしれないが、そんな度胸はない。
 
「答えは自ずと決まってくるな……この『レジェンドオブインフィニティ』の世界で生き抜く!
 
 俺は力強く頷く。そして躊躇いがちに――というか、かなり恥ずかしい――あの台詞を口にしてみることにする。俺は適当な高さに右手を掲げ、あの台詞を言う。
 
ス、『ステータスオープン』!
 
 すると、なにも無かった所に黒地に白い文字列が記された画面が表示される。
 
「!」
 
 ほ、本当に出た……。これが『ステータス画面』? まさか己のステータスを視覚的に確認することになるとは……。だが、この世界で生きる為に、自身の事はしっかり把握しておかなくてはならない。し、しかし……。
 
が、画面、横じゃね?
 
 そう、画面が俺に対して横になっているのだ。文字が読みにくくてしょうがない。どういうことだ? 読めなくはないが……とにかく確認する。
 
【名前】:キョウ
【種族】:人間
【職業】:無職
 
【体力】:8
【魔力】:8
 
【力】:8
【素早さ】:8
【技量】:8
【知力】:8
【精神力】:8
【運】:8 
 
【スキル】:??????????

 
「⁉」
 
 ちょ、ちょっと待て……! ぜ、全部のステータスがそれぞれたったの8しかない⁉ まさか……。
 
モブキャラに転生してしまった……ってこと⁉
 
 俺は露骨にテンションが下がる。それもそうだろう。この『レジェンドオブ』シリーズは、伝統的にステータスの上限値が9999だ。最大4桁。そこまで到達しているキャラは多くないが、たったの8というのは……。
 
「レベルが上がれば、ステータスも上昇するか……いや、無理だ……」
 
 俺はまたも自身の呟きを否定する。さすがに全モンスターのステータスを暗記しているわけではないが、いわゆる『雑魚モンスター』でも、各種ステータスがすべて1桁というのは記憶がない。つまり、今の俺は雑魚以下の存在だ。
 
「か、悲し過ぎる……」
 
 俺の頬を涙が伝う。泣いちゃった。いや、泣きたくもなる。せっかくゲームの世界に転生したのに、雑魚に遭遇しても逃げなければいけないからだ。
 
「……寒い」
 
 俺は体を両手で抱く。日は照りつけているので、体感的には寒くはない。しかし、心が寒い。何故か全裸だし。いや、なんでだよ、マジで。そういや、【職業】の欄が無職だったな。だからって下着一枚も付けてないってあるか?
 
「どうする……」
 
 まあ、まずするべきはこれだろう。浜に打ち付けられていた大きめの海藻を手に取り、大事な部分を覆い隠す。俺は指を差して、声を上げる。
 
ヨシ!
 
 冷静に考えれば、全然良くはないが、もうこれで良いじゃないかと思った。転生の初っ端からヤケクソだ。
 
「しかし……」
 
 俺は転生に至った経緯についてあらためて考える。この場合、転生に関するメカニズムは無視。どうせ人智の及ばぬこと。問題はその前。
 
 何故頭を打ったのか? 転んだから。何故に? バランスを崩したから。なんで? 急にふらついたから。どうして? 酒を飲んでいた? いいや、キンキンに冷えてやがった缶ビールはまだ開けていなかった。シラフだった。つまり……
 
「クソ会社での疲労の蓄積に、緊張の糸がプツンと切れて……頭がふらつき、倒れ込んでしたたかに頭を打ってしまったと……」
 
 俺はかなり雑ではあるが、そういった結論に達する。会社を辞めた途端に過労死してしまったわけだ。
 
「……か、悲し過ぎるな……」
 
 俺はまた泣きそうになる。そんなことってあるか。この世界には神様はいないのか。いたとしても、かなりの〇ソだ。さすがに言い過ぎか……。
 
「仕方がない……」
 
 俺は静かに首を振って、自らに言い聞かす。今の俺は『レジェンドオブインフィニティ』というゲーム世界に生きる『キョウ』という人間だ。こちらについても現状確認の必要がある。
 
「年齢は若いな……筋肉質な体は悪くない……ただ、各種ステータスが8……さらに、島の砂浜で、全裸の状態でスタートか……うん」
 
 俺は一呼吸置いて、空に向かって叫ぶ。
 
無理ゲーだろうが!
 
