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夜更けの思索宮

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時には哲学を、古代ギリシャを、あるいは皮肉やのイタリアの彼氏のような、ちょっといつもの場所をはなれて遊ぶ
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#地中海世界を読む

ヨーロッパ学入門:4章ヨーロッパの神話と民話〜民話の復活か?

 前回ヨーロッパの思想の変遷を議論した。自分で自分の行動を決めていた狩猟民族時代から、農業・鉱業・製造業と我々の暮らしは飼い慣らされてきた。それによって、自分で自由と感じる時間が制限されてきた。それを救うのは、自分の暮らしの考え方の変容だろう。これを、今回のテーマの神話と民話から考える。  下の図は、この章のまとめだ。各地にある神話は6つにまとめられ、多種多様な民話にも共通点があるという。その神話が組織化されたものが信仰であり、信仰が宗教として形作られる。ヨーロッパの宗教、

再び人間中心時代:『地中海世界』フェルナン・ブローデル編 - つなぎ ヨーロッパ学入門 ヨーロッパの思想

 今回は、大胆にも古代ギリシャから近世までの思想について大きな流れをつかんでみたい。 人が主人公:古代ギリシャ 古代ギリシャは人が主役だ。直接民主制による都市国家が花開いた。自由な時間を持つ人と、その生活を支える奴隷から構成される都市文明だ。その時代の思想は、存在論・目的論・機械論など多様な哲学が花開いた。同時に、それらは政治にも影響を与えた。 世界が拡大:アレキサンダー時代 古代ギリシャの思想が東方、アジア・アフリカに広がり、ヘレニズム文化が作られた。都市の人達が地域に

変化こそ生き抜く源泉:『地中海世界』フェルナン・ブローデル編 - つなぎ ヨーロッパ学入門 言語

 今回は、ブローデルはおやすみ、ヨーロッパ学入門からヨーロッパの言語についてだ。前回、山本さんから紹介のあった歴史学者のスコットさんの『反穀物の人類史』を含めて考察したい。 はじまりは自由に生きる野蛮人 そもそも人は野蛮人だった。地球上の動植物を求めて、自由に移動した。スコットは、その採集狩猟民族は定住して作物を作らないか?と言われても、それを選択するわけがないと言う。理由は、採集狩猟生活の方が、生きるために束縛される時間が半分で、しかも栄養価が高いからだと。そのため、これ

『地中海世界』フェルナン・ブローデル編 - 前半

 地中海世界は、従来の土着文化が、自由、人間性、理性、論理性の人間謳歌のヘレニズム(古代ギリシャ)、ヘレニズムに触発されて統制、組織化されたヘブライズム(ユダヤ・キリスト教)によって彩られたモザイク。今回は、前半のまとめとしてその変化の流れをみていこう。 陸地:「節制」を運命付けられた土地 地中海世界の成り立ちは、厳しい自然とともにあった。南にアフリカの砂漠、西に大西洋の雨に囲まれたこの領域は、消して恵まれた環境ではなかった。地中海は、移動手段がなければ、ただの障害物。浅瀬

『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 歴史

 前半のまとめとなる章で、フローデルは安定性の本質について問う。地中海世界は、3つの文化的共同体によって成り立っている。それは、2つのキリスト教圏とイスラム文化圏だ。 ローマと西ヨーロッパを形成するローマ文化圏 今の西ヨーロッパは、ローマを中心とするキリスト教圏だ。フローデルは、もう一方のキリスト世界との違いを、『真理』という言葉から示す。ラテン語の真理、ヴェリテ(veritas)は、理性にとって確実なこと、現実を意味する。例として、キリストの磔刑に関する絵画での表現や、復

『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 夜明け

 閉じたフェニキアと、開いたギリシャ、同じ地中海の海洋民族として活躍した民の違いに興味を持った。貿易をする以上、活動は開いているが、信仰をもとに民のアイデンティティを硬く保つものと、貨幣という経済的武器をもとに、自由に文化を開花するギリシャ。後のローマの登場で、ギリシャとオリエントはヘレニズム文化として融合する。ローマは、ここに登場した原始都市を都市に仕上げ、大きな組織を構成した。その夜明け前の地中海世界を覗いてみよう。 小アジア原始都市の誕生 各地を放浪して暮らしていた小

『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 海

地中海の唯一の豊かな漁はまぐろ漁 学生の時、訪れたギリシャで食べたのは、ヤギのチーズとオリープがたくさんのったサラダとムサカだった。海に囲まれているのに、魚が少ないと感じたことを思えている。「水産資源としての地中海は貧しい」とブローデルはいう。それもそのはず、google mapが示す地中海は深く、魚が好むプランクトンなどの餌がない。そのため、限られた種類の、少量の魚しか取れないのだ。 道としての地中海 一方、「交通路」として地中海は、地中世界の「富のための道具」である。今

『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 陸地

先日、FBで安西さんが読書会をすると話していて、それも題材は欧州の文化に関する本フェルナン・ブローデルの『地中海世界』だと知り、合流することにしました。その最初の一章を1000文字制限でお送りします。 ~~~~~~~~~~~~~~ 「節制」を運命付けられた土地 地中海というと何を思う浮かべるだろうか?アマルフィのアッズーリ色に染まる空、海はブル・カプリ。イタリアには青緑色を語り色に地名が多く使われている。それらに彩られた豊穣の光景を浮かべるのではないか。  しかし、ブ