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執着第一
「あの子の成長を見たい」
彼が生に執着する第一の希望がそれだった。
彼にとってあの子と呼ぶ存在はそれだけ大きかった。
晩年の彼の生きる目的、糧、執着、どんな言葉も当てはまり、どんな言葉も当てはまらないほどに。
彼は、酒を飲みながら良く口にしていた。
後、何年生きればこの子の思い出の中で俺は生きていられるのだろう?と。
それを聞かれる度に私は、忘れるなんてないよと曖昧に答え、彼は、そうか、と短く返した。
別れを迎える3日前。
私は、あの子を彼の眠るベッドの前に連れて行った。
あの子は、嬉しそうに彼の痛んだ髪を撫でる。
彼は、もう言葉で表現出来なくなったが表情だけは小さく動かすことが出来た。
嬉しそうだった。
そして彼は眠りについた。
それから数年後、成長したあの子に彼のことを覚えているかを聞いた。
「ぼんやりとだけど覚えてるよ」
私は、小さく涙した。
彼の第一の執着は報われたのだ、と。
執着第一
398文字
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