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『 2年微能力組!~微妙な能力で下克上!~』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「ふぁ……」
 日光が小さくあくびをする。嵐のような転校初日の翌日、登校している。そこに照美が声をかける。
「日光君、おはよう」
「ああ、おはよう、照美」
「な、名前⁉」
「問題あるのか? 友達ではないか」
「い、いや、別にないけど……」
 照美が鼻の頭を指で擦る。日光が首を傾げる。
「?」
「ちょ、ちょっと、気恥ずかしいというか……」
「恥ずかしいだと?」
「え、ええ……」
「そうか……ンゴンゴガールの方が良いか?」
「良くない。何それ?」
「ニックネームだ」
「金輪際呼ばないでちょうだい」
「親しみを込めたのだがな……」
「込めたから良いってものじゃないのよ」
「ふむ……」
 日光は腕を組む。照美が話題を変える。
「それにしても昨日は驚いたわ」
「ああ、どんな強風を受けても完全にはめくれ上がらない照美のスカートにはな……」
「って、な、なにを言っているのよ!」
「どういう理屈だ? もしかして本当に鋼鉄製か、その制服は?」
「ど、どこを見ているのよ! 普通の制服よ!」
 日光が照美のスカートをガン見する。照美がスカートの裾を抑える。
「気になるからな」
「正直に言わないで」
「時には正直さも必要だとか言っていただろう?」
「時と場合によるのよ」
「難しいものだな」
 日光が苦笑しながら首を傾げる。照美が軽く頭を抑える。
「えっと、なんの話だったかしら……そうそう、昨日の発言よ。1年生の子に向かって啖呵を切ったでしょう? B組を“落ちこぼれ”から“最高の連中”にしてみせるとかなんとか……」 
「そういえばそんなことも言ったな」
「あの……昨日も思ったのだけど……」
 照美が言い辛そうにする。
「ん?」
「本当にそんなことが出来るの?」
「さあな。その場の勢いで言ってしまったところもある」
「そんな……」
「まあ、自らの発言には責任を持たないとな」
「え?」
「だから出来る限りのことはやってみるつもりだ」
「そ、そう……」
「行動を起こす前に現状把握だ」
「現状把握?」
「ああ、俺と照美の微能力を確認しなければな」
「え⁉ わ、私も⁉」
「当然だろう」
 日光は何を今更と言った顔を浮かべる。照美は首を傾げる。
「い、いや、私はちょっと……」
「クラスをより良くするためだ、クラス長として当然の責務だろう」
「それもなし崩し的にそうなったというか……」
「なに?」
「出席番号1番だからとか……そういう理由よ」
「理由になっていないような気がするが」
「昨日も言ったでしょう? モチベーションが低いのよ……ほら見て」
 校舎に入り、階段を上がって、2年B組の教室まできた照美は教室内を指し示す。もうすぐ朝のホームルームだというのに、クラスメイトはまばらにしか登校していない。
「なるほど……」
「皆、おはよう!」
 照美が教室に入って元気よく挨拶をするが、ほとんどまともな返事は返ってこない。照美は日光の方に振り返って、肩をすくめる。日光が腕を組む。
「うむ……」
「昨年度からこういう調子よ」
「よく進級出来たものだ」
「まあ、出席日数などについてはあまりうるさく言われないから。試験などを受ければそれで良し、みたいなね……職員室の皆さまがこのクラスに興味を持っていないとも言えるけど」
「そうか……」
「廊下で話しましょう」
 照美は日光を廊下に連れていく。日光が尋ねる。
「試験の時は、クラス全員が揃うのか?」
「ええ、そうね、ほとんど出席していたはずだわ」
「……ということは各自進級への意思はあるようだな」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「簡単なことだ。どうせこの能研学園も他の学校と大差ないところがあるのだろう」
「ええ? 例えばどこよ?」
 窓から外を眺めていた照美が尋ねる。同じように外を見ていた日光が教室側に向き直る。
「だいたい、リーダーのような生徒が数人いるものだ……その生徒たちが強権的な態度を取っているか、もっと温和な態度を取っているかは知らん……ただ、リーダーシップを持った生徒とは極めて稀な存在だ。他の大多数……言ってしまえば、『その他大勢』の連中はそういったリーダーの取り巻きになること、またはなんらかのつながりを持つことでクラス内での立場を確保する」
「う、うん……」
 日光の淀みない説明に照美が頷く。日光が尋ねる。
「言いたいことは分かったか?」
「ま、まあ、なんとなくは……え? ちょっと待って?」
「なんだ?」
「そのリーダーたちをどうにかするってこと⁉」
「いるんだな、このクラスにもリーダーたちが……」
「あっ!」
 照美が慌てて口を抑える。
「各々のリーダーにやる気になってもらわないといけない。不登校気味では困る」
「……なにが困るのかしら?」
「⁉」
 日光たちが振り返ると、長身で髪の毛を丸めた女性がそこに立っていた。
「あ……」
「そろそろホームルームですよ、教室に入って下さい」
