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『地中海世界』フェルナン・ブローデル編 - 前半

 地中海世界は、従来の土着文化が、自由、人間性、理性、論理性の人間謳歌のヘレニズム(古代ギリシャ)、ヘレニズムに触発されて統制、組織化されたヘブライズム(ユダヤ・キリスト教)によって彩られたモザイク。今回は、前半のまとめとしてその変化の流れをみていこう。

陸地:「節制」を運命付けられた土地

 地中海世界の成り立ちは、厳しい自然とともにあった。南にアフリカの砂漠、西に大西洋の雨に囲まれたこの領域は、消して恵まれた環境ではなかった。地中海は、移動手段がなければ、ただの障害物。浅瀬が少なく、深いこの海には、魚の資源も乏しい。ただし、幸いなことに島が多数存在した。それが、移動を可能にした。

海:道としての地中海

 地中海世界の豊かさの秘密はシステムだ。「交通路」として地中海は、地中世界の「富のための道具」となった。そして、地中海を把握したフェニキア人は、幾重もの航路だけではなく、それらを取り巻く空間のダイナミズム、「交易路網の体系」として捉えた。地中海という道が、定期市をつなぎ、そこで情報や物や鉱物が交換されることによって、周辺に広がる空間の暮らしに彩りを添えた。

夜明けとローマ:制度と建物のテンプレート化

 ギリシャが文化、科学、哲学を産み、ローマは政治・制度で広大な地域を治めた。また、建物の標準化はローマが最初。世界最初のウィトルーウィウスによる建築書によると、すべてのもの、特に建築には、「意味が与えられるものと意味を与えるもの」が含まれており、各地に同様な建物を作った。

 これまでの流れをCsikszentmihalyiのA systems model of creativityを使って示そう。地中海世界のモザイクは、人によって社会ができ、文化が作られてきた歴史という風にも考えられるのではないか。

まとめ

次回の議論に向けての疑問:

1. 地域の形態変化には、何が影響するのか?

 今回、地中海世界の変化について、紀元前からローマ時代までみてきた。その中で、農業による定住、都市の成立は、どの地域でもみられると思われる。一方、海路による交換システムの登場は、地中海とその島々の存在が関係しているのではないか。それぞれの地域ならではの、地形・移動・気候・風土(島のオープンな雰囲気)がその後の変化に影響を及ぼすのではないか。

2.何が普遍の変化か?

 生物の進化が農業・漁業を可能にし、技術の発明がこれまでと異なる変化をもたらす。経済的変化をもたらすものは、広く拡散され、他の地域でも同様の変化を起こす。一方、文化的・好みに関することは、ローカルで止まることも多いのではないか。

3.古代ギリシャの誕生の秘密

 イスラム・カソリック・ユダヤ教の偉大な神に支配される世界と、人間中心、理性を信じる古代ギリシャがなぜ誕生したのか。古代ギリシャの始まりが、地中海の島々だとすると、そのオープンな文化が関連しているのかもしれない。一方、都市が誕生してからは、階層組織・制度と共にあり、少々窮屈になったのかもしれない。

4.アジア的なものは地中海世界には存在するのか?

 ヘブライ・ヘレニズムとアジアの輪廻・仏教・儒教などの思想は、どのように関係しているのか?私には、アジア的なものは、地中海世界から生まれなかったのではないかと思える。地域ならではの、地形・移動・気候・風土が、生まれる考え方にも大きく影響している感じがする。

5.多様性はイノベーションの糧

 海路の発展によって、人種や考え方の多様性が高まり、古代ギリシャのような時代が造られた。一方、現在のギリシャにはかつての勢いがみられない。イノベーションを起こすための多様性が変化しているのか?以前はヒューマン的な要素が多く、現在はそれに加えて科学技術が必須のためか。

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