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Farha, La Haine

2011年頃からSNSでパレスチナについて言及するようになり…2014年のフェスティバル/トーキョーではパレスチナの劇団、アルカサバ・シアターによる『羅生門|藪の中』を観た。2017年のフェスティバル/トーキョーでは、イスラエル当局に破壊された家屋、瓦礫を調査するパレスチナ人不動産鑑定士の事務所という舞台を通して、国際法違反の入植の実態を描いた作品、『パレスチナ、イヤーゼロ』を観ていた。イナト・ヴァイツマン作・演出、ジョージ・イブラヒム、ガッサーン・アシュカル、アムジャド・バドル、レベッカ・タルハミー主演。上演に際し、岡先生の解説、お話を聴いていた。

Farha

1948年のナクバ(Nakba, 大災厄)を描いたヨルダン映画『Farha』が、2022年秋にアカデミー賞国際長編映画賞のヨルダン代表作品として提出された後、Netflixでの配信を妨害するような2022年12月頃のSNS上の動きについても当時発信していたので...「イスラーム映画祭 9」で今回上映される『ファルハ Farha』はぜひ観たかった。上映後の岡先生によるナクバについてのトークセッションも聴きたかった。が、チケッティングに失敗。深夜に即完売してしまった。
                    2017年のイスラーム映画祭で

「イスラーム映画祭 9」で上映される『憎しみ La Haine』は、昨年6月にアフリカにルーツのある少年がフランス警察に射殺された時に観ていたが、字幕なしで観ていたのでディテールはわかっていなかったかも。もう一度観なくては、と思いつつ…昨年初夏に別のところで書いていた「バンリュー(郊外)」を舞台にした映画いろいろについて以下に再掲。

1993年4月、ザイール系フランス人の17歳の少年が警察に射殺された。
この事件に怒り、マチュー・カソヴィッツ Mathieu Kassovitz監督が
映画『憎しみ La Haine』を発表したのが1995年。ヴァンサン・カッセル主演。フランスに侵略され搾取されてきた旧植民地、アフリカの国々から
戦後復興で労働力を必要とする旧宗主国フランスには引き続き移民という名の労働力が吸い上げられていた。そんな「移民」の多くが住むのはパリ等大都市郊外で公営団地が多く並ぶ「バンリュー Banlieue(郊外)」だった。
サッカーフランス代表のエムバペ(ムバッペ)選手もその地域の出身。

『La Haine』から25年以上時間が経っても、警察による移民らへの暴力の酷さは変わらない。武力行使は正当化され、警察の権力は増すばかり。ニューヨーク・タイムズ New York Timesによれば、フランスの警察は警察組織を守るために毎年のように権力を肥大化させてきているらしい。警察の労組も強硬、と。今回の事件で知ったが、フランスの警察はアメリカの警察官のようなボディーカメラも装着していない。そして、17歳の少年、非武装のアルジェリア系でモロッコにもルーツを持つ少年が6月27日警察に射殺されてしまった。何度同じことが繰り返されるのか...

from Edgar Wright's Twitter

(以下、映画の核心に触れる部分もございます)

ショックを受け、日本公開時に観ていたラジ・リ Ladj Ly 監督『レ・ミゼラブル Les Misérables』を再見した。追う側が追われる側にもなる鬩ぎ合い、
暴力と憎しみの連鎖は止めることは出来ないのか、修復することは出来ないのか、という無力感にも苛まれてしまう。上記の通り、警察ー内務省による官製レイシズムの側面もあるのではないか、これだけ何十年も同じような警察による暴力、殺人が繰り返されているのは...

SNSやブログでは長らく、10年近くBlack Lives Matterに連帯してきていた
2020年にジョージ・フロイドさんが警察により殺害された時、米国では「Defund Police(警察予算を引き上げろ)」の声が高まっていたことを憶えている。一方フランスでは、加害者の、発砲した警官家族を支援するクラウドファンディングで今回あっという間に約2億円が集まったという。言葉を失った。理解できない。

アメリカのメディアが今回の事件含めたフランスのレイシズムを分析している。アメリカでも人種差別はなくならない、新型コロナウィルス・パンデミック禍ではアジア系へのヘイトクライムも多発し顕在化するようにもなった。ただ、Los Angeles Timesの分析記事によれば、フランスの人種差別は、今回のような警察によるアフリカ系少年銃殺事件は彼らが旧植民地出身で肌の色が違うアフリカ系だからというだけでなく、多くがイスラム教徒(ムスリム)であることへの忌避感も強いかららしい。そこが米国の、アフリカ系への差別や暴力との相違点。フランスは政教分離の原則(ライシテ)が強く、ムスリムの女性たちのスカーフ(ヒジャブ・ヘジャブ)着用さえ公式の場では許さない程、不寛容。米国とはまた別の根深さ、Over-policingと言われる警察権力の拡大やムスリムに対する嫌悪や忌避感もからんで酷い。

