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【イベントレポート】デジタル・シティズンシップで学校DX~公立校での授業実践を身近に~

2022年11月27日(日)、株式会社サイバーフェリックスは、全国の自治体でICT環境構築および支援に取り組む平井聡一郎氏と、オンライン学習プラットフォーム「DQ World」を実証導入する鹿児島市とつくば市の教育委員会担当者と教職員を招き、オンラインイベントを開催しました。以下は、イベントの開催レポートとなります。

■学習者同士の対話的な学びに、学びの段階を上げるデジタル・シティズンシップ

プログラムの先陣を切ったのは、合同会社未来教育デザイン代表社員で文部科学省や様々な自治体のアドバイザーを務める平井聡一郎氏による講演である。

人生100年時代に突入した現代社会で、義務教育の学びにとどまらず、生涯学び続け、社会に対応できる子どもを育てることを見据えて新しい学習指導要領が作られた。

しかし、GIGAスクール構想の第二段階に入り、GIGA端末を使いこなしている自治体が増える一方、学校での学び方は先生が教える縦方向のスタイルからアップデートされていないのではないか、と平井氏は指摘した。

実際に、全国学力・学習状況調査の質問紙調査によれば、全国の都道府県で55.4%の学校が毎日端末を活用しているものの、授業などで調べごとをする場面で端末を使えている学校は、19.6%にとどまっている。

そこで平井氏は、端末利活用のレベルを4段階で示すSAMRモデルを英検の級で例え、アウトプットに使うなど機能を「拡張」するレベルである3級の壁を越え、学習者同士が横方向に対話して学び方の大幅な変更をする2級に格上げすることが、新しい学習指導要領が目指す学びを実現する上で重要だと訴えた。

SAMRモデルと具体的な活用のレベル

では、この壁をどう越えるか、という話になるが、以下の2つの方法が有効だと平井氏は説明した。

①学習者のリテラシーのアップデート=デジタル・シティズンシップ教育の実施
②教職員の授業に対する意識のアップデート

ルールから約束へ。先生が決めるルールは思考停止に陥る可能性があるため、自分で判断してICTを使えるようになる必要がある。そこで重要になるのは、子どもが時代にあったリテラシーを身につけるだけでなく、先生も一緒に学びなおし、子どもにゆだねていくことになるそうだ。

この2点の実践について、各自治体の考えと実践について紹介された。

■お化け屋敷型情報モラル教育からTry&Learnの活用へ、鹿児島市の事例

次に、鹿児島市教育委員会学校ICT推進センター所長木田博氏が登壇し、鹿児島市でのデジタル・シティズンシップ教育の推進について紹介された。

木田氏によれば、これまで「怖いぞ、近寄るな」といったような、とにかく子どもをインターネットを使う際のリスクに近づけないようにする「お化け屋敷型情報モラル教育」が学校で実施される傾向があったという。一方、必要なICTスキルは、社会に出たら身につくからと予定調和な考え方があり、後回しにされてきた傾向があるそうだ。

鹿児島市のインターネットコンクールでの例を挙げ、インターネットの世界で評価され、将来日本を代表するアーティストになる可能性のある子どもが今の学校では、なかなか評価されないことも少なくない、といった問題点を指摘した。

そこで、鹿児島市では、リスク回避から「Try&Learn」への移行を掲げ、まずは試しながら進んでいき、子どもの自立した学びによる自律的な情報活用を目指しているそうだ。

そのために木田氏は、「ラーナー・セントリック」と言われる学び・正解は与えられるものではなく、自分で獲得していくものという考えに授業そのものの概念を大きくアップデートする必要があると訴えた。

自立した学びができるようになる基礎を身につけるため、鹿児島市の理念に合う教材としてオンライン学習プラットフォームDQ Worldを選定したと説明した。

DQ Worldの実証導入を後押しした理由

さらに、DQ Worldの実証導入を進める上での推進校に指定されている鹿児島市立松元中学校の木原敏行校長が登壇し、具体的な取り組みが発表された。

木原校長が今年の4月に赴任してから、DQ Worldを実証導入した松元中学校では、インターネット関連のトラブルが起こってから指導・対処するのではなく、いかにインターネットを上手に活用するかの判断力と心構えを予め学ぶことを重視するようになったそうだ。

