【ライブレポ】KEYTALKの武道館で舞踏会 〜shall we dance?〜2
解放区
「今日初めて観た人ー!」パラパラと手が上がった客席に向かい、8kg減量して随分スリムになった小野武正(Gt.)は「これから長い付き合いになりそうですね」と呼びかけ、多数の手が挙がった「2回目以降の人ー!」の後には「おまえら一生離さねぇからな!」と叫びました。
アンコール2曲目、ラスサビで飛びだした無数の銀テープを広げてみると「また遊ぼうぜ」の文字が。
2023年3月1日、広い会場を右へ左へ、さらには花道へと駆け回り、友達とじゃれるようにフロアとコール&レスポンスを交わした4人組バンド・KEYTALKの遊び場は、2015年10月以来、実に7年半ぶり2回目となる日本武道館でした。
武道館の情報が解禁されたのは、結成15年の記念イヤーであった2022年2月のFCライブ(当たっていてれば行ってたのですが流石にシェルターは狭い...)。
2023年でKEYTALKはメジャーデビュー10周年となるのですが、その節目に久しぶりの武道館公演を行おうというのです。
7年半となるとワールドカップにして約2大会ぶん。
それほど時間が経ってしまうと、価値観や音楽観だって変わっていくでしょう。
少なくとも自分は、ちょうどこの7年半が青年期の不安定な時期だったこともありますが、あのころとものの見方はまるで違っていると思います。
一つのバンドへの興味もしかりです。
自分がKEYTALKにハマるのは2016年、「MATSURI BAYASHI」が出たころでした。
それまではそもそもバンドに疎く、当時話題になっていたKEYTALKのことも、もちろん武道館公演のことも知りませんでした。
恐らく自分と同様、この日の会場に集まった方の中には、7年半前はまだ”友達”ではなかった方も多かっただろうなと推察しています。
2013年のメジャーデビューから間もなく、同年代のバンドブームとともに人気に火が付いたのが2014-015年でした。
多分大ブレイクの種となったのが「MONSTER DANCE」だったと思います。
その火を絶やさず、急速に短くなっていく導火線のごとく武道館という”爆発”に向かっていったというのが前回公演だったようです。
当時のかれらは26-7歳。
ロックシーン以外でも注目されだした楽曲がお祭りやパリピ的な曲ということもあり、勢いと根拠のない自身で突っ走ってきたところもあったのかもしれません。
「右も左も分からない」まま武道館に立ったあの頃から7年半経ちました。
融通の効かない男:巨匠(Gt. Vo.)は「いや、俺は右も左も分かってたよ。(右腕を伸ばして)こっちが右でしょ?でそっちが...」なんて言っていましたが...
「リーダー・武正が脱退し...」と、7年半を振り返りながら義勝(Ba. Vo.)が架空の出来事を創作して武正が「タケちゃんやめへんで~」と返すくだりもありつつ、4人は我々には見えないところで葛藤や苦汁を味わってきたのだと思います。
お兄ちゃんのような
新曲「未来の音」のとき、巨匠が中央にせり出した花道の真ん中まで歩いていき、アコギを手にしながらこう言いました「2015年。初めて武道館に立ったときは、自分って特別な存在なのかなと思っていた。だけど、それからいままで思わぬところで打ちのめされたり悩んだりして、『あっ、自分って普通の人間なんだ』って気付かされた。」
髪色はトップだけ黒を保ったまま残りを赤くした派手な色で、毛先だけ赤かった何年か前よりだいぶ頭が赤に覆われた感じがしましたが、30を過ぎて黒のジャケットを羽織った巨匠の姿を見て「普通の人」だと言っていることが少しわかった気がしました。
音楽の才能に恵まれ、音大に通い小さなライブハウスに連日出演してその才能をつぶすことなく伸ばしていった努力の人を普通の人だなんて思えるわけがないのですが、花道のすぐ右手側数mから横顔を眺めていると、悩みを打ち明ける少し年上の兄ちゃんのようにも思えたのです。
それとともに、とてつもなく頼もしく見えました。
弱さをさらけ出せる人は強い。
あの時より広い心で