 もしいらっしゃるとしたら、この世界の神様はク〇だ。
 
「いや、ネガティブなことばかり考えるな……ここはポジティブシンキング……」
 
 俺は視線を前方に戻す。水平線が広がっている。そういえば、転生する前にゲームマップの東端にある小島を眺めていたっけ……ということは、今はその小島にいるのではないか? その考えで概ね間違っていないはずだ。
 
 だとすると……確か、近隣の大きな島の管理下に置かれているということだが……つまり、この島には人の手が入っているということになる。ならば野良モンスターと遭遇するというリスクは低いはず。俺は胸を撫で下ろす。しかし……。
 
「……人もいない」
 
 無人島? いや、そんな記述は無かったはず。データをちゃんと見ておくべきだったか……。嘆いていてもしょうがない。少々いやらしいが、ここはメタ的視点で考えてみる。
 
「俺がこのゲームの開発者だったとして……こんな小島に全裸の男を一人だけ配置なんてするか? いや、しない」
 
 俺はすぐ自問自答を終える。そうだ、他にも何人かいるはず。その中には当然……。
 
「……女もいるよな……」
 
 俺はいやらしい笑みを浮かべる。想像がいやらしい方向に膨らむ。
 
「裸だったりして……うへへっ……おっと」
 
 俺は膨らむ股間を抑える。この程度の想像でこうなるとは――前世では、悲しいくらい女性と縁がなかったからな――我ながら情けない。うん……?
 
「……ステータス画面、まだ残っている? どうやって消すんだ? キャンセルとか念ずれば良いのか? ん? 画面が縦になっている?
 
 どういうことだ? いや、そもそも画面が横だったのがおかしいのだが。
 
「ん……?」
 
 今度は画面が斜めになる。いや、どういうことだよ。ステータス画面の位置を修正出来るゲームは結構あると思うが、角度が変わるなんて聞いたこともない。斜め45度からステータス画面をじっくりと眺めたいニーズがあるとは思えん。
 
「あっ……」
 
 また画面が横向きになった。なんだよ……。とりあえず放っておこう……それよりもいつまでもここにいてもしょうがない。島を探索するか……そうすれば、誰かと遭遇する可能性がある。かわいい女の子だったら良いな……美人なお姉さんでも良い。
 
 この『レジェンドオブ』シリーズはキャラのグラフィック造形にも定評がある。端的に言えば、イケメンや美人キャラが多い。比率で言えば、いわゆる「ビジュアルの良い」キャラが8で、「それほどでもない」キャラが2くらいの割合だ。
 
 何を言いたいかというと、前世では女性関係において悲惨な境遇だった俺にも、この世界なら素敵な出会いがあるのでは……? いいや、あるべきだ、絶対。
 
「美人でスタイルの良いお姉ちゃんと……ぐへへ……!」
 
 また画面が縦になった。ん? こ、これはもしや……。
 
「……」
 
 無心になる。股間萎える。画面倒れる。やらしいことを想像する。股間膨らむ。画面縦になる。……間違いない。
 
股間の膨らみ具合とステータス画面の角度変化が連動しているんだよ!
 
な、なんだってー⁉」と言ってくれるノリの良い仲間もいないし、解明したところで限りなくどうでもいい謎だ。なんだ、この仕様……。俺は後頭部を掻く。
 
「うん……?」
 
 俺はようやく気が付く。画面を縦にすれば見やすいじゃん……と。俺はあらためて画面を眺める。どれどれ……。
 
【名前】:キョウ
【種族】:人間
【職業】:無職

 
 まあ、これはいい。全裸の時点で無職以前にヤバい奴だがな。
 
【体力】:∞
【魔力】:∞

 
「むっ……⁉」
 
【力】:∞
【素早さ】:∞
【技量】:∞
【知力】:∞
【精神力】:∞
【運】:∞
 
 
「むむっ……⁉」
 
【スキル】:大量に所持している為、もしくは隠しスキルの為、表示しきれません。
 
「へえっ⁉」
 
 ……どういうことだ? 俺は首を捻る。
 
「ヒャッハー!」
「⁉」
 
 森から鉄砲を手に持った禿頭で小柄な男が飛び出してくる。
 
「野郎ども、準備はいいか⁉」
「オオオッ!」
 
 小柄な男の声に合わせて、その後に続く、ガラの悪そうな連中が声を上げる。連中は白黒の横縞の服を着ている。ひょっとして……?
 
