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発達性協調運動症(DCD)を知り、子どもを支える方法

 あなたの子どもが日常の動きで苦労しているなら、発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder : DCD)が原因かもしれません。この記事では、DCDの基本から、効果的なリハビリ方法までを分かりやすく解説します。お子様の「できる!」を増やし、日々の生活を豊かにするための一歩を踏み出しましょう。


1.発達性協調運動障害(DCD)とは

 発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder : DCD)は、身体的な障害やその他の医学的な要因がないにもかかわらず、年齢に応じた運動技能の習得が遅れていることを特徴とする状態です。この障害は、子どもの学習や日常生活におけるさまざまな活動に影響を及ぼす可能性があります。

DCDの基本的な理解と特徴

 DCDの子どもたちは細かい手の動きを要する運動技能や、体を大きく動かすような運動技能に苦戦します。これは脳の運動計画や身体の協調的な動きが上手く機能しないために起こります。例えば、DCDのある子どもはボタンを留めるのに苦労したり、字を書く速度が非常に遅かったりします。スポーツや遊びにおいても、他の子どもたちと同じようにうまく動けないことが多いです。DCDの影響は長期間に及ぶ可能性がありますが、適切な支援や介入によって子どもたちの技能を改善し、日常生活での困難を軽減することができます。重要なのは、子どもたちが自信を持って新しい技能を学び、試す機会を持つことです。DCDを理解し、その特徴を把握することは、子どもたちが直面する課題に共感し、適切な支援を提供するためにとても大事なことです。

DCDとただの不器用さの区別

 DCDと単なる不器用さとの間には明確な違いがあります。DCDは医学的な診断基準に基づいて識別されます。これには、年齢に不相応な運動の協調性の問題、日常生活への影響が著しいこと、他の医学的状態では説明できない運動スキルの遅れが含まれます。例えば、同年代の子どもたちが容易にこなす着替えやボタンの留め外し、正しくペンを持つことなどの基本的な動作が、DCDを持つ子どもにとっては困難となります。このような困難は、単に「不器用」という言葉には留まらない深刻なものです。DCDの診断は、専門家による詳細な評価と観察に基づいて行われ、単なる不器用さとは区別されます。不器用さは一般的に一時的で、特定のスキルや状況に限定されることが多いです。これに対し、DCDはより広範な日常生活のスキルに影響を及ぼし、持続的です。子どもが新しいスポーツを始めた時に一時的に不器用さを示すのは普通のことです。しかし、DCDのある子どもは、慣れ親しんだ活動や長期間練習しても、依然として運動の困難さを経験します。したがって、ただの不器用さとDCDとは、持続性、影響の範囲、日常生活への影響の度合いにおいて明確に区別されます。DCDとただの不器用さを区別することは、子どもたちが直面する困難に対して適切な理解とサポートを提供するために不可欠です。正確な診断と理解により、子どもたちは必要な支援を受け、その能力を最大限に発揮することができるようになります。

参考:厚生労働省「DCD支援マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001122260.pdf

早期支援の意義

 DCDの影響は幼児期から青年期移行にまで及ぶこともあり、早期支援の重要性が示唆されています。DCDは5~11歳の子どもの約5~6%に見られます。早期には歩き始めや発語の遅れ、日常生活での自立の遅れなどが兆候として現れ、学童期以降には学習障害の併発や不登校、引きこもりといった心理社会的な問題へと発展することも少なくありません。DCDは診断が難しい発達障害の一つであり、その困難さが他者に理解されにくいことから、時には不適切な対応が取られることもあります。これにより、子どもたちのメンタルヘルスが悪化し、不登校などの深刻な問題につながる恐れがあります。このため、早期支援が非常に重要です。早期にDCDの兆候を見つけ出し、適切な支援を行うことで、子どもたちの協調運動機能の発達を促進し、苦手な活動を克服する手助けをすることが可能です。特に、小脳の発達が急激に進む幼児期に介入することで、効果が最大化されると考えられています。早期介入により、二次障害の予防も期待できるため、DCDの早期支援は子どもたちの健やかな成長にとって重要と言えます。
 

