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ねこ。【ショートショート】

わたしは猫を拾ってきた、と言うか、わたしが猫に拾われたような。

わたしの住むアパートの敷地は通りから奥に入りこんでいる、
車の通りもほとんどない。住人にとっては、静かで過ごしやすく、
夜になると少し淋しいくらいだ。

きっと淋しいくらいが、猫にとっては、身を寄せるのに安全なのだろう。

普段のわたしは、朝早く職場に行き、昨日残した仕事をこなしてから
シフトに入る。夕方は早く帰宅出来るように頑張っているが、
それでも遅番の日は21時を回る時もある。

初めて猫に会ったのは、遅番からの帰りの日だった。

「ニャア」
アパートの階段下の隅にうずくまって、
逃げるともなくこちらを伺っている。
わたしの方が気を遣いながら猫の横を通る。

「わたしの家はこちらですからねぇ〜ちょっと通りますよぉ」
母とわたしのふたり暮らし、1階の奥の角部屋、
そしてお前はどこから来たのだろう。

うすい灰色がかったトラジマが、人懐っこそうにこちらをにらんでいる。

どこかの飼い猫?捨てられた…。

「もう一度外に出て、まだ居たら、ミルクでもあげてみようか?」

わたしはミルクを入れた茶碗を持って玄関を出てみると、
うす灰色のトラジマはもう居ない。

当たりを見渡し「どこに行ったんだよ…」と探している。
目があったアイツが気になって仕方がない。

家に戻るとインターネットで猫の飼い方を検索する。
明日は、仕事帰りにアイツのご飯を買っておこう。
もしかしたらまた会えるかも知れない。

猫のことが気になりながら、わたしは、
また別の誰さんのことが気になり出していた。

「元気かなぁ。」

初めて好きになったアイツ、初めて関係を持ったアイツ、
卒業してしばらくしたら、故郷に帰ってしまったアイツ、
なかなか連絡が取れない。

捨て猫なワタシ。

週末カレに会えるか…久しぶりに連絡をとってみようか。

夜も遅いからnoteを閉じた。
部屋の明かりを消し、布団の上でタオルケットに包まりながら。
『明日もトラジマに会いたい。』と想って寝た。












最後までお読みいただきありがとうございます。
読み切りでも楽しめるように書きましたが、
合わせてお読みいただけると、ますます嬉しいです。
楽しんでいただけるように頑張ります。

第一話『そのメールには…。』↓

第二話『幼いままの君を見てるとホッとする』↓

第三話『そうだ、noteに向かおう』の続きのつもりで書きました↓

第四話『わたしの心はこの空のように』


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