デジタル・シティズンシップ教育の実施に関連して取り組んできたことは、多岐にわたる。例えば、学校だより等でデジタル・シティズンシップの考え方やスキルを嚙み砕いて説明することによる保護者、児童、先生への周知や同地域で松元中に進学する4つの小学校でのDQ Worldの導入推進および成果の共有などである。

木原校長によれば、学校・家庭・社会の活動の基盤になる市民性を身につけるものとデジタル・シティズンシップを定義し、情報モラル教育からの改革ではなく、今まで教職員が蓄積してきた情報モラルの指導スキルを「広げていく」というアップデートが重要であると訴えたという。

その後は、松元中学校で重視するデジタルフットプリントに焦点を当ててから、各学級での実践に引き継ぎ、現在、多くの生徒が学習を進めつつあるという。今後も学習時間の確保や保護者との連携など実践を通じて見えた課題を乗り越え、結果につなげたいと結んだ。

デジタル・シティズンシップの定義や嚙み砕いて説明する様子

■自分で説明できる端末活用のルール作りを、つくば市の事例

続いて、つくば市の事例紹介に移り、つくば市教育委員会に所属する一方、文部科学省の教育データの利活用に関する有識者会議等でも活躍する中村めぐみ指導主事が登壇した。

GIGAスクール構想が始まって以来、つくば市では教育大綱の中に、一人ひとりの児童生徒が幸せな人生を送れるようにという理念を掲げ、この理念に繋がる学びのためにGIGA端末を使うことを位置づけたという。

また、Society5.0に合ったモラル、情報活用能力を身につけることで、そうした超スマート社会でもつくば市の子どもには活躍していってほしいという理念の背景にある想いが語られた。

実際、デジタル・シティズンシップ教育の実践に至る前から、つくば市では、2016年から小中学校9年間を通じた情報活用能力の育成表が作成され、つくば市が重要視するスキルをまとめた7Cの中には、シティズンシップという要素が含まれている。

こうした経緯と考え方のもと、つくば市ではGIGAスクール構想が始まったからこそ起こるトラブルに対して独自のアプローチをとっている。これまでの管理的発想では学習を制限してしまうため、ICTをより良く使うことを通してシチズンシップを培い、自分たちで解決策、ルールを決めていくルールメイキングといわれるものである。

続いて、学校主体で立ち上がったルールメイキングプロジェクトを実践したつくば市立吾妻小学校での取り組みが紹介された。

吾妻小学校で、このプロジェクトを主導する内田卓教諭によれば、吾妻小学校は、帰国・外国人児童が多く、多様な考えや文化に触れられるという特色を持っているという。また、ICTの活用の観点では、児童が課題を与えられると自分で使い方を考えられるレベルまで達しており、端末の持ち帰りは申告制で可能になっているそうだ。授業の時間以外での使用についても、休み時間は授業の活動の続きまたは係活動や委員会活動等を中心に活用がされている。

こうした積極的なICT活用が進む状況の中で、違和感のある使い方も出てきたという。先生や状況によって違うルールが出没し、先生も児童も混乱していた。実際に児童の意見を聞いてみると、やりたいことが制限されるルールやそれぞれの都合によって解釈されたルールが挙がり、認識のズレが明らかになった。

そこでせっかくの課題をチャンスと捉え、ルールメイキングプロジェクトが立ち上げられた。デジタル・シティズンシップの授業を実施後、ルールメイキングの活動をし、定期的な振り返りをした。DQ Worldは、短期間で課題を自分事にすることにつながる教材として選択された。

内田氏によれば、実際にデジタル・シティズンシップの授業をしてみると、児童がインターネット上の様々な課題について自分は問題を起こしたり、巻き込まれるはずはないと思っていることが分かったという。

また、次のステップであるルールメインキングでは先生の知識のインプットから始め、1~6年生での年間計画を策定した。休み時間の端末の使い方など、子どもの関心が高いトピックから取り上げて話し合いを行ったが、児童が挙げる意見は先生が決めていた元のルールよりも厳しくなる傾向があるという。ルールを守れない状況にある児童の意見を聞くこと、多数決ではない方法で同意形成をすることなど、重要な学びに繋げるために乗り越えなければいけない課題が出てきた。

