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古田和子「モーメント」を開催中

現在、Cyg art galleryでは山形在住の画家・古田和子の展覧会「モーメント」を開催中です。展覧会の詳細はこちら(Cygウェブサイト)
今回は、作家からお伺いしたお話やスタッフが感じたことを記事にしてみました。どうぞお付き合いきください。

展覧会に寄せて・古田和子の言葉

数年前に、海に潜った時の経験が忘れられない。

海に潜るために、まず潜り方を教わった。
肺を膨らましたり萎ませたりすることで、体が浮いたり沈んだりすることを知ったが、これがなかなか難しい。
陸の世界に慣れ切った私は、海の中では赤子のようだった。

少しずつ慣れて、周りを見る余裕ができると、そこに暮らす生き物たちの存在に気づいた。
信じられない速さで動き回る魚たち、滑らかな筋肉の動きが美しい蛸、漂う海藻と無数のプランクトン。
陸で出会う水の生き物とは全く違う姿に、まるで違う星に来てしまったような感覚に襲われた。

陸にあがった時、世界の端がふわっと広がったような気がした。

モーメントには、『一瞬』という意味のほかに、『きっかけ』という意味を持つ。

この世界の手触りが、私の世界を拡張する。

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ー古田の描くもの、描きたいものはなんなのでしょうか

古田は実際の出来事や物語にインスピレーションを得て、作品を制作します。
けれどもそれは、作品制作のためにリサーチをして得たものではないといいます。自分自身または偶然知り合った人の日常の延長線上にあるもの、それらが作品のもとになっています。
動物や植物を描くので、畏敬の念を示しているようにも思われることもありますが、そうではなく「一瞬」「ある瞬間が変わる場面」を表現しているそうです。
動物や植物は、表現したいことに適切であるために登場します。
それは「時間」を描いているともとれます。夜から朝に変わるあわいの時間が大好きだと語る古田。動物には、人間とはどこか異なる長い時間軸があるようにも感じるそうです。「モーメント」という言葉をきっかけに絵を楽しんでもらいたい。何が起きたのか前後を想像してもらえたら嬉しい。といいます。また、描いたものと全く異なる想像を膨らませてくれたら、それも嬉しいと。

今回の展覧会タイトルの「モーメント」は一瞬のほかに、「きっかけ」という意味をもつそうです。古田が絵を描き続けるなかで、とても重要なキーワードであることが改めてわかりました。
展覧会に寄せた作家の言葉には、最後に「この世界の手触りが、私の世界を拡張する。」とあります。古田作品は鑑賞者に想像を促し、世界を拡張させる役割も強くもっていると感じます。

ー表題作《モーメント》より

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上の画像が今回のメインビジュアルにもなっている《モーメント》2021年の作品です。
古田自身が出会った出来事で、特に印象に残っていること、また絵の題材としてたびたび登場するのが「海に潜った経験」です。数年前に、知人にすすめられ宮城県女川の海に一度だけ潜ったそうです。
そこでは、自らの身体は陸にいるときのようには動かず赤子のようだったと言います。逆に、普段陸で目にする魚やウニやタコはとても達者でしなやかに悠々と泳いでいます。まさに陸と海の立場が逆転しているようだったそうです。
また、この海に潜る感覚と近いのが「落ちる感覚」。

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こちらも《モーメント》とタイトルをつけた作品のひとつです。海ではなく陸であることがわかると思います。
「落ちる感覚」は、大なり小なり誰もが一度は経験しているのではないでしょうか?(古田も幼少の頃から大人になるまでに二度ほど大々的に落ちたことがあるそうです。)

ー古田が日本画をはじめたきっかけは?

1985年東京都生まれの古田は、美術科のある高校に入学し「日本画」を専攻しました。なぜ日本画を専攻したのか尋ねると「一番わからないものを選んだ」「できない方が楽しい。」と言います。展覧会に寄せた古田の言葉にも、海に潜った経験からの世界との関わり、広がりを捉えていく様子が伺えますが、高校入学時から「未知」のものと出会うことに興味を持っていたのではないでしょうか。「わからないもの」を受け入れて、世界と自分との不安定で変化していく関係を楽しむ感覚が備わっていたのではないかと思います。
古田は、そのまま20年以上「日本画」に触れ続け、現在も日本画画材をもちいて制作を続けています。最近は「少しだけ日本画と仲良くなれた。」と言います。
そんな言葉とは裏腹に、そしてどこか素朴で愛らしい雰囲気も持ち得る作品からは、確かな技術も感じます。
日本画は、ほとんどの人が触れたことのない技法かと思います。日本画では、自然の鉱石などを砕いてつくった「岩絵具」や貝殻からつくられる「胡粉」などの粉末状の顔料を、動物のコラーゲンからつくられる「膠(にかわ)」を接着剤として、丁寧に指で溶き合わせて、液状の絵具にしてから描画をしていきます。塗り重ねて深い色味や質感を表現できる一方、一歩間違えば絵にヒビが入ったりカビが生えたりする危険もあります。また、塗ったときの色味と乾いた時の色味の差が開きやすいという側面もあります。
少し難しそうな技法ですが、古田は軽やかに描いているようにさえみえます。どうしてこんなに軽やかに描けるのだろうと思ってしまいますが、きっとそれは日本画と向き合った時間と姿勢によるものだろうと思い入ります。

ー北東北で初めての作品発表となりました

いままで東京や、縁のある山形や宮城での発表が多かった古田ですが、北東北での発表は今回がはじめてとなります。古田自身「盛岡の方にどんなふうにみていただけるのだろう」と期待と不安の言葉を口にしていました。
蓋をあけてみれば、とても好評で、感想を寄せてくださるお客様が大勢いらっしゃいました。古田の世界をみつめる感覚は、とても共感を得ているようです。

わたしも、古田の作品を北東北ではじめて紹介することができて感無量でした。また、ギャラリーとしても10年近く活動していましたが日本画家の個展ははじめてです。そんな記念すべき展覧会となったこともとても嬉しいです。

古田和子「モーメント」は10月12日(火)まで開催しています。ぜひ皆さんにご覧いただきたい内容となっております。
ご来場おまちしております。

スタッフC

古田和子|モーメント
会期:2021.9.23(木祝)–10.12(火)/会期中無休
会場:Cyg art gallery [シグアートギャラリー]
   (岩手県盛岡市菜園1-8-15 パルクアベニュー・カワトク cube-Ⅱ B1F)

東京出身で山形在住の画家・古田和子の個展を開催します。
古田は、土地の物語や実際の出来事にインスピレーションを受けながら、日本画画材を用いて作品を制作しています。絵の中に登場する動植物や人物は世界との対話を試み、こちらになにかを語りかけているようでもあります。
北東北での作品発表は今回が初となります。ぜひ古田作品をお楽しみください。

展覧会詳細ページはこちら
気になる作品がございましたら、ウェブサイトのコンタクトフォームよりお気軽にお問い合わせください。会期中にお越しになるのが難しい方のためにも、オンラインショップでも作品を販売しています。

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