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過酷な初めての国際大会|ウェールズ代表記#1

8月21日から8日間、初めての国際トーナメントに参加してきました。UEFA Development Tournament という大会で、ウェールズ、スウェーデン、デンマーク、ベルギーと成長が遅い選手を主に構成されたチームで総当たり戦をするといった内容でした。ヨーロッパではこのような取り組みをしている国が多く、早熟な選手に頼らずタレントを見逃さない役割を担っています。ベルギーは早くからこのプログラムに取り組み、デブルイネなどの選手が通ってきているみたいです。詳しくは下記事をぜひ。

ウェールズは人口が北と南に集中しており中央が少し過疎地帯となっているので、地理的にファーストチームと別にもう1チーム作るのは困難な状況です。なので、他国がU16の晩成型選手で構成されたチームの中、ウェールズはU15のファーストチームで臨みました。晩成型と言っても180cm台は普通にいるので、4カ国ともボコることもボコされることもなく、戦力的には均衡だった印象です。結果がそこまで重視される大会ではないので交代枠にも制限がなく、全選手に均等にプレー時間が与えられていたのも結果が均衡していた要因に挙げられます。みんなガチで勝ちにいってるのは言うまでもないですけど。

という訳で、今回の記事はそんなちょっとユニークな大会に初めてウェールズ代表のアナリストとして参加してきた話です。

1日目(日曜日)出発&トレーニング

北ウェールズでの開催ということもあり、南ウェールズのカーディフに住んでいる僕含めたスタッフ陣や選手たちは朝方にFAW(ウェールズサッカー協会)の本部から7泊するホテルへと出発しました。本部はウェールズ代表ファーストチームに加え、英2部に所属するカーディフシティがトレーニングを行う場所になっています。ウェールズU16が同じ場所でトレーニングしていた時は、カーディフの選手たちや監督が見にきたこともありました。

4時間ほどで到着し休憩を終えた後は、オリエンテーション込みのミーティングをしました。U14までは北ウェールズと南ウェールズに別れて活動し、それぞれプロアカデミー、ウェールズ公認アカデミーを含め30人から40人の選手がトレーニングキャンプに参加します。ですがU15からはウェールズ全土から22人に絞られるので、初対面の仲間も多い新たなスタートとなります。

そして16時からは北ウェールズにあるFAWの練習場でトレーニングを行います。南ウェールズにはドラゴンパークと呼ばれている練習場があり、北ウェールズにはコリアーズパーク、そして前述した本部を含めた3カ所でウェールズ代表は活動しています。時折サウスウェールズ大学でもトレーニングするみたいですが。

トレーニング前後の僕の主な作業は下にまとめたようなリストになります。

トレーニング前
・練習メニューの内容、時間設定、配置の確認
・ミーティングで使いたい動画の内容確認
・ガントリー(高台)に三脚とカメラの設置
・ドローンを飛ばせる準備
・ライブコーディング用の設定確認、準備
・練習前のコーチ、選手間のメニュー確認のためのテレビ設定

トレーニング中
・ドローン撮影(左手)、バッテリー交換
・パソコンを使ってライブコーディング(右手)

トレーニング後
・ドローンのマイクロSDから映像の取り込み
・(必要な場合)カメラのSDから映像の取り込み
・圧縮でファイルサイズ軽減
・分析(タグ)ソフトで映像を繋げる
・ライブコーディングのタイムラインと映像を同期
・カメラ、ドローン、三脚などの機材の片付け

まず頭に入れておかなければいけないのが、次のチームミーティングの時間です。そこでトレーニングを振り返らないといけないので、なるべく早くコーチ陣に求められた動画を提示しなければなりません。1日目などは17時15分トレーニング終了で19時半にミーティングが計画されていました。事前に(できるだけ早くに)ミーティングでコーチ陣が使いたいクリップの内容と練習メニュー(何分x何ブロックか)を把握します。

戦術的な要素が含まれているメニューや焦点を当てたいメニューはドローンで撮影をするので、稀ですが逆光を避けれるように練習メニューの配置などを変えることもお願いしないといけません。

コリあーずピッチの写真?

実際のトレーニングが終わってからミーティングまで2時間強あるものの、トレーニング後の作業で最低40分ほどかかります。コーチ陣にはミーティングの1時間ほど前に動画を見せておいてミーティングまでに添削をしたいので実際にトレーニングを振り返ってタグづけする時間は45分ほどしかありません。しかもミーティングの1時間前はよく晩飯の時間とされてあるので、それまでには終わらせたいのが理想です。

なので僕は前代未聞?の片手でドローン操作、片手でパソコンを持ちながらタグづけを行っていました。最後の方では結構コツも掴んでなんとか時間短縮に役立っていたのですが、上司にも確認したところちょっと無理があるみたいなので、今後はドローンからの撮影を最低限に抑え、タグづけからコーチ陣に見せれるまでの体制の準備を早くするのが課題です。