「ルールメイキングはルールを作ることが目的ではなく、プロセスを共通認識とすることで、ルール自体が必要のない社会、学校を築いていくためにある」と説明する内田氏。刻々と変化する社会環境の中で自分で考え、判断し、行動する学びであり、デジタル・シティズンシップを基礎にして自分で理由を説明できるルール作りをしていくことが重要と締めくくった。

デジタル・シティズンシップを構成する一スキルを取り上げた授業の様子

■デジタル・シティズンシップ教育を通じた学校DXは、管理職と指導教諭の連携が鍵

すべての登壇者の発表が終了し、イベントは最終パートの対談に移行すると平井氏は、これまでの発表を通じて、デジタル・シティズンシップ教育の推進および新しい学びの実現には、教職員のマインドセットのアップデートが共通課題であるとまとめた。

各自治体で課題に対する働きかけについて意見が求められると、木田氏は、鹿児島市では繰り返し各学校へ重要性を説くことで、教職員の立場は子どもが話したことを集約する立場に変わりつつあると回答した。また、松元中学校では来年度から週に1〜2回、学年単位で生徒会の自立と自律を促す活動を推進するとともに教職員が共同で、従来の情報モラルの指導からデジタルシティズンシップ教育への転換を通して、より有効な端末の使い方等について考えていく予定だそうだ。やはり、管理職のリーダーシップは大事になってくる。

つくば市でも、情報活用能力育成にあたって、各学校の校長と生徒指導主事のセットで研修会に参加を求めた。また、学校現場では教職員間でTeamsでの情報交換や外部有識者による研修を進めた。学校現場で見える子どもの状況と学校として目指したいビジョンのすり合わせも重要になるようだ。

最後に、今後の展望について登壇者から一言ずつコメントがあり、イベントは終了となった。

木田氏「可視化しにくい情報活用能力をDQ Worldのスコア等を1つの指標にして、いかに見える化していくかが今後の課題。また、鹿児島市のアンケート調査で出た63.9%の学校でのトラブル改善の数字など教材導入の成果をエビデンスとして出し、今後どうするかを示していきたい」

木原氏「生徒指導主事、生徒会の担当、校長でタッグ組んで、自立と自律の学びを目指していきたい」

中村氏「DQ Worldのダッシュボードで算出される子どもの資質能力のデータをキャリア教育に活かしていきたい」

内田氏「自分事にしていくことが何より大事。自己調整力、市民性などを身につけ、デジタルに関わらず場面ごとで誠実で適切なふるまいができる子どもを育てたい。また、DQ Worldのスコアで1000点を越える児童が出ないか期待している」

「各自治体の様々な事例が発表されたが、子どもたちの自主的な学びに向けて、管理職、教職員など各立場で努めていくことが大事」と平井氏が締めくくった。


以下のアンケートに回答すると、イベントのレコーディングを期間限定で、12月31日(土)まで視聴頂けます。

アンケート回答はこちらから▼

■DQ World 無償導入のご案内

本ウェビナーでご登壇いただいた鹿児島市教育委員会様や吾妻学園つくば市立吾妻小学校様が導入している、DQWorldを1年間無償で導入できる特別プログラムです。以下 formよりお申し込みいただくと、弊社担当より詳細をご案内させていただきます。まずはお気軽にお申し込みいただけますと幸いです。 
※2022年11月27日時点で、DQWorldは日本全国約 400 校以上で導入されております

◆ご参加の要件
効果実証アンケートの回答へのご協力(児童生徒・教職員向けの2種類を導入前後で実施)
*活用の度合いによって効果実証・ウェビナー登壇・活用事例化などへのご協力にお声かけする場合がございます。

お申込みはこちらから▼


■あなたのデジタル・シティズンシップを測ってみませんか?

デジタル・シティズンシップ診断テストは、小学生から高齢者までのデジタル・シティズンシップをオンラインで簡単に測定可能な簡易テストです。(現時点で英語版のみ)受験者は、デジタルスキル、テクノロジーの使用、インターネット上の危険に対する脆弱性のパターンや度合いから、5つのタイプに分類され、テクノロジーを安全かつ責任を持って使用する準備がどのくらいできているかをデジタル・シティズンシップスコアとして即時に確認することができます。

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