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日記ふうエッセイ【ひび】

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2023年3月の記事一覧

【日々】屈託なく生きたい|二〇二三年三月

二〇二三年三月二日  福永武彦『草の花』を読み切る。終盤に入ってページを繰る手がとまらなくなって、仕事の休憩時間をめいっぱい使って読んだ。弁当も読みながら食べた。そして本を閉じてのこるのは無力感。人はどんなに求め合っていても、ごくわずかなすれ違いで交わりえない。つよい愛は失うことをおそれ、過度に高潔な愛は目の前に具現するその愛の対象をおろそかにする。どうしてそのわずかの、ほんとうにわずかの差異をあわせることができないのだろう。苦しい。  つまるところは、こういうことなのか

【日々】ちょっとずつ澱んでいく|二〇二三年二月

二〇二三年二月二〇日  夜明けに小走り。学生のころの、合宿の朝を思い出すにおい。国分寺で中学以来の旧友Eと落ち合って、カーシェアで確保していたクルマに乗りこむ。新小平の高倉町珈琲に入ったら、いつものようにモーニングをとる。  最近引っ越してふたりぐらしを始めたかれは、「自分で作った方が早い」とほとんどの家具をDIYしているらしい。その軽やかさをあらためて見直して、まぶしいやらおのれが情けないやら。圧倒的敗北感。自分も思想だけは似たようなことをかんがえるようになったけれど、

【日々】雪道がうまくあるけない|二〇二三年二月

二〇二三年二月一日  昼前、家をでると冷たい空気に混じってどこか、冬らしくない気配がわずかに香った気がした。夜、会社を出るとやっぱりそうだ。花冷えの夜、そんな感じのにおいがする。 ◇  既出の曲を別のアーティストがremixするときの、すでに完成している作品のどこを活かして、組み換えて、どんなものを足し引きして、再構成していくかってところがそのミュージシャンの個性と曲への解釈がゴリゴリに出てくるからほんとおもしろいなあと思う。  あと、原曲で英語だったタイトルがrem

【日々】酒・夢・旅|二〇二三年一月

二〇二三年一月二十四日  会社を出ると凄まじい暴風に冗談抜きでよろめきそうになった。しかも凶悪なまでに冷たい。風が凍りついている。悲鳴をあげたい気分でそれでもアメ横へあるいてゆく。  冷風にふきさらされてひどい顔でタバコを吸っている東村と落ちあい、安居酒屋に飛び込む。物書きごっこ二人の、定例打ち合わせという趣向である。互いにおのれの道行きに懊悩しながら、素直にしんどいと吐き出し、ふだん爛れたところにあてている包帯も解き放って、束の間酒を呑み、未来のささやかな楽しみに舌鼓を