バンリュー関連の映画として、上記『La Haine』は今回字幕なしで観た。『レ・ミゼラブル』にも引き継がれる、絡まったまま解かれることのない不信感や憎しみの連鎖が暴発する可能性を伝えている。この時から30年近く経っても社会は変わらなかった、何も変えられなかったのか、何か変えられていれば、あの少年は殺されなかったのかもしれないと辛い気持ちにもなる(もちろん、30年で社会を変えるのは難しいかもしれない)。

日本のネトウヨ(レイシスト)=「右でも左でもない」と嘯くふつうの日本人が、移民や外国人排斥の目的で今回せっせと拡散していた偽画像やフェイクニュース、フランスの移民らによる「暴動」の偽動画などはBBCの検証チーム BBC Verifyがファクトチェックしていた。そのニセ画像にも利用されていたのがバンリューの「アテナ」という団地の移民らと警察の衝突を描いた映画Romain Gavras監督『Athena』のワンシーンだった。

Athena

『レ・ミゼラブル』の監督が脚本に加わってもいるが、概ね、あまり深みはないという評。しかし、監督がギリシャ悲劇だと語っていた通り、どこか原始的で運命的なナラティブが現代人にはそう感じさせるのかもしれない。
ギリシャ悲劇のように、容赦ない悲劇が主人公に訪れるから。異父兄弟の3兄弟全員が警察との衝突を経て死んでしまう。最も考えが深かったひとりは絶望の果てに壮絶な死を遂げる。避けられない滅亡に突き進む、滅亡に突き進まざるを得ない無慈悲過ぎる悲劇に至る可能性すらある制度的差別、フランスのシステム化されたレイシズムの圧倒的な暴力性をある種図式的に見せている感も。人種差別もイスラモフォビアも問題。

Bande de Filles

そして最も印象的だったのが、『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマ Céline Sciamma 監督がバンリューの女子高生たちを描いた『ガールフッド Bande de filles / Girlhood』。郊外で抑圧された旧植民地出身の男子はそれでも、暴力を応酬し、警察にぶつけられた暴力はやり返したりはねのけるはけ口がある。しかし、バンリューに生きる若い女性たちの生は一方的に搾取され消費されるだけ、という希望のなさ。移民の男性たちの葛藤や苦しみ以上の閉塞感と屈辱、逃げ場のない生が描かれる。それは、ダルデンヌ兄弟 Jean-Pierre and Luc Dardenne 監督の『トリとロキタ Tori and Lokita』でヒロインが性的に搾取されるか、麻薬関連の仕事をするか、現在も未来も希望のない生を歯車のように回すだけの姿と重なる。ダルデンヌ兄弟の映画は難民としての移民が主人公だが、旧植民地のアフリカの国からフランス語圏(ベルギー)に渡っての苦難はバンリューの少女たちが直面する現実にも近いものがあった。

さて、Los Angeles Timesの分析記事を読んで想起したのが、最近日本の産経新聞周辺が拡散しているクルド系難民に関するデマ記事の問題。ネトウヨ(レイシスト)らは彼らがムスリム(イスラム教徒)であることもなぜか問題視し強調して特に敵意を向け、ヘイトスピーチやデマを拡散し続けている。

『外国人収容所の闇~クルドの人々は今』

日本の人種差別に排外主義は中国や韓国、沖縄やアイヌをターゲットに始まり、最近はベトナムやクルド系の方々をもターゲットにして悪質、年々酷さを増す。その中でムスリムへの憎悪を煽る一部メディアとネトウヨ(レイシスト)の姿はフランスの極右排外主義とも重なる傾向があるかもしれない。

舞台「人類館」

フランスで警察に問答無用で射殺された無防備な17歳の少年のように、肌の色の違いだけでレイシャル・プロファイリング(racial profiling)・職質(職務質問)が頻繁にある日本在住外国人の声も、米国大使館が注意喚起して以来ようやく可視化されてきているが...

映画『ディーパンの闘い Dheepan』もバンリューが舞台だった。

バンリューではないが、韓国でリメイクされたフランス映画『この愛のために撃て À bout portant』では旧植民地アフリカ・ルーツの人物が容疑者という構図がもう...

サッカーワールドカップでのレイシズム

毎年約700人の少年がイスラエル軍に逮捕される...パレスチナ(難民キャンプなど)では1日に2人の子どもが逮捕される、という意味のドキュメンタリー
Two Kids a Day

Two Kids A Day directed by David Wachsmann, co-produced by Mohamad Babai

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