そんな感じでバタバタした分析が終わった後は、選手たちが自分たちの年代のValue(価値観、大切にするものごと)を考えるなどのチームビルディングが着実とこなされていきました。

選手主体にValueを考えている様子

まだ1日目は楽な方で、もうこの日の晩からいろんなスタッフに「明日はハードだよ♪」と忠告を受けてました。

一日の活動が終わった後のホテルの机はこんな感じで充電祭りです。パソコン4台、iPad 3台、大カメラバッグ、大トライポッド、ドローンを主に扱います。

2日目(月曜日)トレーニングx2

大まかな作業内容は1日目と同じでしたが2部練ということで2倍の作業量で、セットプレーの確認なども行ったためセットプレー担当のGKコーチとも映像の兼ね合いをしなければいけなかったので3倍ほどの忙しさでした。

1日目のライブコーディングでミスした箇所も見直せれていたので、なんとか乗り切りることができた1日でした。

午前練の後、翌日のスウェーデン戦に向けて国歌の練習
僕とコーチで選んだクリップを選手たちで分析し、コーチ陣にプレゼン。やっぱりドローンからの眺めは最高。

正直2日目くらいまではミスがいくつかありながらも自分の中でベストが尽くせていた感覚がありました。ここが国際トーナメントの罠でもあるのかもしれませんが、いつもは長くても3日のキャンプで徹夜で無理してこなせていた分も、この大会の場合はご飯を作業で抜いたり睡眠を削ったりすると、後々命取りになってきます。

1日目、2日目とそれぞれトレーニングやミーティングの個人的な振り返りなどを夜遅くまで取り組んでいた上に過酷さを増していくスケジュールで、3日目から6日目のオフまではなぜか1つ1つの作業に集中できずミスがだんだんと多くなっていくのが自分でもわかりました。他のプレースメント(インターン)の作業も上積みされて、数日間は12時ごろにベッドに入るや否やアラームもつけていないのに2、3時に目が覚めて作業に取り組むみたいな期間もありました。

食や睡眠による自己管理コーチ陣とのコミュニケーションで自分の作業量の管理などは今後個人的に取り組んでいかなければならない課題ですし、初めて長期間のトーナメントに参加してみて個人的に最大の学びです。

3日目(火曜日)対スウェーデン

対スウェーデン、デンマークは18時キックオフということから、朝はセットプレーの確認が主な作業でした。セットプレーというと、個人的にはコーチ陣がスタメンに合わせて配置、役割、人選を決めるのだと勝手に思い込んでいたのですが、この大会で帯同したU15、その1週間前に帯同したU16共に選手たちが自主的に話し合いながら最終的な自分たちの立ち位置を決定していました。

尚、全決定権はもちろん与えられていませんし、所々で対戦相手のセットプレーに合わせたコーチの介入もありますが、選手たちにセットプレーを理解させ、各々の判断に責任を持たせる良い取り組みだな、と思いました。

午後は休憩を挟んだ後、試合前の最終確認に入るのですが、アナリストの僕はモンタージュ(モチベーショナルビデオ)作成が残されています。個人的にはアナリストの仕事じゃないやろ!と昨シーズンは心のどこかで思っていたのですが、少し考えが変わりました。

良いモンタージュを作るのには選手の立場に立ってコーチ陣たちのメッセージを読み取る必要があります。戦術面だけでなく、メンタル面でもいくつかのメッセージや数日間のトレーニングに渡って共通したコンセプトを適切な動画と音楽で短時間に抑える必要があります。

ロッカールームの様子

試合前はそんな感じで、試合中は主に撮影とライブコーディングに取り組みます。時間削減を目標にここでもまだまだブラッシュアップが必要だな、と感じています。

テーブルがなく、三脚の間にパソコンを置くといった大胆な設置方法で臨みました。パソコンスタンドは必須です。

スウェーデンのアナリストとは一番喋った気がします。ウェールズに住んでいたこともあったらしく、僕の好きな現チェルシー監督のグラハムポッターがスウェーデンのクラブで成功したこともあり、その話題で盛り上がりました。雨が降ってくるや否やサランラップをパソコンにかけていて、その独創力に驚きました。

スウェーデンのアナリスト、いろんな機材も紹介してくれた。経営学者として普段は生活しているらしい。

結果は1−1でPK勝利を収めました。ウェールズもそうですが、スウェーデンも短期間で戦術的に整理されていました。予想外の4222で責め立てられましたが、なんとか守り切ったという内容でした。

試合後はコーチ陣と翌日のミーティングで使う動画の内容を話し合います。その上に対戦相手のアナリストともコミュニケーションを図り、次戦の対戦相手分析ができるように映像収集も始めます。

4日目(水曜日)リカバリー&トレーニング

フィジオ(理学療法士:主に選手のコンディショニング、疲労の管理を担当する方)が一番ピリピリしていたのがこの日でしょう。MD-1(対デンマーク1日前)でもありMD+1(対スウェーデン1日後)でもあるこの日は最もコンディショニング管理の難しい日だからです。

