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『キラキラ!~美人七姉妹とのドキドキ同居生活!?※キラキラしたものとは言ってない~ 』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「ああ、君もそこに座りなよ」
「あ、はい、失礼します」
 エメラルドの言葉に従い、山田が長テーブルの短い辺に置かれた椅子に座る。それを見て、エメラルドが声を発する。
「それでは……いただきます」
「いただきます」
 山田と向かい合う場所の椅子に座ったエメラルドに続き、左右両側に座った六人の妹たちが食前のあいさつをする。昼食以外、朝食と夕食はよほどのことが無い限りは、七姉妹揃って食事をすることがこの家のルールになっているらしい。七人は山田の用意した朝食をそれぞれ口に運ぶ。
「うん、美味し~い♪」
「へ~やるじゃん」
 トパーズがほっぺたを抑え、ダイヤモンドが感心して頷く。
「……食事はトパ頼みになっていたけど、どうかしら?」
「うん、エメちゃん、これならわたしの代わりを十分任せられるわ~」
 エメラルドの問いにトパーズが右手の親指をグッと突き立てる。エメラルドが笑う。
「それはなにより」
「最近お店のお手伝いが忙しくなってきたから、みんなの食事を用意するのはなかなか難しくなるからどうしようと思っていたけど、これで問題クリアね~」
「まあ、ウチは腹が膨れれば、基本なんでもオッケーだけどね」
「ダメよ、ダイちゃん、ちゃんと栄養の取れた食事を取らないと~」
 トパーズが左隣に座るダイヤモンドを注意する。
「う~ん、そうは言ってもね~」
「酒飲んだ後とかどうしても辛いんだよな……」
 ダイヤモンドと、その左隣に座るアクアマリンが苦い表情になる。
「生活リズムがめちゃくちゃな人たちは嫌だわ……」
 二人の斜め前に座るアメジストが呆れ気味に呟く。ダイヤモンドがおどける。
「夜型ってやつだよ」
「美容と健康に悪いわ。私だったら考えられないわね」
「お、おめえだって、夜の仕事とかあるんじゃねえのか?」
「私、夜9時以降の仕事は基本NGにしてもらっているから」
 アメジストがアクアマリンの問いに答える。
「そ、そんなわがままが……」
「通るのよ、結果を出しているから」
「ぐっ……」
 アメジストの言葉に対し、アクアマリンが黙り込む。それを聞いたアメジストの右隣に座るサファイアがボソッと呟く。
「結果……」
「? どうかしたの? サファちゃん?」
「なんでもない……ごちそうさまでした」
 サファイアは右隣に座るオパールの問いかけに首を振り、食事を終える。
「早っ」
「……行ってきます」
 サファイアが皆に頭を下げる。トパーズが手を振る。
「いってらっしゃ~い♪」
「気をつけて」
「はい……」
 エメラルドの言葉にサファイアは静かに頷く。
「ちょ、ちょっと待ってよ! サファちゃん!」
「……なんですか、オパ」
「せっかく同じ学校になったんだからたまには一緒に登校しようよ!」
「断る。自分には自分のペースというものがありますから……」
「あ、行っちゃった……」
 オパールが残念がる。アクアマリンとダイヤモンドが首を傾げる。
「自分のペースねえ……」
「サファはちょっとばかりストイック過ぎないかな?」
「……貴女たちが怠惰過ぎるのよ」
「んだと?」
「ははっ、言われちゃった」
 アメジストの言葉にアクアマリンはムッとなり、ダイヤモンドは苦笑する。
「はいはい、みんな仲良くね~」
 トパーズが優しく声をかけ、場を和ませる。
「……ごちそうさま」
 エメラルドが席を立つ。他の皆も食事を終え、それぞれ席を立つ。
「皆、慌ただしいね~食後のお茶を所望したいんだけど」
「あ、はい……」
「ダメよ、ダイちゃん、彼も学校なんだから、それくらい自分で用意出来るでしょ?」
 トパーズがたしなめる。ダイヤモンドが唇を尖らせる。
「ちぇっ……」
「行ってきま~す!」
「行ってきます……」
 オパールと山田が揃って家を出る。
「いや~こうしてパイセンと揃って登校するなんてなんだか不思議な気分です。もう慣れました?」
「いや、まだ実質初日なので……」
「あはっ、そうですよね~」
「しかし……」
「ん?」
「あのような立派なビル住まいなのに、徒歩や電車通学なんですね……」
 山田は自分が出てきたビルを眺めながら呟く。オパールが首を傾げる。
「え? どういうことですか?」
「いえ、車で送り迎えしてもらうとかじゃないんだなと思いまして……」
「あ~いや、あのビルはビジネスホテルを買い取ってリフォームしたものなんですけど、お金は全部エメお姉ちゃんが出したんです」
「はあ……」
「お姉ちゃんは中学卒業後、ほとんど一人で会社を立ち上げちゃった凄い人なんですけど、教育方針?みたいなものがありまして……例えばボクらに必要以上のお小遣いは与えないとか、そういうことです」
「ああ……」
「だから、タクシー通学とかもってのほかです。学費などは出してくれてますけど、『早く自分で稼げるようになれ、アタシを頼るな』っていうのが、昔からの口癖です」
「なるほど」
