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🆕第12話  Ginsyari



「ナマでっかいピンいきまーす」

「麦ロック差し替えです」

「カクレイ リャンお願いします」


聞き慣れない言葉がバークヤードを飛び交う



その都度 翻訳してくれる先輩

『生ビール 10杯に麦のロックおかわり、
日本酒のカクレイが2杯だ』

『焦っちゃいい事ないからよ、でも急げよ』


こんなに速く動いたのは
小学校の時の50メータ走以来かもしれない

音にすると ズドドドドっ

目の前の事をこなすのに追われた。


そしてカウンターを見ると
全ての席が埋め尽くされ
お待ちの席も満席

そして外にも行列が出来ている。


カウンターに立つ4人の戦士は
焦る素ぶりを見せず
一切無駄の無い動きで
パスを送りつつ
目の前の業務を遂行している。


戦場だ。




そしてバックヤードから
カウンターを覗くととあるお客さんが


「みなさん良かったら呑んでください」と


先輩から
『生を瓶ビールのグラスに6杯注げ
急ぐんだ!お前酒呑めるか?
ご馳走酒はイタダキと言うから覚えとけよ』

『いただきます』

『いいか、焼き台が合図したらみんなで頂きます
と言って、両手で持って一気な』


一気なんてclubで
振る舞いテキーラを受けた以来だ。



みんなで一斉に生ビールを喉に流し込んだ。


カウンターにいる
他のお客さんも

何かイベントが始まったかのように
僕たちの呑む姿を見た。


なんて粋なお店なんだと思った。


気がつくと開店から1時間近く過ぎていた。

そして先輩から

「加納、賄い食べちゃっていいよ」

このタイミングで食べていいの?

賄いを食べる場所は
バックヤードの奥にある小さな机
灰皿が一つ置かれ
横にはお客様のキープボトルの焼酎が
ところ狭しと置かれていた。


『今日はマグロの漬けだ
シャリはおかわりしていいからな
お腹減ってるだろうから好きなだけ
食べちゃっていいよ』

シャリって言うんやと思いつつ

正直、今まで食べたマグロの中で
ダントツに美味かった。

甘辛いタレに卵黄が絡んでる。
貪るように食べた。

それと先輩の旅行お土産の
イカの塩辛もめちゃくちゃ美味かった。

シャリは2杯一気に行った。

俺ってこんなに食欲旺盛やったっけ?
て言うくらいに美味しかった銀シャリ

その昔、戦国時代の武士達も
戦の間にこんな
気持ちで食べてたのかなと思いつつ


そしてタバコを一本吸って
戦場に戻った。


そして、賄いを食べ終わり
後半戦

3時間近くあったけど
体感速度は1時間ほど

気がついたら店は閉店してて
先輩が炭を鎮火してた。

すごく早かった。

でも濃かった。

これが僕の修行1日目の出来事


この当時 日記をつけてたので
ここにその内容を記す。


2017年 4月4日

中目黒の皆さんは温かい

お客で来た時の印象と違う

アナログでシンプルで合理的

助け合い

自分の求めていたカタチ


ごちこうビールは両手で

出来立てを出すよう全力を尽くす。

自分で考えて動く。


職人ってカッコいい 

そう思えた1日だった。

つづく

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