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くつした理論

自粛期間中に断捨離をした人は多い。僕もそのひとりだ。

とは言え、師匠の薫堂さんの言葉を引用するところの「おもいでマニア」な僕は物を捨てることがほんとうに苦手。唯一「ゴソッ」といった(結果的につもりなだけであってたいして減ってないけれど)のがくつしただった。僕のクローゼットの中の衣装ケースはラーメン二郎のマシマシに勝るとも劣らない量のくつしたがある。実際ケースはいまも閉まらないままで、多くのくつしたが溢れ出している(捨てたのにね)。

なぜ僕が狂ったようにくつしたを買い続けるのか。”貯くつした”しまくるのか。それは地球上でもっともローコストでハイパフォーマンスな気分転換装置だからだ。くつしたはそのつくり上、履く瞬間にうつむいてしまう。メンタルがやられ気味だとこの身体性がよくない。もっと滅入る。でもいいくつしたは「しゃっ」と、あたらしい1日をポジティブな気分に、前を向かせてくれる。だからすき。

くつした3

くつしたはUNIQLOの登場によってしばし不遇の時代を歩んできたようにおもう。3足900円(だっけ)という、それまでの常識を覆す価格帯のソレは、特段デザインがかわいくなくても、黒とかグレーとか無難なものをチョイスさせ、穴が空いたらまた買い足せばいいやという消費に変えた。実際僕もそういう時代が長く続いた。なんでもいいじゃんて。

仕事がとんでもなく忙しい時期があった。すきでやっていたのでここで不平を言うつもりはないのだけれど、時間もお金も潤沢ではなく、気分転換のメニューが圧倒的に少ない僕はまんまとメンタルの具合が悪くなっていった。

あああああ、なんか気分変えたい…。とおもいながらネットサーフィンしていたとき、物語は急展開する。

ZOZOでくつしたを検索したら、とてつもない量の個性的なくつしたが眼前に広がった。時は空前のハンパ丈パンツブーム(表現がおじさん)。クロップドだっけ、を履く人が増えた。ただ男性にはすね毛というチャーミングとはほど遠いネガティブな要件定義がある。僕もまあまあ生えている。サッカー足だから太く形も悪い。でもこのポカンと空いたパスコースに、美しいスルーパスを出そうとおもった。

参考にしたのは雑誌『POPEYE』だ。一択。40歳になるけれど、いまだに、心の中はシティボーイ。キャップにメガネ、ハンパ丈のスラックス、チノ、そして、こなれたロールアップのジーンズ。そこからのぞく恥ずかしそうなくつした。完璧。革靴履くのに白いくつしたとかマジでだせーとかおもっていた自分を、タイムスリップしてラリアットしたい。ちゃんとデザインされた白いくつしただったら、もうそれだけでシティボーイじゃないか。謝れ。昔の自分。

人間はエスカレートする。シティボーイだけじゃ気が済まなくなる。そこで出会ったのがHappy Socksをはじめとする、くつしたばっかりデザインしているブランドだ。買いやすいところでいくと、靴下屋さんというお店もある。このくらいまでくると簡単には履きこなせない。ハデ&キュート。超絶ワンポイントを意識して、通常時は極限まで存在感を消す。ふとした瞬間に、あれ?そのくつしたって…くらいまでうまくやらなきゃいけない。

いまだに自分の履き方がそこまでやれているかと問われれば自信はない。でも意志はある。元気が出ないときこそ、くつしたにこだわるのだ。

くつした2

気が重い時こそ、足元を軽く。これが僕の到達したくつした理論。高くても1000円台からはじめられる気分転換を、多くの人に知ってほしい。

当分、僕のクローゼットからくつしたが減ることはなさそうだ。

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