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わたしの心はこの空の様に【ショートショート】

「〇〇さん、本当、仕事出来なくてやになっちゃう」
「もう、一緒にチーム組んで最悪」
「じゃぁ、教育かな。〇〇さんをキョーイク〜」

彼女達は自分の上司が帰ったタイミングで、残業しながら、好き勝手を言っている。
もちろん、聴かれてはまずい内容だ、だけど、わたしが居るのに、気にしてない様子。
仕事の愚痴をこぼしている彼女達にとって、わたしは何者?空気なの?

彼女達からわたしに話題を振ってきたりは、しない。
もしかしたら、わたしも居なかったら、話題の的になっているのかも知れない。

わたしは縮こまりながら、仕事をこなして、消えるように職場を後にした。

『染まらない』
そんな陰口で自分を汚したくはない。
でも『そんなこと、やめなよ』とは、
勇気がなくて言えなかった。


チームの編成が変わり、新しく後輩と組んだある日

「これ、聞いてなかったんですか?」
「何を考えて、行動しているのですか?」
「それは、どう言う意味ですか?」と
何かに付けて、わたしに突っかかってくる後輩。

そのくせ、こちらが、
「これだと安全に問題があると思うけど」
「こちらが課題が見えてないことになるから、改めないといけない」
「何かあったら、責任問題だよ」と投げかけても

「いいんですよ。問題が起きたら、上司が気付くじゃないですか」
「上司が、『これではダメだった』って知る為の良い機会ですよ」
「これは上司の課題です」と
問題を未然に防ぐ努力に努めようとはしない。


後輩は、こちらの仕事の詰めの甘さには、言葉のナイフで深く斬り込んでくるのに
自分に問題を向けられると、責任を誰かに押し付ける様に、のらりくらりとかわしてくる。


いつものわたしなら、波風を立てない様に、黙ってやり過ごすか、
笑って誤魔化し、『そううだねぇ」と相手に合わせような、
その場限りの受け答えをするけれど。

今のわたしは、何かが変わっていた。

「あのね、あんた達が陰でこそこそ、陰口を言ってんのを知っているんだよ。」
「だけど、わたしには、直接言ってくれてありがとう。
あんたには、わたしにはない能力があるんだから、もっと真摯に努めなよ。そしたら、もっと仕事が出来るって認めてもらえるじゃん」
「折角、良い才能持ってるのに、仕事が出来ない中途半端な社員に見られているんだよ。ねえ、知ってた?」
いつになくキツイ言葉で言い放ってしまった。

他の社員もいるところで、興奮して注意したことは悪かった。
後輩は、目を点にして何も言い返してこない。


わたしは
『もうすぐ会社を辞める予定だから、嫌われてもいいや』
『社内で話題になってクビになっても、かえってスッキリするかも』と
心の奥で開き直っていた。



早番からの帰り、近道をしようと公園の中を通ると、学童の子ども達が木陰で遊ぶ声がする。
ターザンロープや回転式のブランコ、虫探しに興じている。
遠くで「おーい」とこちらに手を振る子どもの姿。
斜向かいに住む顔見知りのジュンちゃんだ。
こちらも「おーい、暑いねぇー」と応えて手を振った。

見上げる空は、雲が浮き立つような青さ。
わたしの心はこの空の様に、澄み切って青く、
時には、雷雨の様に怒り出すことだってある。

残りの人生がわずかだと知ったから、
生活のために、仕事にしがみついている必要がなくなった
他人に合わせなくても、気にしなくてもいいんだ。

公園の中央グランドを出口に向かってゆっくりと歩いていると
背中からジュンちゃんが追いかけてきた。
「お姉さん」
「おぉジュンちゃん、すごいね、紫詰め草が沢山生えていたんだね。」
「これが指輪で、ネックレスでしょ、あと王冠も。はい、お姉さんにもあげる」
ジュンちゃんは摘んだばかり紫詰め草の花束をわたしにプレゼントしてくれた。
「ありがとう」


『今日は頑張った』
ジュンちゃんからの贈りものは、神様からのサプライズ。
紫詰め草の花のストロベリー色は、ろうそくの炎のよう、
小さな真心を小さな花瓶に生けて眺めていると、わたしの胸にも勇気が灯る。

少しだけ、前を向こう。

パソコンを開いてnoteを立ち上げた。
忘れないように書いておこう。昨日も、明日も、
今日の日も。








最後までお読みいただきありがとうございました。

第一話『そのメールには…。』
第二話『幼いままの君を見てるとホッとする』
第三話『そうだ、noteに向かおう』の続きのつもりで書きました

そして、一言、宣伝させてください。
この度、創作大賞2023に短編小説で応募いたしました。

初小説 初応募の投稿でお恥ずかしい限りです。
もしよろしければ、お立ち寄りいただければ幸いです。

『僕の中に路瑠がいる』では
主人公路瑠の、青春、結婚、困難、出産、そして
病に倒れた夫のこと

家族に恋した、家族の恋愛小説と思い
投稿させていただきました。

↓  『僕の中に路瑠がいる』です ↓











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