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ピチピチジャージの特性をサイクリスト国勢調査から掘り下げる

「ピチピチのジャージ着たサイクリストは、人口も少ないし走ってばかりでちっとも地域で金を使わない」ということを耳にしたんだけど、ホンマなのかサイクリスト国勢調査のデータを使って調べてみた。

サイクリスト国勢調査 2021って何?

サイクリスト国勢調査2021とは、一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパンが全国の15歳~74歳の男女10,000人を対象にしたサイクリストの行動実態を把握するために実施された調査です。

これだけ大規模な調査はお金もかかるし、なかなか実施されないのでサマリー版ですが、結果を公表していただけるのはとてもありがたい。

いろいろ書いてあるのですが、気になったのが17ページのこちら。今回はここの内容を少し掘り下げて見ていきたいと思います。

出典:ツール・ド・ニッポン(一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン)
サイクリスト国勢調査2021

6つのセグメント別の市場規模、人口、消費額

この調査では、サイクリストを6つのセグメントに区分して、それぞれの市場規模や人数、消費額などを算出しています。

出典:ツール・ド・ニッポン(一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン)
サイクリスト国勢調査2021

資料によると、サイクリスト人口は約5000万人くらいいて、その殆どが「日常の移動手段層」でサイクリストにしめる割合は86.6%と圧倒的。一方で、自転車を主体的に乗る「ツーリング層」「サイクルイベント層」「レース層」は3つのセグメントを合わせても3.4%ほどしかいない。超裾野の広いピラミッド構造となっています。

セグメントと人数の割合

ときどき「ピチピチのジャージ着たサイクリストは、人口も少ないし走ってばかりでちっとも地域で金を使わない」ということを聞いたりします。確かにサイクリスト人口のたった3.4%しかいないですから、話にならないような雰囲気が出ています。

でも、ちょっと待ってくださいよ。これはホンマですかね?疑いやすい性格ですみません。これから、人口少ない、消費額少ないが本当にそうなのかを検証していきます。

①ピチピチジャージ、人口少ない問題

この調査では、「直近1年以内にサイクルツーリズムを経験しましたか?」といった質問もしているようです。この結果が、なかなか興味深い。

各セグメントごとの直近1年のツーリズム経験割合

全サイクリストのうち、直近1年のうちにサイクルツーリズムを経験した人の割合を確認してみると、主体的にライドする層(緑色)の割合が軒並み60%を超えてくるのに対し、それ以外の層は20〜30%台とかなりの差があることが分かります。

すなわち、「日常の移動手段層」「健康エクササイズ層」「旅行・レジャー手段層」のサイクリストは、「たまたまサイクルツーリズムのイベントがあったのでやってみた〜」といった自転車に対しては消極的な層であることが分かります。つまり、イチゲンさん的な存在。

一方で、「ツーリング層」「サイクリングイベント層」「レース層」のサイクリストは、サイクルツーリズムを積極的に頻繁に経験している層であることが分かります。つまり、ファン層であり、リピーター層。

直近1年にツーリズム経験した人の割合

直近1年以内にサイクルツーリズムを経験した人数で各セグメントのシェアを出し直してみると、主体的にライドする層のシェアは、9.6%にまで上がってきます。

検証してみた結果、アクティブな人のシェアで見るとピチピチジャージのサイクリストは10%近くの存在感を示すことが分かりました。

②ピチピチジャージ、消費額少ない問題

次に、各セグメントの消費額を見ていきます。まず、各セグメントの可処分所得のデータが資料の中にあります。可処分所得とは、給料の中から税金や社保費などを引いた自由に使えるお金のことですね。

各セグメントの可処分所得

前回2018年調査の可処分所得と比較すると、サイクリングイベント層とレース層の落ち込みがとても気になります。20%以上のブレです。算出根拠が分からないので何とも言えないのでスルーします。

2021年の各セグメントの可処分所得を見ると、健康エクササイズ層が頑張っていますが、まぁまぁ大きな差はないかなと思います。

では、この可処分所得のうち、ツーリズム関連にどのくらいの割合を出費しているかというデータが次のデータです。

ツーリズム関連出費

サイクリングイベント層とレース層は30%を越えていて、ツーリズム出費に積極的であることが示唆されています。ツーリング層は、直近1年でサイクルツーリズムの経験割合が最も高いですが、出費は控えめですね。

検証してみると、ピチピチジャージのサイクリストは、そこそこお金使って頑張ってるよ、ということが分かります。

市場規模

最後に、調査では各セグメントの市場規模を推定しています。直近1年以内にサイクルツーリズムを経験した人数とその人たちが出費するサイクルツーリズム関連の平均費用をかけ合わせたものをサイクルツーリズムの市場規模としています。

各セグメント毎の市場規模

全体の市場規模は1,315億円ということでした。また主体的にライドする層の市場規模は、157億円ということで、全体の11.9%を占めることになりました。

当初の人数だけを見るとわずか3.4%程度の層だったのですが、直近のサイクルツーリズム市場に対する寄与度は意外と高いことが分かります。

ピチピチジャージの真相

「ピチピチのジャージ着たサイクリストは、人口も少ないし走ってばかりでちっとも地域で金を使わない」

データから見ると、これは完全には正しくはありません。恐らく感覚と実態の齟齬があると思う。水道の蛇口を数秒間ジャーーっと捻って水を受けるのと、長時間ポタポタと滴る水を受けるときの感覚の差のようなもの。最終的に受ける水の量は同じ、かかる時間が異なる、ということ。

長期的に見れば、ピチピチジャージのサイクリストは人数は少ないもののLTV(顧客生涯価値)は高くなる傾向がありそうなので、お金を使わないってのは違うんとちゃう?ってなる。

一方で、スポット的なイベントで短期間に売上を上げたい、分かりやすい数字を出したいと考えると、集める人数に注視しがちであるから、ある意味正しい。

つまり、サイクルツーリズムを実施する地域がどのくらいの期間を考慮した施策を設計するかによって、見え方もターゲットも変わってくるということだ。

正直、このあたりをちゃんと検討できているサイクルツーリズムは、数えるほどしかないと思っている。

理想を言えば、「日常の移動手段層」「健康エクササイズ層」「旅行・レジャー手段層」のサイクリストをいかに「ツーリング層」「サイクリングイベント層」「レース層」に移行させていくかまで考えたいところです。

まとめ

ひごろより蔑ろにされがちなピチピチジャージのサイクリストですが、意外とがんばり屋さんであることを言いたかった。「最近ぜんぜんトレーニングできていないわぁ」と自虐的な嘘を言う傾向はあるが、サイクルツーリズムにおいて視点を変えれば、長期に渡って地域経済に寄与する可能性がある存在だということです。




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