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『同好怪!?』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「……」
 俺は言われた通りに夜の校舎へとやってくる。我ながら何をやっているんだか……。こうしてまた貴重なプライベートの時間を削ってまでさ。
「……来たな」
「村松っち、こんばん~♪」
「! お、おお……こ、こんばんは……」
 暗がりから紅蓮と雷電が現れる。
「……」
 雷電が俺のことをじっと見つめる。
「ど、どうした、雷電?」
「……今日は挨拶噛まないんだね」
「そ、それがどうした?」
「つまんないの」」
 雷電が唇をプイっと尖らせる。
「つまんないってなんだ、つまんないって……」
 俺はムッとする。
「おもしろくないってこと」
「それは分かっている。というかな……」
「ん?」
「また言われるがままにこうして来てしまったんだが、もう下校時間はとっくに過ぎているだろう。さっさと家に帰れ」
「え~」
「だから、え~じゃないって。帰るんだ」
「そういうわけにはいかないんだよ~」
「なんでだよ?」
「なんでって……ねえ、龍虎っち?」
 雷電が紅蓮に対して視線を向ける。紅蓮が口を開く。
「……事が済んだら大人しく帰るさ」
「事が済んだらだって?」
「ああ」
 紅蓮が頷く。俺は紅蓮を指し示す。
「紅蓮、お前さんはここにいるじゃないか」
「そうだな」
「……ということは、昨日のような怪獣騒ぎはないんだろう?」
「……意外と鋭いじゃねえか」
 紅蓮が腕を組む。
「いや、鋭いとかって言われてもな……」
 俺は後頭部をポリポリと掻く。
「そこに気が付くとはなかなか出来ることじゃねえぜ」
「大体の察しはつくだろうが」
「そうか」
「そうだよ……とにかく早く帰るぞ、また車で送るから」
「……だから、そういうわけにもいかねえんだって……」
 紅蓮は首を左右に振る。俺は戸惑う。
「なんだよ、あまり困らせないでくれよ……」
「顧問なんだからある程度は付き合ってもらうさ」
「だから顧問って言われてもな……」
 俺は鼻の頭をポリポリと掻く。
「まだグダグダ言っているのかよ」
 紅蓮が呆れた目を向けてくる。
「そりゃあ言うだろう」
「昼間に図書室で説明はしただろう?」
「ああいうのは説明とは言わないぞ」
 俺は首を横に振る。
「ええ?」
「こっちがええ?だ」
「まさか……納得してねえっていうのか?」
「あれで納得出来るわけがないだろう」
「なんでだよ」
不明な点が多すぎるんだよ
「それくらい別に良いだろうが」
「別に良くない」
 俺は再度、首を横に振る。
「だってよ……」
「だって?」
オレらにもよく分からねえんだからしょうがねえじゃん
 紅蓮が両手を大きく広げる。今度は俺が呆れた目を向ける。
「……だから、そんなことに巻き込まないでくれよ……」
「教師は困っている生徒の為に力を尽くすもんだろう?」
「この場合、教師の俺の方が困っているよ」
「う~む……困ったな」
 紅蓮が再び腕を組んで、首を捻る。だから困っているのは俺の方だっての。
「とにかく……」
「……まあ、実際に見てもらうしかねえか……」
「実際に? なんだ、また怪獣か?」
「そうそうは出ねえよ。ああいうのはたまにだ」
「そ、そうなのか……」
 たまには出るのかよ。雷電が口を開く。
「村松っち……」
「なんだよ?」
「ビビっているの?」
「ああ、ビビっているよ」
「素直だね」
「それはそうだろう。また得体の知れないことに巻き込まれるかもしれないんだから」
「大丈夫だよ、巻き込んだりしないって~」
「そ、そうなのか?」
「ああ、監督してくれればそれでいいさ……」
 紅蓮が呟く。
「え? ……おわっ⁉」
 廊下の窓ガラスが一斉にガタガタと揺れたかと思うと、一部が割れる。地震か? これは結構大きいな……って、そうじゃなくて、紅蓮たちを避難させないと……。
「来やがったな……」
「そうだね~」
「お前ら、窓から離れて……!」
「ブオアアッ!」
「はあっ⁉」
 俺は驚く、割れた窓から大きい火の玉のようなものが現れたからだ。こんな生物は見たことがない。その火の玉のようなものが再び咆哮する。
「ブオアアアッ!」
「な、なんだ⁉ 『怪奇現象』ってやつか⁉」
「……それでも良いですが、我々は『怪異』と呼んでおります……」
 暗がりから疾風が眼鏡を抑えながら現れる。
「は、疾風! お前もいたのか⁉」
「ええ、こういうのは私の担当なものですから……『変化』!」
「!」
「シャアアッ!」
「ええっ⁉」
 疾風が目の前で鎌のような爪をしたイタチに変化したので、俺は度肝を抜かれてしまう。
「シャアアア……」
「な、なんだ? イタチ?」
「ちょっと違うな」
