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わたしの心を照らす満月 短歌物語#青文学部応募作品




泣き濡れて
泣き濡れてなお
よわい母

導かれるは
君と満月



育児と父の介護が重なった。父は独り暮らし、元々多発性脳梗塞で入院歴もあり、いつかは同居をしなければと思っていた。
「正月に遊び行くよ」と約束をしていた父がなかなか来ないので電話をすると、呂律ろれつが回っていない。これは大変だと急いで父の家に行くと失禁して倒れている父を夫が発見しました。
我が子はまだ2歳、自我も芽生えイヤイヤ期も真っ最中、誰かに助けてもらいたいのはわたしの方なのに、義父の介護は心に重くのしかかる。

現実逃避のように、幼い我が子を抱いて、バタンと玄関の戸を閉めて外に飛び出す。このまま『もう帰りたくない』と何度思ったことか。
アパートの脇道を出て公道に出る、振り返ると赤く輝く大きな満月が荒んだわたしの心を照らしている。「なんて綺麗なのだろう」わたしは息子の手をひいて月に向かって歩いて行く。昼間に遊ぶ公園に続く道は上り坂になっていて、満月へ向かって延びている。わたしは強い母親を演じていた。母親とはそう言うものだろうと思っていた。だけど、そう思えば思うほど泣きたい気持ちを人に知れないように抑えてきた。満月はわたしの心に寄り添って、そっとわたしの心に触れてくる。

坂道のてっぺんで、わたしの足は留まる。

「もう頑張れない」

不意にわたし背後から抱きしめる温かい腕。

仕事帰りの夫は偶然わたしと息子を見つけ、後ろから付いて来ていた。

「ただいま、苦労かけてごめん」全てを知って労る言葉にわたしは崩れた。
あなたの腕を掴んだまま子どもの様に涙を流して泣いた。家々の明かりはあれど、人は居ない。月だけがわたし達を優しく見つめている。







最後までお読みいただきありがとうございます。
こちらの作品は、
山根あきら様の企画 短歌物語 #青ブラ文学部に参加いたします。
山根あきら様 素敵な企画をありがとうございます。
短歌初心者です。勉強のつもりで参加させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。


タイトルの写真は
ながつきかず様のお写真を使わせていただきました。
ながつきかず様 ありがとうございます。








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