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「追い越し」_その1~定義

先日某保険会社のHPをみていたら「追越し」と「追い抜き」を混同しているような内容が記載してあった。
皆さんご存じで、当たり前のような定義なのだが復習のためひも解くことにした。今回は定義のみを説明する。


|追い越しの定義

「追い越し」について、道路交通法第2条の21で以下のように定められている。

追越し:
車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。

つまり、他の車両等に追い付いた場合に、その車(以下「前車」という。)の前に出るために進路変更し、側方通過し前に出ることを「追い越し」というのだ。

追い越しの要件としては
①他の車両に追い付いた
②進路を変えて
③側方を通過して
④前方に出る

という4つの行為がすべて完了することで「追い越し」となるのだ。

追い越し行為のイメージ:筆者作成

 ①「他の車両に追い付いた」とは、

同一の進路の前方にある他の車両(前車)に追い付いたという状態をいう。この場合の同一の進路上とは、前車と後続車(追い越ししようとする車両)の進路がすべて重なる必要はないが一部でも重なっている状態が必要とされている。

したがって、前車に追い付いたとしてもバイクなどが左側端を走行するなどして前車の進路とバイクの進路が同一に重ならない状態では追い越しの定義にいう「追い付いた」には該当しないことになる。
この場合はいわゆる「追い抜き」になる。

イメージ:筆者作成

 ②「進路を変えて」とは、

追い付いた場合に進路変更することであり、左右は問わない
複数車線のある道路で車線を変えることはもちろん「進路を変えて」に該当するが、同一の車線内や車線区分のない道路の場合には、前の車(前車)の側方を通過するために進路を変えることも含まれる。

追い付いても進路変更することなく先行する車の側方を通過する行為は追い越しとはいわず、いわゆる「追い抜き」になる。

また、進路変更は左右いずれの方向であっても追い越しの要件を満たすことになる。
※あくまでも「追い越しの定義」であり法第28条の追い越し方法等とは別である。

 ③「側方を通過して」とは、

並進することではなく、前車の右または左側方を「通過」することである。

側方通過時の前車との側方間隔は、車線区分のない道路の場合には走行速度や道路幅員、車両の大きさ等によりケースバイケースで判断されることになるが安全な間隔が保たれる必要がある。

 ④「前方に出る」とは、

後車が前車に追い付いた場合に進路を変えて前車の側方を通過して、前車の進路上に出る場合(側方を通過した後に進路を変えて前車の前に出る(入る)こと)はもちろん、完全に追い付いた車両(前者)を抜き切ることまでは必要ないとされている。※昭和45年福岡高裁判決等

なお、法律上は、追い越し行為としては側方通過して前車の前に(被追い越し車両)の前に出れば追い越し行為が完了したことになる。
追い越しに関する他の規定、条文の考え方も同様で、基本的に側方通過して前車の前に出れば追い越し行為としては成立するのだ。

例:第30条の「追い越しを禁止する場所」の場合は
・・・・他の車両を追い越すため、進路を変更し、又は車両の側方を通過してはならない。・・
とされているように、追い越しを禁止する場所では、「進路変更」、「側方通過」のいずれかの行為を行っても違反が成立する。

|追い抜きの定義

「追い抜き」について道交法上の定義はない。
しかしながら前述の「追い越し」の定義が「追い付くこと」、「進路変更」を要件としていることから、進路変更を伴わずに、「側方通過する」をとらえて、判例等において「追い抜き」としている(昭39年3月宇都宮簡裁等)。

|まとめ

以上説明したように、追い越しの定義は、「他の車両に追い付く」、「進路を変える」「側方を通過する」「前方に出る」の4つの行為によって構成されており、これを一つでも欠く場合には「追い越し」の定義に該当しないことになる。

「追い抜き」は、側方を通過して前には出るが、「他の車両に追い付く」、「進路を変える」という行為が伴わない行為なのである。

すなわち、下図のように(A)(B)は4要素を備えることから「追い越し」となり、(C)(D)は追い付くの概念である同一の進路上になく、かつ進路変更が伴わないことからいわゆる「追い抜き」となる。

イメージ:筆者作成




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