2回目の武道館公演発表後の対バンで、フレデリックの三原のお兄ちゃんはKEYTALKのことをこう表現しました。彼が発する言葉は鋭く、いつもピンポイントで芯をついてきます。
「苦しいことは多かったはず。けれど彼らはそんなことを思わせずに、表に出さずに音楽を楽しんでいる。」
直近で挙げればコロナがあったでしょうか。2020年5月に幕張で行うはずだったライブは延期となり、8月に延びた延期日程も結局なくなりました。翌2021年1月には代替公演として代々木第一体育館にてライブ予定でしたが、こちらもキャンセル。
その間埋め合わせのようにオンラインライブやZeppでのライブはありましたが、やはり暗中模索の感は否めませんでした。
コロナ初年度はそんな手探りの状態で、光明は7thアルバム「Action!」のリリースからかなと思っているのですが、コロナに関わらず音楽性のベクトルやそれに対するファンや外野からの反応など、思い悩むことは多かったと思います。
蓄積が難しく、水ものにちかい創作活動の中でしかし4人は、楽しそうに音を鳴らし学校の教室の後ろでじゃれているかのようにふざけ合うことをやめませんでした。
かっこつけたり壮語することだって似合いそうなのにそれもせず、本能的に遊んで踊って笑っているように見えます。
4人の様子を見れば自然と笑顔になってしまいますし、何やら楽しそうなことをしているようだと彼らのまわりに我々ファンが集まっていくわけです。
武道館は、大きな解放区でありたまり場でもありました。
一回目の武道館よりなん回りも大きくなっているであろう4人は、集まった我々を「ようこそ!」と広い心で受け入れてくれました。
いきなり新曲
「新曲やります!」いつもの登場SE「物販」に乗ってやってきた4人は、先日サブスク・MVを披露したばかりの新曲「君とサマー」を武道館公演の一曲めに持ってきました。
ライブではまだ披露したことがなかったはずですが、初見でも一切違和感がありません。
いきなり最初に持ってきたことに対しては「お客さんが曲をちゃんと予習してくれるという確信があったのだろう」と、終演後の検索でどなたかが推測のツイートしているのを見ました。
クラップやコールが完璧になるくらい耳になじませる「予習」のためには、聴きこまないといけません。
そうなると、やはり曲の魅力が不可欠です。
「君とサマー」には、短い準備期間の中でもハマってくれるという自信が4人にはあったのでしょう。
その思惑通りと言いましょうか、この日は24曲披露されましたが、ライブ終わりに頭の中で延々と流れていたのは結局「君とサマー」でした。
ラストは全員が左側に90°近く傾いて終了。
「大脱走」は先のアルバム「Action!」収録の一曲。
ライブでかかる頻度も高めです。
暗がりの中手拍子を打ち、演奏する4人の姿が浮かび上がってくるときのハラハラしながらも落ち着いていく感じは、この曲独特のものかなと思います。
KEYTALKを単独で観るのはこれまでZepp Tokyoが多かったのですが、音質は武道館の圧勝でした。比べるまでもないほどです。
Zeppの音声は複雑に入り組んだ回路をたどった末ようやくこちらに放たれるシグナルという感じの、きわめて機械的に増幅された音に聴こえていたのですが、この日は比較的ストレート。
綺麗な響きでした。
「MATSURI BAYASHI」では「いつ以来だっけ?」という大サビ前の急停止がありました。
以前横アリでのJ-WAVE関係の対バンで見たことがありましたが、今回はそれよりも長く、数十秒動いていません。
無理な体勢にまず耐えかねたのは義勝。
「体幹が弱い」なんて言われていた通り、真っ先にプルプルと震えています。
その揺れが大きくなってきたことに、すぐ近くのアリーナ席だけでなくスタンド席も気付き始めてきたころ、笑い声が渦巻きました。
しまいにはカメラがその表情を捉えます。
「やばいやばい」顔をひきつらせながらなんとか耐えていました。
聞こえだした声
MCでは巨匠がプシュっとプルタブを開けてビールを飲み干すといういつもの光景。
「八木ちゃーん!」誰かがメンバーの名前を叫びました。
