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子どもの運動を支える感覚の力:感覚機能を高める遊び4選

「感覚機能がどのように運動に活かされているかわからない。」
「感覚機能を高めたいけどどうすればいいのかな。」
そんな疑問を感じたことはありませんか?

小児理学療法士として働き始めた頃の私も同じような疑問を持っていました。その後、療育センターで10年以上勤務する中で多くの子どもたちと接し、一児の父としても日々子どもの成長に向き合う過程で、感覚機能への支援の重要性を実感してきました。

この記事では、感覚機能がどのように運動に役立つかを解説し、感覚機能を高めるための具体的な遊びを紹介します。視覚、前庭感覚、体性感覚の役割をわかりやすく説明し、日常のリハビリや家庭で実践できる遊びを提案します。

これらの知識や方法は実際にリハビリに取り入れて成功を収めているものでうす。また、自宅での遊びとしても多くの家庭で好評を頂いています。感覚統合理論などの科学的根拠に基づいたアプローチなので信頼性も高いです。

この記事を読むことで、感覚機能の重要性を理解し、遊びの中に感覚機能を高める要素を盛り込むことができるようになります。子どもたちの「できた!」という成功体験を増やし、運動能力の向上をサポートしましょう。

ぜひ、この記事を参考にして、感覚機能への支援を始めてみませんか?
子どもたちの成長を一緒にサポートしていきましょう。


1.姿勢制御に関わる感覚

 姿勢制御は日常生活を送る上で不可欠な機能です。体のバランスを保ち、動きをスムーズにするために、さまざまな感覚が協力して働きます。ここでは、姿勢制御に関わる主要な感覚である視覚、前庭感覚、体性感覚について詳しく見ていきます。

1.1 視覚

 視覚は、周囲の環境や物体と自分自身との位置関係を認識するのに重要です。視細胞(錐体細胞と桿体細胞)が視覚受容器として機能し、光刺激を電気信号に変換して脳に伝えます。

 日常において視覚情報が活用される場面の例として、通行人などの動く障害物を避けること、階段を降りる際の足の位置確認、滑りやすい場所を避けるための床の状態の確認などが挙げられます。

1.2 前庭感覚

 前庭感覚は、頭部の動きや位置に関する情報を提供し、特に重力に対する体の姿勢を維持するのに役立ちます。

 前庭感覚は内耳の半規管と耳石器官によって感知されます。半規管は頭部の回転運動を、耳石器官は直線的な加速度や重力を感知し、体の位置や姿勢を維持するために重要な情報を提供します。

 日常において前庭感覚が活用される場面として、大きな電車の揺れなど頭部が大きく動くほどの外乱が加わった時や、素早く立ち上がるなどの大きな頭部の動きを伴う活動時、周りを見渡しながら歩くなどの頭部の回転運動を伴う活動時、運動の開始や停止、方向転換などの動作の切り替え時などが挙げられます。

1.3 体性感覚

 体性感覚は、表在感覚と深部感覚の総合的な感覚です。

表在感覚(皮膚感覚)
 表在感覚は、触覚、圧覚、温冷覚、痛覚などを通じて、皮膚表面からの情報の認識に活用されます。

 表在感覚の受容器は皮膚のメルケル細胞、マイスナー小体、パチニ小体、ルフィニ終末などです。これらの受容器は、皮膚の状態や外部からの刺激を感知し、脳に情報を伝えます。

 触覚や圧覚は、物体の形状や質感を認識するのに役立ちます。例えば、床の状態を感じ取ることでバランスを保つことや、ライトタッチを利用して立位や歩行中の安定性を向上させることができます。温冷覚や痛覚は、環境の変化や危険を感知するために重要です。

※ライトタッチとは?
 力学的に支持することができないレベルの力(1N以下)で指先で触れることを「ライトタッチ」と呼びます。「ライトタッチ」は姿勢の安定性を向上させることが示されています。より最近の研究では首と頭を含む体の他のパーツの接触によっても同じように動揺の減少が認められることが報告されています。

深部感覚(固有受容感覚、運動感覚)
 深部感覚は、筋や関節の位置や動きを感知し、体の姿勢や動作の調整に活用されます。

 筋や関節に存在する筋紡錘やゴルジ腱器官、関節受容器などが筋や腱の伸張や関節に加わる圧力を感知します。

深部感覚は以下の三つに分類されます。
位置覚: 静止状態での四肢の空間的位置を認識します。
運動覚: 四肢の動きの方向や距離を認識します。
筋感覚: 筋の張力や力の入れ具合を感じ取ります。


