『おやすみのじかん』
【小説】大切にされてるけれど少しだけ不満な少女の話。
抱き抱えるようにしてベットに連れ込まれたから、少しは期待したのに。ぽん、と頭をひとなでしたあと、君は私の首もとまで毛布を引き上げた。
まだ眠くないんだと、子どもみたいにだだをこねて、優しい君を困らせたりしてみる。君が眉を寄せて少し怖い顔をしたので、笑い声をあげて私はベットのすみに逃げた。
膝をついて追いかけてくる君のたくましい腕に捉えられ、毛布の上から包み込むように抱きしめられた。
「おやすみ」
低い声が私の耳たぶに熱を吹き込んだ。
「だって、まだ、」
――明日になるまで時間がある。
そう続けようとした自分のかすれる声が、空気を震わせる。目の前には、大好きな優しい瞳。きゅう、と心臓が締めつけられる。もっと強く抱きしめて、求めてほしいのに。
「隣で眠るから。今夜、夢で会おう」
小指を指し出した君のロマンチックな誘いに、ぐらりと心が揺れて。仕方がないな、と私は小さくため息をついた。
「わかった、約束よ?」
私も小指を差し出した。
徹夜続きの私を心配する君のために、君の望む言葉を言ってあげる。
「おやすみなさい」
(別名義で書いてたSSを改編しました)