この日はコールOK。
ただ一発目が八木氏(Dr.)だったかどうかは定かではありません。
声の方向は自分の斜め後ろ、つまり上手側センターよりの後方からでした。
初めてフロアの後ろを見渡しましたが、びっしりです。
こんなに人がいるとは思いませんでした。
第一声をきっかけに、ほうぼうからメンバーの名前が飛び出します。
「たけちゃーん!」「義勝ー!」「サコー!」
一時期と比べると顕著ですが、KEYTALKのファンは割とおとなしい印象があります。
開演時の客電が落とされた時はもとより、本編の「MATSURI BAYASHI」でもさほど声は上がっていませんでした。
自分の居たブロックなどは特に静かで、自分はもう少し出したかったのですが、女性ばっかりの中でおじさんが声を張り上げたら迷惑でしかないと思い、ほどよく環境音にまぎれていました。
ただ、全体としてみればコロナ以前の光景がポツポツと復活の芽を出してきているようです。
モッシュやダイブが起こっていたあの頃まで戻す必要はないと思いますが、コミュニケーションツールの一つが戻ってきた感慨がありました。
義勝が90°くらいに腰を曲げて深々とお辞儀していたのが印象的でした。
不安の音聞かせてほしい
これまでも何か節目や記念碑的なライブの時に必ずと言っていいほど披露してきた「fiction escape」。
2019年のロッキンを思い出します。
歌詞では過去と現在の「僕」が行ったり来たりしています。
逃避するかのように3年後の未来を描いていた23歳の僕と、3年経ちその様子を俯瞰から眺めている26歳の僕。
モニターには「26」や「3」の数字が現れていました。
2013年、インディーズの時の曲ですが、バンドとしてはこの曲のリリースからほどなくしてメジャーデビュー(2014年)を果たします。
すぐさま一般的な知名度を得て、一回目の武道館や横アリでのライブを成功に収め、大きなフェスに出ればメインステージに呼ばれるようになりました。
メジャーシーンを駆け上がっていくまで3年も経っていないと思います。
ここまでバンドがビッグになることを義勝がしっかり予見して歌詞を書いていたのかは分かりませんが、一時代を築いた現在とインディーズの頃という単純な図式で都合よく考えれば、売れるまえに泥水をすすりながら描いていた未来が、思いのほかすぐやってきたというところに「割と簡単にこなしてきた」という3年後・26歳の歌詞が感想として繋がるのかな、なんて思ったりもするのですが、自分はこの曲を大きなステージで聴くたびに、もう一つ別の感覚も味わっていました。
「26歳」になってもやりきった満足感より、現状への戸惑いを持ち続けているような印象があるのです。
ここまで首尾よくやってきたはずなのに「不安を聞かせてほしい」なんて少しあべこべで、どこか他人事のように見えます。
はっきりとした意志をもった3年間というより、飄々と抜け出してきたまま3年も経っていたという風に見えました。
まるで、まどろみのなかにいるかのよう。
眼前に広がる現状を、寝ぐせのついたまま目をこすりながら眺めているという画が浮かびました。
それどころか、首をひねりつつもうひと眠りしてしまいそうな雰囲気さえも感じます。
努力あってのもので、寝転んでいたら売れることはないでしょうが、案外振り返ってみたら苦労だとは思わず「なんとかなってた」という感想に落ち着くものなのでしょうか。
ただ、少なくともいえるのは、この曲は3年前とは違う景色に満足のVサインを掲げてはいないということです。
ライブに行けば、階段を下りていくようなイントロからフロアは大きく縦に揺れ出します。
その時自分は、楽しいという感情よりおぼつかなさが先にやってきます。
歌詞を見ると、のらりくらりとやっていきながらも心の隅に不安を抱えている気がしていて、揺らぐ足元に対して先細っていく「僕」の心情を想像してしまうのです。
不安を聞かせてほしいというくらいですから、歌詞に弱気なところはみられません。
かといって強気でもないのですが。
でも、流れに身を任せながら、どこに向かっていくのだろうと常に考えているのだろうなということは想像できます。