 深部感覚は、例えば歩行中の脚の動きや、重い物を持ち上げる際の筋緊張の調整に重要です。これにより、正確な動作や安定した姿勢が維持されます。

2. 感覚の相互作用

2.1 各感覚の相互作用

 姿勢制御や動作の精度を保つためには、視覚、前庭感覚、体性感覚が相互に作用することが不可欠です。

視覚と前庭感覚の相互作用:柔らかい床の上での歩行
 柔らかい床面では足の裏の感覚(体性感覚)が不足します。視覚情報が環境と自分との位置関係の把握に役立ち、前庭感覚が頭部の動きを感知することで安定性を保ちます。

視覚と体性感覚の相互作用:細かい物体の操作
 視覚情報は、物体の位置や動きを把握するのに役立ち、体性感覚は、触覚や圧覚を通じて物体の特徴を認識します。このように、視覚と体性感覚が協力して働くことで、物体を正確に操作することが可能となります。

前庭感覚と体性感覚の相互作用:暗闇でのバランスの保持
 前庭感覚は、頭の動きや重力に対する情報を提供し、体性感覚は、筋や関節の位置や動きを感知します。これらの情報が統合されることで、暗闇などの視覚が十分に活用できない状況でも体のバランスが保たれます。

2.2 感覚と運動の相互作用

 感覚情報は運動を修正するためのモニターとしても活用されます。
 感覚情報によりリアルタイムでの運動の誤差や環境の変化が検出されます。
 例えば、歩行中に障害物が現れた場合、障害物の方向に視線を向けて視覚により障害物の大きさや形状を感知、前庭感覚により視線の変化に伴う頭部の動きを認識、体性感覚が床の状態や自分の脚の動きを把握。これにより、正確且つ安全に障害物を避けて歩くことができます。

3. 感覚の発達

 感覚の発達は、幼少期に急速に進みます。以下に、各感覚がどのように発達していくかを示します。

  • 視覚: 新生児の視覚はまだ未熟であり、はっきりとした視覚が発達するのは生後数ヶ月から数年かかります。1歳頃に0.4くらいの視力を獲得し、3歳頃には視覚がほぼ成人と同じレベルに達します。

  • 前庭感覚: 前庭感覚は、幼少期から運動や遊びを通じて発達します。寝返りや四つ這い、立ち上がり歩行などの姿勢の変化、ブランコやジャングルジム、滑り台を使った遊びなど頭部の位置や傾きが変わるような経験によって前庭感覚が刺激されます。

  • 体性感覚: 体性感覚は、赤ちゃんが口に手を入れたり、自分自身の身体や物に触ったり、体を動かすことで発達します。物体に触れる経験を通じて表在感覚が養われます。また、運動を通じて深部感覚が発達します。

 感覚の発達を促すためには、さまざまな感覚を刺激する遊びが重要です。子どもがさまざまな環境や活動に触れることで、感覚の発達が促進されます。

4. 感覚機能を改善する遊び

 遊びを通じて子どもは楽しみながら感覚機能を強化することができます。以下に、視覚、前庭感覚、表在感覚、深部感覚を刺激する遊びの具体例を紹介します。

4.1 視覚を刺激する遊び

 動いている物の動きを目で追ったり、多くの物の中から目的の物を探しだす遊びは視覚を刺激します。

  • 風船遊び: ふわふわと落ちてくる風船をキャッチしたり手で打ち返したりします。風船は軽く、動きが予測しにくいため、目と手の協調を促進します。

  • ティッシュキャッチ: ティッシュを高く投げ、落ちてくるのをキャッチする遊びです。軽いティッシュの動きを目で追いながら、手でキャッチすることで視覚と運動の連携を鍛えます。

  • ボール遊び: 大きなボールから始めて、段々と小さいボールに慣れていきます。様々な大きさや色のボールを用い、異なる高さ、速さ、動きで扱うことで、視覚の多様な刺激を受けます。