「は、はい……」
 尼さんのように黒い法衣を着た女性は端正な顔をほころばせ、日光たちに教室に入るよう促す。尼さんは挨拶もそこそこに自らの名を名乗る。
「え~今日から正式にこのクラスの担任になりました北闇尼地山(ほくあんにじざん)と申します。以後、よろしくお願いしますね」
 地山は切れ長の美しい目を細めながら、うやうやしく頭を下げる。クラス中がその綺麗な所作を見つめる。
「……」
「……東クラス長」
「は、はい!」
 いきなりの指名に照美は戸惑う。地山はフッと笑う。
「そんなに慌てなくても良いですよ。決めておきたいことがありまして……副クラス長です」
「! 副クラス長ですか?」
「そうです。東照美さん……貴女は無遅刻無欠席の真面目な生徒さんですが、一応代理を務めてもらう人物を決めておかなければなりません」
「は、はあ……」
「理想は男女一人ずつなのですが……」
 地山は教壇からクラスを見回す。照美が言い辛そうに口を開く。
「ご覧のとおり、出席率が良くありませんので……そういった重要事項を決めるのはなるべく全員が揃ってからの方が望ましいかと思います」
「そう言って、結局昨年度は貴女一人にほぼ任せきりだったのでしょう?」
「え、ええ、そうですね……」
「それはとても健全なクラス運営とは言えませんね」
「ご、ごもっとも……」
「というわけで、ここで副クラス長を決めてしまいます」
 地山が生徒名簿を開く。照美が慌てる。
「そ、それは急では⁉」
「あくまでも仮にですよ……」
 地山が照美に向かってウインクする。
「は、はあ……」
「えっと……ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 照美が思わず声を上げる。
「どうかしましたか?」
「い、いや、そんな適当な決め方……しかも尼さんが神様のいうとおりなどと……」
「結構細かいのですね、東さん」
 地山が微笑む。照美がムッとする。
「大事なことですよ!」
「分かっています。ほんの冗談です」
「冗談って……」
 地山は名簿をパンと音を立てて閉じる。
「実は既に決めてあります」
「え?」
「男子の副クラス長は、出席番号18番、仁子日光君!」
「お、俺か⁉」
 日光が戸惑いの声を上げる。照美が口を開く。
「せ、先生! 仁子君は転校してきたばかりです。さすがに急すぎるのでは⁉」
「こういうのは変に先入観を持たない方が良かったりするのです」
「そ、そうは言っても……」
「先ほど、廊下でお話されていたのを耳に挟みましたが、仁子君、なかなかやる気は十分なようなので……」
「やはり聞いていたか……」
 日光が小声で呟く。地山が尋ねる。
「仁子君、引き受けて下さいますね?」
「ああ、分かった……」
 日光は頷く。地山は話を続ける。
「女子の副クラス長ですが……出席番号25番本荘聡乃(ほんじょうさとの)さん」
「わ、私……?」
 クラスで窓から二列目の最後方に座る気弱そうな小柄な女子が首を傾げる。前髪が長く、両目がほとんど隠れている。地山が笑顔で告げる。
「本荘さんは学業優秀ということで選ばせて頂きました」
「い、いや、私にはとても……」
 聡乃は立ち上がって、両手を振る。
「あくまでも仮ですから、そんなに構えなくても大丈夫ですよ。どうしても無理だということなら、他の方と代わってもらいますから。お試し期間ということでよろしくお願いします」
「は、はあ……」
 聡乃はここで何を言っても無駄だということを悟り、大人しく座った。地山が照美の方に改めて視線を向ける。
「……以上の人選ですが、いかがでしょう?」
「……仮なのですよね? それならば構いません」
 照美も渋々ながらも頷く。地山が告げる。
「二人の副クラス長には就任のご挨拶を頂きたいところですが、さすがに急ですからね、明日のホームルームでお願いしようと思います。お二人とも、考えておいて下さい」
「むう……」
「はあ……」
「それでは本日も授業を頑張りましょう!」
 放課後、照美が日光に声をかける。
「どうだった? 初の授業は?」
「能力研究学園だというから身構えていたが、案外普通じゃないか。正直拍子抜けも良い所だぞ」
「基本的には普通の学校だからね……」
「まあいい、帰るか」
 日光と照美は教室を出る。校門を出た辺りで照美が尋ねる。
「ねえ? 現状把握とかなんとか言ってなかった?」
「そうだったな……俺の微能力は『中二病』、眷属や同志、仲間、または友達を増やすことによってその力を引き出すことが出来る……」
「左眼が緑色だったのは?」
「あれは日によって変わる」
「え? 変わるの?」
「ああ、それによって、引き出される中二病の能力も変化するのだ」
「そ、そういうものなのね……」
「それで、照美が『プチ炎上』か……スイッチとして語尾に『ンゴ』を付けなければならないのがややネックだな」
「ややじゃなくて、大分ネックよ」
「そういうのも考えようだ。ンゴを上手く活用する方法を模索すれば良い」
「嫌よ、そんな模索……あら?」
 照美は聡乃の姿を見つける。


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