「そんなこと言ってますけど、エメお姉ちゃん、仕事以外はからっきしなんですよ。家事はほとんどトパお姉ちゃん頼みだったし、パイセンにも来てもらいましたからね。いやいや、自分はめっちゃ頼ってんじゃん!」
「ははっ……」
「でも、ボクたちみんな、エメお姉ちゃんのことを尊敬していますよ……多分」
「多分って」
「あははっ、少なくとも感謝はしていると思います。だって普通、温泉付きの物件なんてなかなか住めないですからね。そう思いません?」
「ええ」
 山田とオパールは色々な話をしながら学校へ登校した。
「おい、どういうこったよ、山田!」
 窓際の席についた山田に茶髪の男子生徒が話しかけてきた。
佐藤か……」
 頬杖をついていた山田は佐藤をチラッと見ると、すぐに窓の外に視線を移す。
「いや、無視すんなよ!」
「……反応しただろう?」
 山田は視線だけを佐藤に向ける。
「一瞥って言うんだよ、そういうのは」
「難しい言葉をよく知っているな」
「お前の日々のリアクションで覚えたよ」
「俺のお陰で一つ賢くなったわけだ。良かったな」
 山田は再び窓の外に視線を移す。
「いや、だからよ……」
「成績が上がったら、ラーメンでも奢ってくれ」
「だから、そうじゃなくてよ!」
「……なんだ」
「なんでいつも興味なさそうな反応すんだよ」
「なさそうなっていうか、ない」
「ないのか」
「ああ、これっぽっちもな」
 山田は右手で頬杖をつきながら、左手の指で小さな丸をつくる。佐藤が戸惑う。
「そ、そんなに……なんでだよ」
「お前が語尾に!を付けてくるときはロクでもない話題だからな」
「!を付けてるって、!が見えるのかよ」
「……言い換えれば、口角泡を飛ばす勢いの喋り方の時だ」
「こ、こうかく……?」
「良かったな、これでまた一つ賢くなれる」
 山田は三度窓の外に視線をやる。
「って、そうじゃなくてよ!」
「……なんだ」
 山田がうんざりしながら頬杖を外し、佐藤に顔を向ける。
「さっきのはどういうこったよ!」
「?」
 山田が首を傾げる。
「校門の辺りでこの学校きっての美人、天翔サファイア先輩と、その妹、オパールちゃんと楽しそうに会話していただろ!」
「していたか?」
「しらばっくれんな、ネタは上がってんだ!」
「お前もどうでもいいところで目ざといな……」
「サファイアとオパールとガーネットが揃ってんだ、そのキラキラぶりが嫌でも目に入ってくるだろうが」
「三人寄ればなんとやらか……」
 山田が苦笑する。
「ていうか、今日はガーネットイジりに怒らないんだな?」
「イラつきよりもの珍しさが勝ったからな。文字通りのキラキラネームの持ち主が同じ学校に集まるとは……」
「サファイア先輩のことは知っていただろう?」
「ああ。ほとんど伝聞だが」
「新聞部がお前らの対談を企画したのはマジなのか?」
「秒で断った」
「なんで?」
「何故にして自らイジられる要素を積極的に増やさねばならん」
「まあ、それはいいとして……先輩はともかく、オパールちゃんとどこで知り合った?」
「……たまたま通学路が一緒だった」
「嘘だ」
 佐藤が食い気味に山田の言葉を嘘と決めつける。
「……何故そう思う?」
「天翔家は三茶方面だ。お前の家は全然別方向じゃねえか」
「……」
 住み込みで家政夫のアルバイトをすることになったという恰好のネタを提供するのはあまりにも危険かつ何の得もないということはすぐに分かった。山田は沈黙を選ぶ。
「なんで黙る?」
「……何故彼女らの家の方角を知っている?」
「なにかと有名だからな。さすがに細かい住所までは知らねえけど」
「そうか……もう一つ、先輩はともかく、何故入学したばかりの彼女のことを知っている?」
「目立つ異性はすかさずチェックするだろう? 学校生活の定番だぜ」
「俺には無い考えだ……」
 山田が困惑する。佐藤が端末を取り出して言う。
「かわいい女の子は名前だけでなく、クラス、部活、友人関係、趣味や特技、身長、体重、座高、スリーサイズまで調べる」
「…………」
「なんだよ?」
「お前……キモいな」
「さすがに座高は冗談だ」
「違う、そこじゃない」
「体重やスリーサイズ云々ももちろん冗談だ」
「多少だが安心した」
「しかし、天翔オパール……あの子は目立つからな、色々と話は入ってくるさ。いくらこの学校が進学校のわりに校則ゆるゆるだとはいえ、あのオレンジ色の髪はかなり目を引くぜ。ルックスやスタイルも込みで」
「そう言われるとそうだな……」
「……で、どうなんだ? オパールちゃんとの関係は」
「たまたまきっかけがあって話していただけだよ」
「たまたまのきっかけってなんだ?」
「曲がり角でぶつかった」
「そんな昭和みたいなことあるわけないだろうが」
 昭和でも無かったとは思うが、とにかく同居していることは黙っておいた方が無難だろう。色々騒がれるのは御免だ、と山田は考え、再び沈黙を選ぼうとした。
「あ! いたいた、山田パイセン~ちょっとお願いがあるんですけど~」
「!」
 オパールが廊下から声をかける。佐藤のみならず周囲の視線が集中し、山田は頭を抱える。

第3話↓

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