マガジンのカバー画像

長歌未発表作品

21
30行50行の長編あるいは10行の未発表作品を挙げます。
運営しているクリエイター

2022年11月の記事一覧

劇詩を試みる・1

第一幕第一場

A   青春を殺さなければ運命を勝ち取ることができない
B   薔薇が赤いってのは薔薇の問題ではなく私の問題だ
C   風に救われ、風を捨てろ。王が窒息する前に

もっとみる

虚都ポンペイからの帰還・夕

預言者 「イチジクの実が落ちている」
王   「嗚呼、偉大なる預言者よ。言葉をおくれ」
預言者 「熟れすぎた実を啄んだ鴉(あ)の夕べ風葬 夜の杜(もり)の喧騒」

もっとみる

虚都ポンペイからの帰還・昼

「阿弥陀仏への帰依。阿弥陀仏への帰依。」
虚都ポンペイに東からの使者。禿頭の支那顔をした吝嗇家――

もっとみる

虚都ポンペイからの帰還・朝

「眠っていた」惨禍が我らを襲う時、日常以上の違いなど一匙の塩――
山が燃えている。大の字に山が燃えている――
カミソリを頬にあてがう「散髪屋は流石に職人だな」と

もっとみる

木霊

――燃えている
山が燃えている。母を抱き逃げた山から火が上る
「嗚呼あぁああ」と息がもれ、敵の旗が揺れている
――数千?否、否。数万の兵士の足音、武具の音、弓の張る音が軋んでいる

もっとみる

城壁の風葬

――新しい歌を歌え
城壁は風に晒され強ばって渇いた風に頭(ず)を垂れる
世は乱世。矢の回収も後回し逃げるか物を奪うかの強欲の国
『野晒しを心に風のしむ身かな』「権力者たちの黒文字を盗み」
森は燃え川は血に染まる喉が鳴り腹を空かせている
殺すにはあまりに惜しい野兎の白い衣は朱に染める

もっとみる

水場

「夏などとは呼んではいけない」灼熱の西の国にて
  ――「水を、水を下さい」
              「貴人よ、私からですか?」
「嗚呼、君だ。君から得たい」
             「私が昼に水を汲む、者ですよ?」
「君から欲しい。私を何者だと思う?」
海を渡って西へ西へ 我知らぬ者の多き故に 衣粗くとも気にされぬ

もっとみる

ヨナタンの矢

――矢が越える。
ダビデの頃の記憶から砂に歪んだ夏の国 国が国に立ち
人が人を殺め地震に飢餓疫病 その夏の国を渦巻いて
うろうろ人は国を去る 背に汗浮かべ足は疲れ

もっとみる

ヘブライ詩を理想として【原】

20時。
12分が5回回る。
12進法が腕に絡まる
完全数7は思考と休息の頭に据わる
焼けた肉の匂いが膝を誘う
氷を噛んで夏の汗を味わっている
崩すことは終電までの缶ビールの星
完成まで6年の駅ビルの上層階は重たい葡萄酒

もっとみる