「てめえら囚人を解放してやったのはどこの誰だ⁉」
ジャックの兄貴です‼」
 
 禿頭の男の呼びかけに、ガラの悪い連中が答える。禿頭の男がジャックで、ガラの悪い連中が囚人か。そういえば、この島は流刑地として使われているとか書いてあったな……。監獄かなにかに囚われていたのか。
 
俺様はこの国を盗るぞ!
「オオオオッ!」
「分け前はたっぷりやる! 俺様の手足となって働きやがれ!」
「ウオオオオッツ!」
 
 ジャックの声に囚人たちがうなり声を上げる。
 
「ば、蛮族か……」
「ああん⁉」
 
 あ、マズい。思っていたことをそのまま口に……。
 
「……そこのてめえ、なにか言ったか?」
 
 ジャックが睨んでくる。俺はビビりながらも同じ台詞を繰り返す。
 
「い、いや、蛮族かって……」
素っ裸のてめえに言われたくねえ!
 
 至極もっともなことを言われてしまった。
 
「ははっ……」
「……気に食わねえな……普段なら雑魚は放っておくんだが……おい、誰でもいい、あの野郎をぶっ殺せ。船出にケチをつけやがったからな……金は弾むぞ!」
「へい!」
 
 見るからに屈強そうな男が出てくる。俺より一回り大きい。ナイフを舌で舐め回している。
 
「うっ……」
 
 俺は後ずさりしてしまう。
 
「へへっ……死ね!」
「! おっと!」
「なっ⁉」
 
 俺は男のナイフによる攻撃をあっさりとかわす。やや体勢を崩した男の横顔に右ストレートを繰り出す。
 
「ふっ!」
「!」
 
 横顔を殴られた男は森の方に吹っ飛び、太い木の幹にめり込む。
 
「えっ……?」
 
 囚人連中が困惑する。
 
「お、おい、怯むな! 誰か!」
「へ、へい! そらあっ!」
 
 ジャックに促され、剣を持った男が勢いよく斬りかかってくる。
 
「おっと!」
「なにっ⁉」
 
 俺は剣を右手の人差し指と中指の二本だけで挟んでみせた。『真剣白刃掴み』だな。
 
「ふん……!」
「! け、剣が折れた⁉」
「はっ!」
「‼」
 
 俺の左手での手刀を食らった男は海の方に吹っ飛ぶ。
 
「お、おい、お前!」
「へ、へい‼」
 
 ジャックに促された男が出てくる。パンチやキックの連続攻撃を繰り出してくる。しかし、俺はそれらをことごとくかわす。
 
「……」
「ば、馬鹿な! あ、当たらねえ……」
「ほっ!」
「⁉」
 
 俺のかかと落としが見事に決まり、男は砂浜に首までめり込む。
 
「なっ……」
 
 ジャックをはじめとした連中が皆唖然とする。俺は確信する。
 
「そうか、勘違いだったんだ。各ステータスの数値は8じゃなくて、∞なんだ……!
 
 俺はうんうんと頷く。股間もぶらぶらと揺れる。
「な、なにをわけのわからねえことを!」
 
 ジャックが叫ぶ。まあ、分からないよな、俺も分かっていないんだから……。
 
「……」
 
 俺はジャックたちに歩み寄る。
 
「うっ……」
 
 囚人らが後ずさりをする。数では勝っているのに、一人の俺に対してビビっている。
 
「さてと……」
 
 俺は首元を抑えながら、首を動かし、首の骨をポキポキと鳴らす。特に意味はない。やってみたかっただけだ。「さてと……」という呟きにも意味はない。この後はノープラン。前世では喧嘩をしたことがないからな。あ、カツアゲされたことはあったな……思い出したら腹が立ってきた……。
 