  • 宝探しゲーム: 部屋や庭に小さな宝物を隠し、視覚情報を頼りに探す遊びです。視覚的な探索能力を高めます。

4.2 前庭感覚を刺激する遊び

 頭部の位置が変わったり、傾きが変わったりする遊びは前庭感覚を刺激します。

  • 高い高い、肩車、抱っこでゆらゆら: 子どもを持ち上げたり、揺らしたりすることで前庭感覚を刺激します。

  • ゴロゴロ遊び: 床の上で寝返りを使ってゴールに向かって移動します。この動きが前庭感覚を活性化させます。

  • タオルブランコ: 親が持ったタオルや丈夫な布をブランコ代わりにして揺らす遊びです。

  • 膝上バランスゲーム: 親の膝の上に座らせ、腰を支えて左右に傾けます。バランスを取ることで前庭感覚が刺激されます。

  • お馬さん: 四つ這いする親の背中に座らせてバランスを取る遊びです。

4.3 表在感覚を刺激する遊び

 感触の違う様々な物体を触る遊びは、触覚や圧覚などの表在感覚を刺激します。

  • ダブルタッチ遊び: 自分の体のいろんな部位を触り、その感覚を楽しみます。

  • 手足マッサージ遊び:子どもの掌や足の裏を様々な強さで触ってあげましょう。

  • 砂場遊び: 砂の感触を感じながら、砂の城を作ったり、砂を掘ったりする遊びです。

  • 粘土遊び: 粘土の柔らかさや形状を感じながら、様々な形を作ります。

  • ブロック遊び: ブロックを使って構造物を作り、触覚を刺激します。

4.4 深部感覚を刺激する遊び

 自分の体重を身体で支えたり、見えない身体部位をイメージ通りに動かす遊びは深部感覚を刺激します。

  • ハイハイ競争: ハイハイで競争する遊びです。手足の動きを調整しながら前進します。

  • ハイハイで障害物を乗り越える: 床に置かれたクッションや枕、親の脚などをハイハイで乗り越える遊びです。

  • トンネルくぐり: ハイハイでトンネルをくぐり抜ける遊びです。体の大きさや動きを調整しながら進むことで深部感覚が鍛えられます。

  • 手押し車: 親が子どもの足を持ち上げて、子どもが手で前進する遊びです。腕と肩の力を使って体を支えます。

  • ジャングルジム: ジャングルジムを登ったり降りたりすることで、体の位置や動きを正確に把握する能力を向上させます。

  • まねっこ遊び: 親のポーズをまねする遊びです。身体の動きや位置を認識する力を養います。

 感覚の発達を促すためには、これらの遊びを日常生活に取り入れることが重要です。

まとめ

 日常生活や運動をスムーズに行うためには、体のバランスや動きを調整する感覚が重要です。今回は、特に姿勢制御に関わる視覚、前庭感覚、体性感覚について説明し、それぞれの感覚を高めるための遊びを紹介しました。

1. 視覚:視覚は、周囲の環境や物体との位置関係を認識するために重要です。例えば、動く障害物を避けたり、階段を降りるときに足の位置を確認したりするのに役立ちます。視覚を刺激する遊びとしては、風船遊びやボール遊びが効果的です。風船をキャッチしたり、ティッシュをキャッチしたりすることで、目と手の協調を鍛えます。

2. 前庭感覚:前庭感覚は、頭部の動きや位置に関する情報を提供し、重力に対する体の姿勢を維持するのに役立ちます。電車の揺れに対応したり、素早く立ち上がる時にこの感覚が重要です。前庭感覚を刺激する遊びとしては、高い高いや肩車、タオルブランコなどがあります。これらの遊びは、頭部の位置が変わることで前庭感覚を活性化します。

3. 体性感覚:体性感覚は、表在感覚と深部感覚の総称で、触覚や圧覚、温冷覚、痛覚、そして筋や関節の位置や動きを感知します。例えば、触覚は物体の形状や質感を認識するのに役立ち、深部感覚は歩行中の脚の動きを調整するのに重要です。体性感覚を刺激する遊びとしては、砂場遊びや粘土遊び、ブロック遊びがあります。これらの遊びは、触覚を通じて感覚を養います。

4. 感覚の相互作用:感覚は単独で働くのではなく、相互に作用して体の動きやバランスを保ちます。例えば、暗闇でバランスを保つためには、前庭感覚と体性感覚が協力します。また、細かい物体を操作する際には、視覚と体性感覚が連携して働きます。これらの相互作用により、環境の変化や運動の誤差をリアルタイムで修正することができます。

5.感覚の発達:感覚の発達は幼少期に急速に進みます。視覚は生後数ヶ月から数年かけて発達し、前庭感覚は運動や遊びを通じて育まれます。体性感覚は、物体に触れたり体を動かしたりすることで発達します。子どもが様々な環境や活動に触れることで、感覚の発達が促進されます。

6.感覚機能を改善する遊び:遊びを通じて、子どもは楽しみながら感覚機能を強化できます。視覚を刺激する遊びとして風船遊び、前庭感覚を刺激する遊びとしてタオルブランコ、表在感覚を刺激する遊びとして砂場遊び、深部感覚を刺激する遊びとしてハイハイ競争などがあります。これらの遊びを日常生活に取り入れることで、子どもの感覚の発達が促され、より良い姿勢制御や運動能力が身につきます。

 感覚機能を高める遊びを通じて、子どもたちの成長をサポートしましょう。

参考文献
・Watanabe and Tani 2020 Effects of active and passive light-touch support on postural stability during tandem standing. J. Phys. Ther. Sci. 32: 55–58
・板谷. 2015 感覚と姿勢制御のフィードバックシステム. バイオメカニズム学会誌,Vol. 39,No.4
・櫻井 療育における感覚運動遊び


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