冷水シャワーやアイスバス、ストレッチなどで十分に疲労回復に励みながら、翌日のデンマーク戦に備えた軽い練習を行いました。

立体の戦術ボードを使ってプレスの要点を振り返っている様子

このフィジオがめちゃくちゃ優しくて、自分が寝不足でキツかった時によく励ましてくれました。昔スウォンジーのファーストチームでも働いていたらしく、これまた僕の好きなグラハムポッターが1シーズン指揮したクラブなので「いやーポッターはすごい紳士的だったよー」とか「あのアシスタントコーチはぬいぐるみのクマみたいだよねー」みたいな話もしてくれました。

スタッフ陣を観察していると、それぞれの基本的な業務が高い質で発揮できるのが第一優先ですが、専門的なスキルにプラスαでユーモアやコミュニケーション能力を持っていました。よく聞く文言ですが、今回はそれを肌で感じられました。

5日目(木曜日)対デンマーク

基本的なスケジュールや業務内容は対スウェーデンとは変わリませんでしたが、通常のマッチデーの作業に加えて前もって頼まれていたのが個人クリップの作成です。基本的にはスウェーデン戦とデンマーク戦で出場した選手のタッチ集を作成するという作業で、それが全て終わった後はその動画を選手たちに送信し各自でその動画を確認します。

23人の選手が4人のコーチに振り分けられており、決められた時間帯で選手が選んだいくつかのシーンをコーチとともに話し合うといった取り組みです。8日間の中でできる限り多くの選手の成長をサポートするのが理想ではありますが、23人全員とは密接に関われないのが現状です。ですので、こういった取り組みを通して選手が試合中や練習中に感じている疑問などを少しでも解決していき、今後のウェールズ代表での活躍に繋げてほしいです。

これは完全に徹夜案件なので覚悟はしていたのですが、ヘッドコーチが試合会場へのバスの中で「ユウマ、ちょっとお前は休憩したほうがいい」と優しく声をかけてくれました。ここでの会話で初めて自分がかなり無理をしていたことに気づき始めました。

というのも、今までアナリストとして活動してきた中で監督側から無理難題なタスクを求められることは少なく、どちらかというと自分からアナリストのできることを提示してきた印象が強いです。アメリカの高校では自主的にハーフタイムの分析や試合後のプレゼンを作成し、少し難しいタスクでも時間をかけて今の自分がアウトプットできるものをぶつけてきました。

ですが、僕が今回参加した国際大会などではいきなり逆の立場に放り込まれて、いわゆるNoと言えない日本人に陥ってしまいました。その時々でベストは尽くしつつも、一定の質を厳しいスケジュールの中で保つのが重要です。そのためにはスタッフ陣、主にコーチ陣と会話を重ね自分とコーチに合ったワークフローを見つけなければなりません。

限界を迎えて移動中のバスの中で寝ながら作業をしている自分。

ちなみにこの試合もPK戦までもつれ込み、またまたPK戦勝利を掴みました。

6日目(金曜日)オフ?

ということで、デンマーク戦の次の日はオフをもらいました。と言いたいところですが、結局何かしら仕事があるのがアナリストです。

最近ソウルの病院がテーマの韓国ドラマにハマっているのですが、そこでたまに出てくるのが「週末ってなに?」というセリフです。医療従事者の忙しさを物語っていますし、後から見返してすごく共感できました。プレミア、ましてやさらにチーム数の多い英2部のチャンピオンシップのアナリストはもっと過酷なんやろな、と物思いにふけながら尊敬してます。

「賢い医師生活」という韓ドラです。おすすめです。

結局前夜に6日目のためのチームミーティング用の動画を用意し、そのプレゼンが終わった後はすぐに土曜日用の個人クリップの作成に移りました。ずっとパソコンを開いているのには変わりないものの、少し自分の部屋でゆっくりしながら作業できたのは残り2日間のエネルギーにつながりました。

7日目(土曜日)トレーニング&個人クリップ振り返り

ここまでくると少し慣れも出てきて、トレーニング前に抑えなければならない要点をおさえれたり、作業効率が上がっていきました。個人クリップ振り返りの時間を有効活用し、チームミーティング用のクリップ作成ができたのも余裕ができてよかったです。

個人クリップをコーチと見返している様子

8日目(日曜日)対ベルギー&帰宅

朝方の10時キックオフということもあり、かなりバタバタした中での試合でしたが選手、スタッフが共に過去2試合の反省を活かしてそれぞれの役割を理解し、協力しながら挑めた試合だったように思います。結果は1−2の敗北に終わりましたが、試合終了の笛が鳴った後は正直負けた悔しさよりも8日間乗り切った安堵の方が強かったです。

といった感じで僕の初めての国際大会は幕を閉じました。キツかったですけど、アナリストとしていろんな失敗を経験できました。スタッフの皆さんには迷惑ばかりかけたものの、終始協力的で初めての自分も問題なく馴染めました。これを機にウェールズ代表の活動に少しでも興味を持ってもらえれば幸いです。

芝本


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