「て、てめえら、ビビるな! 数では有利なんだ! 数人でかかれ!」
 
 ジャックが声を荒げる。囚人らは互いを見合わせる。
 
「ああ!」
「確かに……!」
 
 囚人たちは俺を包囲するように広がる。ジャックが自らの頭を撫でながら呟く。
 
「やっと気付きやがったか……」
 
 囚人たちが俺への包囲を狭めてくる。
 
「抑えるぞ!」
「ああ、動きを塞いじまえばこっちのもんだ!」
「せーの……」
「それっ!」
「おっと!」
「なっ⁉」
 
 四方から俺を捕らえようと、太った囚人たちが一斉に飛びかかってきたが、俺は高くジャンプする。囚人たちが驚く。
 
「な、なんて高さ!」
「落ち着け! 着地の時は無防備だ!」
「そ、そうだな!」
「落下点は……向こうだ! 待ち伏せろ!」
「……よっ!」
「なにっ⁉」
「ほっ!」
「はあっ⁉」
 
 俺は歩くようにして、空中を軽やかに移動する。囚人たちの驚く顔が見える。俺も戸惑っている。
 
「……ん?」
 
 足元にステータス画面よりは小さい画面が表示される。
 
【特殊スキル:空中歩行】を発動しました
 
 これは情報ウィンドウか……それにしても空中歩行とは……空を飛んでいるようなものだ……。特殊スキルか……。
 
「そらっ!」
「ぐえっ⁉」
「それっ!」
「ぶえっ⁉」
 
 俺は空中から降り立つと同時に、囚人たちの顔を踏みつけて回る。思わぬ攻撃を食らった囚人たちは次々と倒れる。一通り踏みつけ終えた俺は着地する。
 
「こんなもんか……」
 
 俺はジャックを見る。
 
「むうっ……」
「どうする? お味方はほとんど倒れたが……」
「ちっ……」
 
 ジャックが舌打ちする。俺は再びジャックに近づく。
 
「どうするかと聞いているんだが……」
「お、お前、名前は?」
「……キョウだ」
「そ、そうか、キョウ、どうだ、俺と組まねえか?」
「……はあ?」
 
 俺は首を傾げる。
 
「お前の強さがかなりのもんだということはよ~く分かった。だがな、強いばかりじゃ世の中っていうのは渡っていけねえんだぜ?」
「悪党が説教か?」
「そんな姿を見たら一言言いたくなるってもんだ」
「む……」
 
 俺は黙り込む。ほぼほぼ全裸だからな。ジャックはニヤリと笑う。
 
「頭はお前でいい。兵隊や金集めは俺に任せろ。一緒にこの国を盗ろうぜ……」
「……」
「どうした?」
俺の生き方は俺自身が決める……!
「! はっ、決裂か! 残念だ! あばよ!」
 
 ジャックが俺に向かって銃を発砲する。だが、俺は慌てなかった。銃弾がゆっくりこちらに向かってきたからだ。情報ウィンドウが表示される。
 
【特殊スキル:スローモーション】を発動しました
 
 そんなスキルまで……俺はデコピンの形を作り、銃弾に向ける。
 
「……ほいっと」
「⁉」
 
 俺のデコピンで弾かれた銃弾がジャックの左胸に当たる。ジャックが倒れる。
 
「あっ……やっちまったか……?」
「……な、なんだてめえ⁉ 銃弾を弾き返した⁉ ばあちゃんの形見の懐中時計が無かったらヤバかったぞ⁉ 何をしやがった⁉」
 
 半身を起こしたジャックが胸ポケットから銃弾のめり込んだ時計を取り出して叫ぶ。
 
「何をって……デコピン……
「⁉ わけのわからねえことを! こ、ここはずらかる!」
 
 ジャックは残りの取り巻きとともにその場を後にする。
 
「あ、逃げた……。しかし……もしかしてあれか? モブキャラじゃなくてバグキャラに転生したってことか? なら別に全裸でも良いか! あっはっはっは!」
 
 生まれて初めての戦闘を切り抜けた俺はテンションが妙に上がってしまい、仁王立ちのまま高笑いをする。

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