34歳(一人、一応非公開が居ますが)となったKEYTALKメンバー。
23歳から数えると一回りしてしまいましたが、未だに浮遊感の中のおぼつかなさを抱いているのでしょうか。
KEYTALKらしさとは
「CCレモン飲みたくなるような曲やります!」
自分含め会場は一瞬頭を巡らせました。
「覚えてる?」
反応が鈍かったことに不安になったのかメンバーは言葉を継ぎましたが、忘れていたというより、久しくお目にかかっていない曲だけにそもそもやってくれるという期待をしていませんでした。
2018年、CCレモンのオリジナルソングとしてリリースされた「Cheers!」です。
一個のレモンが一面のテニスボールに埋もれているジャケット写真は、MVやレコーディングを松岡修造とともに行ったことに由来するのでしょう。
武道館のセットリストは、ただいい曲をずらりと並べただけでなく、何曲かごとに似たような系統の曲が並び、それらが集まって一つのブロックを成しているような、わりと統一感のある曲目でした。
個人的な感覚に沿って分けてみると、例えば「大脱走」「夜の蝶」なんかは照明を絞った中での割と妖しげな雰囲気。
ベースの音が波打って聴こえます
「F.A.T」などもここに入るでしょうか。
そして「Cheers!」とその次の「Love me」。
この2曲も、先とは別の種類ですが同じくくりに入れられるかなと思っています。
それも、自分が考えるKEYTALKらしさが端的に現れている曲だと。
「Cheers!」は次々と弾ける炭酸の様子が音から伝わってくる曲で、炭酸のように活力もふつふつとみなぎってくる感じがあります。
コラボした松岡修造の熱苦しさにも負けていない曲ですし、雰囲気としてはいわゆる表向きのKEYTALKへのイメージとも合致します。
修造と熱さでタメを張れるバンドはなかなかいないでしょうし、だからタイアップに選ばれたのでしょう。
そして「Love me」も陽気な曲で、小気味よく粒だったスネアの音と純粋なギターの音が響きます。
上裸でカラフルな男たちが円形のフォーメーションを組んで踊るMVは、観たことがないのですがインド映画ってこんな感じなのかなと想像してしまいます。
どちらもレーベル移籍前の、お祭りバンドという代名詞が定着して久しい時代の明るい曲。
一方で歌詞には少し切なさがあります。
「Love me」はわかりやすく片思いの歌(違う見方もあるかもしれません)。
「考えてみたって 結局役目は友達」と半ば諦めながら、振り向いてほしくて「Love me」と歌っているわけです。
ライブの「1,2,3 for U!」は気持ちがいい。
「Cheers!」は「Love me」ほどわかりやすい状況描写はありませんし、断片的なところから片思いソングだと決めつけるのは微妙ですが、「君が笑うと嬉しくて」というたったワンフレーズだけですべてが伝わってくる気がします。
自分が楽しくて笑うのではなく、相手が笑ってくれていたらそれでいい。
よっぽど想っているのだろうなと感じます。
「fiction escape」のような詩的な歌詞の曲も多い中で、これらの詞は実にストレート。
もったいぶったところはありません。
メジャーになり、多くの人の目に触れるようになってから詩的な歌詞が激減したのは確かですが、回りくどいことをせず無邪気に想ったままの言葉をぶつける不器用さがある。
これがまたいいのです。
そんな姿に青春の苦さとか無鉄砲さだとかを覚え、明るい曲調なのに切なくなってきます。
「FLAVOR FLAVOR」や「コースター」「MABOROSHI SUMMER」もその系統。
個人的にKEYTALKの楽曲一位の「アオイウタ」も似ています。
これこそが、自分から見た「KEYTALKらしさ」の一つです。
気付かない年月
聴きながら涙が流れてきたのは、ライブのKEYTALKを追いだしているうちに自然と過ぎていった年月を実感したからでした。
自分がKEYTALKのライブに行きだしたのは2018年のロッキンから。
それまで数年間は、曲を聴いていてもライブにまでは足が向きませんでした。