2. リハビリのアプローチと練習方法

 DCDを持つ子どもたちのリハビリテーションでは、日々の練習と正しいアプローチが成功の鍵です。ここでは、特に有効なリハビリのアプローチと練習方法をいくつか紹介します。

スモールステップ: 複雑な課題は小さく分ける

 スモールステップを利用したアプローチとは、複雑な課題をより小さな、管理しやすいステップに分割する方法です。これにより、子どもは一度に1つの新しいスキルに集中でき、成功体験を積み重ねやすくなります。例えば、自転車に乗るスキルを学ぶ場合、まずペダルのない自転車でバランスを取る練習から始め、次にペダルを漕ぐ練習、最後に方向転換やブレーキの練習を加えるなど、段階を追って練習を進めていきます。このアプローチにより、子どもは達成感を感じやすく、自信を持って次のステップに進むことができます。徐々に複雑な技能へと進むことで、学習過程がスムーズになります。

毎日の練習の重要性: 継続的な練習による技能の習得と維持

 継続的な練習は、習得した技能を維持し、さらに向上させるために不可欠です。毎日少しずつでも練習を行うことで、身体が正しい動きを覚え、自然とできるようになります。日常生活の中で練習を取り入れることが継続の鍵です。例えば、食事の時間にはフォークやスプーンの使い方を練習したり、着替えの時間にはボタンのかけ外しを練習するなどです。毎日の練習を通じて、子どもは徐々に習得した技能を身につけ、日常生活での自立を促進することができます。継続は力なり、という言葉が示すように、小さな練習の積み重ねが大きな成果を生み出します。

子どもが楽しめる練習: ゲームや遊びを通じた学習の促進

 学習をゲームや遊びに組み込むことで、子どもたちは楽しみながら技能を習得できます。遊びを通じて学ぶことは、子どものモチベーションを高め、学習効果を向上させることができます。例えば、鬼ごっこやリレー、障害物競走など積極的に体を使うような活動は、子どもたちにとって楽しく、同時に身体的な協調性を養う良い機会になります。遊びを通じて技能を習得することで、子どもたちはプレッシャーを感じることなく、自然な形で学習を進めることができます。このようなアプローチは、子どもたちの学習意欲を持続させる鍵となります。

 DCDを持つ子どもたちのリハビリテーションには、適切なアプローチと継続的なサポートが必要です。スモールステップと、毎日の練習、子どもが楽しめる練習を取り入れることで、子どもたちは自分のペースで技能を習得し、自信を持って日々の挑戦に取り組むことができるようになります。

3. 遊具やゲームを利用したリハビリ

 DCDを持つ子どもたちのリハビリには、前述のように遊び心を取り入れることが非常に効果的です。公園のブランコやアスレチック遊具は、これらの子どもたちにとって、楽しみながら身体能力を高める絶好の機会を提供します。

公園のブランコやアスレチックを使用した楽しくて多様な練習

 公園の遊具は、子どもたちが自然と身体を動かし、バランス感覚や協調性を養うのに役立ちます。ブランコを使ったり、アスレチック遊具で遊ぶことで、運動能力だけでなく、自信や社会性の向上にもつながります。例えば、ブランコを使った活動では、子どもたちは自分の重心の位置をコントロールすることやタイミングよく体を動かす感覚をつかむ必要があります。また、アスレチック遊具では、登る、跳ぶ、ぶら下がるなど、さまざまな動作が求められ、全身の筋を使った総合的な運動の練習になります。このような遊びを通じて、自然と身体能力を高めることができるだけでなく、運動の楽しさを知ることができます。遊具やゲームを利用したリハビリは、子どもたちにとって魅力的で、継続しやすい練習方法となり得ます。
 遊具やゲームを取り入れたリハビリは、子どもたちにとって楽しいだけでなく、身体能力を高める効果的な手段です。このアプローチを採用することで、子どもたちは遊びの中で自然と身体を動かし、様々なスキルを身につけることができます。また、この方法は子どもたちのモチベーションを維持しやすく、長期的な練習にもつながります。