「え?」
 俺は紅蓮の方に振り返る。
「手に注目~♪」
「手?」
 俺は雷電の言葉を受け、疾風が変化した姿をもう一度見つめる。
「分かったか?」
「……鎌だな」
「ああ、そうだ」
 紅蓮が頷く。
「……ひょっとして、かまいたちか?」
「ああ」
「大正解~♪」
 紅蓮がさらに頷く横で、雷電が拍手する。
「かまいたちって……」
「本人はお気に召してないようだけどな」
「そ、そうなのか?」
「うん、『あまりにも安易な判別です……』だってさ」
 俺の問いに雷電がキリっとした口調で頷く。
「両手が鎌で、姿がイタチみたいなんだから、他にねえだろうと思うんだが……」
 紅蓮が後頭部をポリポリと搔く。
「『怪異なのですから、もっとミステリアスな感じが欲しいですね……』とも言っていたね」
 雷電がキリっとした口調を続ける。
「くくっ、眼鏡をクイっとさせてな……」
 紅蓮が笑う。
「……」
 疾風がこちらに視線を向けてくる。
「おおっと……聞こえていたのかな?」
 雷電が自らの口元を両手で抑える。
「へっ、別に聞こえていたって構わねえだろう」
「いやいや、晴嵐っちも乙女心というものがあるからさ……姿についてとやかく言われるのは良い気がしないんじゃないのかな?」
「そんなことを言ったらオレなんか怪獣だぜ……」
 紅蓮が苦笑する。
「まあ、龍虎っちは概ねイメージ通りだから良いんじゃない?」
「良いんじゃないってなんだよ」
「ふふっ……」
「ふふってなんだ。大体どういうイメージなんだよ」
「いや、とっても似合っているよ」
「あんまり嬉しくねえぞ」
「こう……粗野で乱暴そうな感じがね」
「せめて野性的で暴力的って言え」
 それで良いのか、紅蓮よ……。雷電が再び口を開く。
「ワイルド&バイオレンスって感じが……」
「英語で言っても無駄だ」
「騙されないか……」
「馬鹿にすんなよ……」
「シャアアアッ!」
 疾風がなにやら唸り声を上げる。俺は戸惑う。
「ど、どうしたんだ?」
「……!」
 疾風が両手の鎌を振る。あの姿になると喋れないようなので、ジェスチャーになる。
「あ~」
 雷電が頷く。
「分かったのか、雷電?」
「うん、まあ、大体……」
「疾風はなんと言っているんだ?」
「……この鎌の色、春の新色なんだけど、どうかしらってさ?
「はあ?」
「シャアアアッ‼」
「うわあっ⁉」
 疾風が両手の鎌を突き上げて激しく上下させる。俺は驚く。
「これは激おこだね……」
「てめえが怒らせたんだろうが……」
 紅蓮が呆れた視線を雷電に向ける。
「お、怒らせたってどういうことだ?」
「金剛が正しく伝えていないってことだよ……」
「そ、そんな……何故そんなことを⁉」
「ちょっとしたジョーク……」
「おいおい……」
 俺は頭を抱える。ジョークなんかを聞いている場合があったら避難した方が絶対に良い。
「うん、どうした村松ちゃん?」
「推測だけど、疾風は俺たちが巻き込まれないように配慮してくれているんだろう?」
「ああ、まあ。そうなるか……」
「そうだろう? だったらその指示にはありがたく従うべきだ」
「まあ、そんなに気にしなくてもいいさ」
「ええ?」
「晴嵐は周囲に傷が付かないように気を使っているさ。変に動き回った方が危ねえよ」
「龍虎っちに同じ~♪」
 雷電が手を挙げる。そ、そういうものなのか……。
「大体においてだな……『怪異』同士の戦いって言うのはほとんど一瞬で決着が付くんだよ」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ、ほら、見て見ろ……」
「ブオアアアッ!」
「シャアアアッ!」
「ブオアアアアッ!」
「……な?」
「いやいやいや!」
 明らかに相手の怪異……火の玉か? 火の勢いを増してきていますけれど⁉ 『怪異』同士の戦いはほとんど一瞬で決着が付くって言ってなかった⁉
「思ったよりも長引いているね……」
「晴嵐の巻き起こす風を相手は嫌がっているからな……いつものように長期戦かもな」
「おいおいおい!」
「なんだ、村松っちゃん」
「一瞬で決着が付くって言ってなかったか?」
「相手が雑魚怪異の場合な。今回はそうでもねえようだ……」
「そ、そんな……!」
 疾風が体を回転させて、旋風を起こしたというか、旋風そのままになる。
「シャアアアッ‼」
「ブオアアアッ⁉」
 疾風が相手の火の玉に接近し、火の玉の火をすべて消し飛ばす。火の玉は消え去る。
「お、終わった……のか?」
 疾風が元の人間の姿に戻り、俺たちのところに歩み寄ってくる。そして、俺に微笑む。
「……お疲れ様です。今回の活動内容はこんな感じです
「え、ええ……」
 俺は只々ひたすら困惑するしかなかった。

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