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「地球環境危機を救う猶予はあと10年」科学者たちが警告――国際リーダーに向けての指針書「グローバル・コモンズ」のフレームワークとは

東京大学グローバル・コモンズ・センターが、グローバル・コモンズ(地球規模の天然資源)を守るための指標としてのフレームワークを発表し、政府、企業、金融、市民社会、国際機関のリーダーたちに向けて行動の呼びかけを行っている。

東京大学グローバル・コモンズ・センターは「地球環境問題の解決のための一端を担おう」という趣旨で、2020年8月に設立された。初代センター長には地球環境ファシリティCEO兼議長を8年間務めた石井菜穂子氏が就任し、「持続可能な未来のためにグローバル・コモンズを管理する新しいフレームワークを構築する」ことをミッションに掲げている。

今年5月に同センターは、システミック、ポツダム気候影響研究所、国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワークと共に「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ・フレームワーク」を作成したことを発表した。

同フレームワークは①エネルギー、産業、輸送の脱炭素化②持続可能な都市とコミュニティ③持続可能な生産と消費④持続可能な食料、森林、土地、水、海洋――という4つのシステム転換を起こすことを目指して構成されており、主要なステークホルダーに参考となる具体的なアクションが示されているという。

石井氏は、同フレームワークの発表に当たり「人類の生命、繁栄、安全が依存している複雑に絡み合った地球システムの崩壊を回避するには、世界は4つのシステム転換を同時に行い、前例のない発展を遂げる必要がある。このフレームワークは、リーダーたちが、政治、社会、経済の力を活用し、協調によってグローバル・コモンズの保全と回復を迅速に進めるために取るべき具体的な行動を明らかにし、困難で複雑な課題への糸口を示すものである」と述べている。

また、ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストロム所長は「グローバル・コモンズの劣化に歯止めがかからなければ、欠乏と危機がさらに深刻化する。不安定化した地球システムがこのような脅威を高め、難民や紛争を拡大している状況が増えている」と、今こそグローバル・コモンズの重要性を認識し、保護に向けて取り組むべきであると説く。

ジェフリー・D・サックス氏ら賛同者たちの声

同フレームワークには、地球環境の解決やSDGs目標達成に向けて取り組む各方面のリーダーたちから賛同の声が寄せられている。

ポール・ポールマン氏(企業経営者、活動家、『Net Positive』の共著者)
「炭素排出量ゼロを目指す『レース』は順調に進んでいるが、ビジネスリーダーやその他の意思決定者にとって、気候システムや陸域生物圏などのグローバル・コモンズ間の複雑な相互関連とトレードオフを把握することは困難だ。本フレームワークはこの複雑さを一掃し、意思決定者がグローバル・コモンズの保全に必要な変革をもたらすための、科学に基づく具体的な行動指針を提供するものである」

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z2101_00087.html

ジェフリー・D・サックス氏(コロンビア大学持続可能開発センター所長)
「経済発展、社会的包摂、地球システムの健全性という課題は、相互に、密接に関連している。経済的な厚生と環境の持続可能性は、相反するものであってはならない。グローバル・コモンズ・スチュワードシップ・フレームワークは、この核心となる真実を捉え、社会にあまねく利益をもたらし、国内および国家間の不平等を解消するのに役立つ、公正で持続可能な移行のための行動計画を提示している」

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z2101_00087.html

フェイケ・シーベスマ氏(ロイヤル フィリップス監査役会会長、ロイヤルDSM元CEO)
「今日、すべてのビジネスリーダーは、甚大な被害をもたらす可能性のある環境リスクに関する明確な科学的根拠をある程度理解している。しかし、前向きな姿勢で取り組んでいるCEOでさえ、これらの脅威がどのように関連し、企業がそれに対して何ができるのか、何をすべきなのかを理解するのに苦労している。このフレームワークは、科学をビジネスのための具体的なアクションに変換することに貢献している。企業にとって目的志向のビジネスモデルのための実際のコストと機会を理解することは、非常に優先順位が高くあるべき議題なのだ」

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z2101_00087.html

ニック・スターン氏(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授、グランサム気候変動環境研究所所長)
「グローバル・コモンズは、この地球上で私たちが繁栄を続けるための基盤だ。このような地球システムの健全性と回復力を維持するためには、経済・社会システムの抜本的な転換が必要である。このフレームワークは、科学的な証拠と脱炭素化の国際的な進展から得た教訓を基に、4つのシステムの転換の概要を、プラネタリー・バウンダリーの範囲内で持続可能な開発を達成するために必要な経済、政治、社会の変革をもたらすことができるアクションレバーと共に示している」

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z2101_00087.html

イザベラ・テイシェイラ氏(国連環境計画 国際資源パネル(UNEP-IRP)共同議長)
「消費と貿易による波及効果は豊かな国々によってもたらされ、一方、被害を受ける人々や最も脆弱な人々の多くは開発途上国に集中している。世界的なコモンズの悲劇を回避するためには、国を超えた協調的なマネジメントが必要であり、特に高所得国にはその責任が課せられている。このフレームワークは、人間の福利を損なうことなく環境破壊を減らすことができる需要側の措置など、これを達成するために関係者が起こすべき変革や取るべき行動を示している」

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z2101_00087.html

ナイジェル・トッピング氏(COP26気候行動ハイレベル・チャンピオン)
「企業は、科学的根拠に基づく目標の設定、資本の再配分、イノベーションの推進、新しいビジネスモデルへの投資によって、ゼロエミッション経済への移行を進めている。このプロセスはパリ協定によって加速され、産業を変革するマルチステークホルダー連合という素晴らしい結果をもたらした。脱炭素化の成功はまだ確実ではないが、本ワークフレームは、こうした有望な成功例から学び、我々の継続的な健康、繁栄、安全保障が依存するグローバル・コモンズを保護するための効果的なガバナンス・メカニズムを開発する重要性を示している」

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z2101_00087.html

本ワークフレーム全文(英語)は、以下からダウンロードできる。
The Global Commons Stewardship Framework May 2022

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:iStock.com/Boonyachoat
編集:タテグミ

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