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州民請求「交通シフト・ヘッセン」署名提出までの道のり #5

#4 からの続きです。「私の署名はドイツ国籍じゃないから最終的にカウントされないんです」と助けを要請する風の集めパターンは功を奏し、旧オペラ座前広場に散らばる他の署名集め隊も好調なようであった。"本日は見物客"という衣を羽織ったベテラン集めウーマンの「今日難しそう」という予想に反して、スポーツバイクレースイベントへの出展は確実に吉と出ているようだった。「興味がない」とか「署名したくない」という人ももちろんいるが、簡潔なお断りは双方にとって最もいい時間の過ごし方である。たまに延々と自分のことを語り尽くしたい人もいるが、聞き応えのある内容はあったりなかったりである。署名がもらえれば終わり良ければすべてよしとなるが、そうならないケースにこの日は一件だけ当たってしまった。

ブースを片した後。無料でレンタル可能なカーゴバイクが3台揃った
フランクフルトとオッフェンバッハで20台ほどが稼働中である

それは娘が社会的に高い地位とされる職業に就いているというおばさんだった。「"すべての人"にとって支払い可能で気候負荷の低いモビリティを〜」と言ったところで「??」となる人は、まず"自分"という主語でテーマに近い話をしてくれることが多い。この方も「自分の子供は一人で自転車で学校に通えた」ということだった。ここで私がした大きめの失敗は在独邦人のモビリティを持ち出したことであった。「多くの日本の人は自転車に乗ることができるが、ドイツの自転車走行空間ではそのモビリティを諦める人が少なくない」と言うと、おばさんは「重度の障害を持つ子供の外国人の親が、子供のためと偽り税金で自分のために高価なパソコンを買った」と。要は何故自分がたくさん納めた税金が外国人のために使われなけばならないのだという主張と理解。私の"気候環境負荷の低い移動手段を使う能力を既に身につけた人が、安全と思える走行空間の欠如によって負荷の高い移動手段に流れると全体の益にならないでしょう?"という主張が以心伝心すると思ったのがバカだった。相変わらず議論がヘタだし、何よりブースで唯一の外国人の私が知るモビリティと、署名権のある相手が知るモビリティの重なりは少ないことも多いので「この人、署名してくれなさそうだな」と思った相手に持ち出す例は要厳選である。例の準備にかかるのはいつも事後なのだが。

何かを購入するわけでも、自分の労働契約書にサインするわけでもないのだから、社会を構成する人のモビリティがフェアに近づき、気候危機に適応しようとする方向性が合っていれば署名してくれればいいのになと思う。が、変な方向にタネを蒔いてしまった私は聞き役に徹することにし、このおばさんの気持ちに理解を示した。おばさんが再びブースの前を通った時に腕をあげて挨拶してくれたので、後味を悪くしない会話はその後できたのかなと。もし今度この方向に歩を進めてしまったら「外国人がクルマで公道を暴走し、税金を払い続けた歩行者・自転車利用者が犠牲になってもいいのですか」と聞いてみようかと思う。それを誘発する走行環境は存在し、それ目当てにドイツに来る人だっているのだから。

信号待ち中の帰路につくの図

この日の午前10時から始まった署名活動もイベント終了と同時の18時にお開き!カーゴバイクに投げ込んだ署名用紙を集計すると、一日にしてはこれまでの5本の指に入る上出来クラス。オッフェンバッハから来た我々5名はフランクフルトの面々に「またな!」といい帰路につく、そんな直接民主主義的 #休日のすごし方 でした。


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