4.専門機関による支援

 DCDを持つ子どもたちやその家族にとって、適切な支援はその成長と発達において非常に重要です。専門機関では、多岐にわたるサービスを通じて、子どもたちのニーズに応えています。

療育センターとは

 療育センターは、障害を持つ子どもたちに対して、医療や教育、福祉サービスを提供する施設です。ここでは、子ども一人ひとりの特性に合わせた個別の支援計画を立て、専門家チームが総合的なサポートを行います。これにより、子どもたちの自立や社会参加を促進し、家族への負担軽減を目指します。

参考:LITALICO発達ナビ「療育センターとはどんな施設?児童福祉法における役割、対象、利用方法と費用などをご紹介します」
https://h-navi.jp/column/article/35026136

DCDに対する外来でのリハビリ

 療育センターでは、理学療法士や作業療法士などの専門家が、子どもたちの運動機能を高めるためのトレーニングを提供します。これにより、日常生活で必要な協調運動能力の向上や、学校生活での適応力を高めることが可能になります。また、自宅での練習方法や環境設定の工夫などについてもアドバイスをします。

訪問支援

 子どもたちの多くは日中、保育園や学校といった集団生活の場にいます。集団生活への適応は、その後の社会的な成長に重要な影響を与えます。療育センターでは、子どもたちがより良い集団生活を送れるように、保育所や学校への訪問支援を行います。専門のスタッフが現地を訪れ、教職員へのアドバイスや子どもへの直接支援を提供することで、子どもたちが安心して過ごせる環境作りをサポートします。

 専門機関による支援は、DCDを持つ子どもたちの能力向上と社会参加を促進するために不可欠です。療育センターをはじめとするこれらの機関は、子どもたち一人ひとりに合わせたサポートを提供し、彼らの可能性を最大限に引き出す役割を果たしています。

まとめ

 日常の小さな動作で苦労しているお子様がいる場合、その原因の一つとして発達性協調運動症(DCD)が考えられます。DCDは、医学的な状態や他の身体的な障害がないにもかかわらず、年齢に応じた運動技能の発達が著しく遅れる状態を指します。この障害を持つ子どもたちは、細かい手の動きや体全体を使った活動に苦労することが一般的です。

 DCDの理解と適切な支援が重要です。適切な介入を受けることで、子どもたちは新しい技能を学び、自信を持って日常生活に取り組むことが可能になります。リハビリのアプローチには「スモールステップ」が有効です。これは複雑な課題をより小さく、管理しやすいステップに分割することであり、子どもが一つずつ新しいスキルを習得することを手助けします。また、毎日の練習が技能の維持と向上に不可欠であり、日常生活の中での練習を取り入れることが推奨されます。

 遊びを通じた学習も効果的です。ゲームやアスレチック遊具を利用したリハビリは、子どもたちが楽しみながら運動技能を養うことができる方法です。公園のブランコや滑り台などは、バランス感覚や体の協調性を自然と高めるのに役立ちます。

 専門機関によるサポートも重要な役割を果たします。療育センターなどでの専門家による外来リハビリ、学校や保育所への訪問支援など、子どもたちとその家族が直面する様々な課題に対応したサポートが提供されます。これにより、子どもたちは適切な介入を受け、その能力を最大限に引き出すことができるようになります。

 DCDの早期支援は、子どもたちの健やかな成長と発達にとって非常に重要です。家族や教育者、医療専門家が連携し、子ども一人ひとりのニーズに合わせたサポートを提供することで、子どもたちは自分の「できる!」を増やし、より充実した日々を送ることが可能になります。

参考文献:
厚生労働省「DCD支援マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001122260.pdf

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