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背の高いわたしは、誰かの影に隠れることさえ出来ない。#シロクマ文芸部

向日葵ヒマワリ

まだ何も知らなかった頃の向日葵は
熱く情熱的な太陽に恋をしていた。

あの頃のわたしは、大柄な自分を嘆き、
内気で人見知りな自分と誰よりも高い背丈が憎らしかった。
誰の影にも隠してもらえないこの背を恨んだことさえあった。

黙っていても注目されてしまうから、ますます引っ込み思案になる。

そんなわたしは、あなたのようになりたいと憧れていた、
誰よりも熱を帯びた感情で、仲間を高みへと導いている、太陽に。


シューズと床がキュッキュッと擦れる音が
体育館裏の自転車置き場まで聞こえてくる。

ドリブルとショートパスで繋げるたくみな攻防。
相手のミスを誘い、ゴール下の仲間へのロングシュートからの、
ダンクシュートでゴールを決める。
「太陽ナイス。」と声を掛けるバスケ部顧問の声。

体育館裏のわたしも小さくガッツオーズをとる。
「太陽くんナイスです。」と小さな声でエールを贈り、
太陽くんが活躍している姿を思うだけで、わたしの体はキュンと疼いた。

向日葵は、
あなたのようにはなれないけれど、あなたを書き溜めることなら忘れない。

気付かれないようにこっそりと、だけど大胆にあなたの基軸を追っていた。
妄想の中では、太陽は向日葵を愛している。

「向日葵って、誰かの妹の名前と同じだ。」と揶揄されても
あなたなら許すことが出来た。

ノートを取る手をとめ、猫背のまま、窓の外の景色を眺めると、
校庭には、太陽がいる。その存在が眩しく、男子で戯れ合う姿も愛おしいと思っていたあの日。

「おぉーい」と手を振る太陽はこちらを見ている。
教室にはわたしひとり。
わたしは窓に身を乗り出すように「わたしのこと呼びましたか?」と思いがけず大きな声で応えた…つもりだった。
声は出なかった、出す必要がなくなった。

あなたが投げかけた声は、わたしの頭をはるかに超えていった。
その声は秋桜あきざくら先輩へ
先輩は、姿や形が柔らかく、しなやかで美しい。
おまけに心も体も着飾らない姿は、誰も敵わない。

わたしはただ猫背のまま、重たい気持ちで首をうなだれていた。
消えてしまいたいくらいの恥ずかしさと焦燥感が押し寄せてきた。

暑い夏が終わりを迎えるころ、窓の外に飛ぶトンボが秋の訪れを知らせてくれた校庭。

向日葵は首を垂れてたれて、醜く佇んている。
背の高いわたしは、誰かの影に隠れることさえも出来ない。

「わたし、書いてみようかな。」

茶色くくすんだこうべに、命と言う種を沢山宿している。

「わたしの妄想でも構わない、あなたへの想いを小説にしてみよう。」

猫背のまま、ノートに向かいカリカリとペンを走らせていたあの頃
ノートの中で向日葵はいつまでも、太陽に恋をしていたんだよ。




今もまだ小説を書いている。
わたしが書くことができる小説は、
自分の過去を振り返った物語しかまだ書けない。

それでも、わたしは、わたし自身から生み出した作品達を見て、
生きていてよかったと感じている。

あの時、醜く佇むわたしから生まれた一つ一つの種は掛け替えのない宝物。
太陽からもらった物語を丁寧に綴っていきたい。

『わたしはまだ路の途中にいる』背の高いわたしの隠れる場所。










最後までお読みいただきありがとうとございました。
こちらの作品は、
小牧幸助 様 のサイト
シロクマ文芸部の今週のお題に参加させていただきました。
素敵な企画、素敵な出会いをありがとうございます。

タイトルのイラストは、
ダニエル様のイラストを使わせていただきました。
ダニエル様、ありがとうございました。


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