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面会禁止~新型コロナ感染者ではない入院患者への影響

すごい山です。

医療ソーシャルワーカー(MSW)をしています。

↑まだ読んでない方はぜひご覧ください!

新型コロナウイルスの猛威が日本中に広がって早1年。
私の職場を含め、多くの病院が面会を禁止または大幅に制限していると思います。
これはもちろん新型コロナウイルスが外部から持ち込まれるのをできる限り防ぐ措置であり、致し方ないことではあります。

しかしその裏では自身が新型コロナ感染者ではないにも関わらず、厳しい入院生活を強いられている人達がいます。

メディアではどうしても感染者に焦点を当てた病床不足、医療逼迫などが取り上げられがちです。しかし、入院している患者の大半が新型コロナとは無関係に医療が必要な人達です。
今回は、感染者ではない患者さん達の入院生活にどんなことが起きているのかの実際をご紹介します。

1.入院時が最後の会話に…再会できたのは急変時

面会禁止の中で入院している患者さんは、文字通り家族や親しい人に会うことができません。

そんな中でも患者さんと家族が面会できるときがあります。
それは命の危険が迫った急変時。

このときばかりは、寧ろ今すぐ来てくださいと家族が呼ばれます。
多くの家族は出来る限り早く駆けつけてくれますが、その時点ではコミュニケーションが難しい病状であることが多いです。
心肺停止となり、医師らが心臓マッサージなどで家族が到着するまでなんとか命を繋ぐケースもあります。

そして、そのままお看取りとなる患者さんもいます。

平常時だったら、ここに至るまでの入院生活の中で、もう少し患者さんと家族が顔を合わせる機会を持てたかもしれない。コロナ禍の面会禁止によって、人生の一番最期の家族の貴重な時間が奪われています。


2.家族と会えず認知症が進行

コロナ禍に限ったことではないですが、認知症の患者さんにとって入院は大きな転機となることが多いです。

認知症の患者さんにとって、入院による急な環境変化や、病気や治療による苦痛という状況を理解して冷静に受け入れることは難しいことです。
混乱して大声で家族の名前を呼んだり、時には暴れて医療者に危害を加えたり点滴を自分で抜去してしまう方もいます。

治療上危険な場合には、親族等の同意の下で身体拘束を行い、患者さんの動きを制限します。行われる身体拘束には、ベッドと体をベルトで固定し起き上がれなくすることや点滴などに触れないように手にミトンをつけること等があります。
これらは患者さんに安全に治療を受けていただくため、医療者を守るためには必要な措置ではありますが、認知症の患者さんにとっては大変な苦痛となることもあります。

そんな中で患者さんが唯一日常を感じられるのが家族や親しい人の面会です。
しかし面会禁止の下ではその機会は失われてしまいます。認知症の患者さんは徐々に日常から離れ、病院での制限された生活の中で更に認知機能が低下してしまいます。

とある認知症の患者さんの例を挙げてみます。
この方は入院して最初の頃は「早く家に帰りたい」とリハビリを頑張っていました。
ところが家族と会えないことで徐々に目標を忘れていき、「見捨てられた」「家族はいません」等と話すようになりました。リハビリ意欲もどんどん低下して動くことを嫌がるようになり、結局自宅に戻れずに介護施設に入ることになってしまいました。

もしこの方が日常的に家族の励ましを受けながらリハビリを受けられていたら、今回は自宅退院できたかもしれない。そう思うとMSWとしてはとても心苦しいです。


3.大事な決断なのに…家族と相談できない

入院を契機に人生の大きな決断をする方もいます。
例えば、要介護状態となり初めて介護サービスを利用する方、自宅での生活をやめて施設に入る方、抗がん剤治療をやめて緩和ケアのための病院に入院する方…

これらはすべて患者さんのその先の生活を大きく変えることになります。
平常時であれば、患者さん、家族に集まってもらい、医師から病状説明をしたり看護師やMSWと今後の生活について相談したりします。

しかし、面会禁止の場合はそう簡単にはいきません。
患者さんと家族は個別に病状説明を聞かなければならないこともあります。大切な話なのに、患者さんと家族が同じ話を共有することがとても制限されるのです。

そもそも患者さんと面会できない家族は、患者さんがどのくらい喋れて、動けて、食べられるのか、といった基本的なことすら医療者からの伝聞でしか知ることができないのです。

面会禁止の入院生活の中では、『新しい生活の場所やスタイルを決める』という家族内の大事な相談事を共有し、話し合うことすら普通にできないのです。

もしそれが患者さんにとって『終の棲家を探す』ことであったとしても。


4.おわりに

上記は現在の病院の現実の一部です。
もちろん、他の病院では対応が違う面もあると思います。私の職場でもケースにより対応が変わることはあります。
でも面会禁止の医療機関が多い中で、似たような状況の病院も多くあるのではないでしょうか。

私は、こういった状況もメディアの言う『医療崩壊』の一要素ではないかと考えています。

新型コロナウイルスに感染さえしなければ普通に医療が受けられるから問題ない、ではないのです。
確かに入院できれば治療は受けられます。でも退院しても元の生活に戻れるとは限らない、じゃあ急いで新しい生活についても考えなければならない。

そこまで患者さんと一緒に考えるのが病院の役目であり、MSWの仕事だと私は思っています。しかし、コロナ禍での面会禁止はそれを阻んできます。
その影響で患者さんの生活が大きく変わってしまうとしたら、そういうケースが増えてしまったら、それは医療崩壊であると思います。

孤独な入院生活を過ごす患者さん、患者さんを心配して不安な日々を過ごす家族の双方の姿を見るのは、MSWにとっても辛いことです。

患者さんが家族や親しい人と励ましあいながら入院生活を過ごす、当たり前の日常が早く戻ることを切に願っています。

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