そもそも当時はロックバンドのライブに行くという習慣がなく、ロッキンで初めて観たときも、マイヘア目当ての妹のほとんど付き添いのような形で行った日に、たまたまKEYTALKも出ると知ったのでせっかくだから行ってみるかというテンションにすぎませんでした。
そこで聴いたのが、リリースして間もなかった「Cheers!」でした。
あの時の感覚はとうに覚えていませんが、その事実のみが記憶に残っています。
そこからホールツアーやワンマン、全国ツアーの東京公演などに行きはじめ、KEYTALKのライブに両足を突っ込んでいきました。
KEYTALKくらいの規模のバンドともなるとさほど高頻度でライブがあるわけでもなく、行けそうな範囲で探すと数カ月単位でブランクが空いてしまいます。
季節が変わってしまうくらいの長いその空白が、自分に様々なことを考えさせました。
取り巻く状況の変化やその時々の自らの心境、知らなかったことを一つ知るようになったこと...当時は研究室にいたのでそこでのストレスなんかもあったと思います。
主に行ったのは、今はなきZepp TOKYOでした。
フラットなフロアの後のほうに居場所を見つけてライブを観ていると、数カ月での自分の変化に気付くことがあります。
ステージの向こうで、いつもと変わらない関係性でMCをして音を交わす4人を見ていると、かれらをゼロ位置として相対的な距離感がはかれるのです。
モッシュもダイブもしていませんでしたし、もとよりPA席の横のほうで見ているだけでしたが、その程度でも十分でした。
「まだまだこのバンドについていこう」
そう再確認するのも、何か月かに一回かのライブでした。
確認作業の積み重ねでこの歳になったのだと(せいぜい4年とちょっとですが)、出発点を思い出させる「Cheers!」を聴いて感慨深くなっていました。
1回目の武道館の一曲目である「YURAMEKI SUMMER」は8曲目でした。
スクリーンには、MVと同じく蛍光塗料を塗りたくったようなエフェクトがかかっています。
7年半前には巨匠が宙づりになったり、登場の際も4人がせり上がりから飛び出すといった派手な演出があったようなのですが、今回は比較的大人しいように感じました。
半年前くらいにYouTubeで「武道館ミーティング」を開催しており、ファンから演出の案を募っていたようなのですが、そこではどんな案が出ていたのでしょうか。
レーベル移籍の答え
ここから再びMCへ(だったと思います)。
「今まで色々あって、節目にはいつも音楽がありました」
義勝のこの一言から、立て続けに3曲が披露されました。
メジャーデビューの「コースター」、1回目の武道館を象徴する「スターリングスター」、そしてレーベル移籍後最初のシングル「BUBBLE GUM-MAGIC」。
バックには、インディーズ時代から遡るように、YouTube番組「KEYTALK TV」の過去動画を中心とした映像が駆け足で流れていました。
スクリーンに大写しになると、インディーズ時代のメンバーの線の細さが際立ちます。
特に義勝と武正が棒のように細い...
「コースター」の2サビ前「ちょっと触ってみたいだけ」を皆で叫ぶのは久々でした。
47都道府県を巡った昨年のツアー終盤、振り替え開催となった静岡公演に行ったときは「大きな声では言えないんだけど、漏れちゃう声とかなら...」と、多少の声出しは許されるような発言が巨匠からありました。
とはいえまだ遠慮の雰囲気が流れ、その時は「ちょっと触ってみた」程度の合唱でしたが、武道館ではその遠慮がもう少し融けていた気がします。
「Cheers!」の次のシングル「BUBBLE-GUM MAGIC」はぐっと洒脱さが増した曲で、MVへのコメントも絶賛に次ぐ絶賛でした。
昔と今とを融合してより洗練されたようなサウンドかなと思っています。
個人的には、静岡の駿府城公園でのフェスに来てくれた時のことを思い出します。
花道の方に、巨匠と義勝が歩いていくのが見えました。
いつの間にか花道の突端にはスタンドマイクが2本立っています。
巨匠は上手側、義勝は下手側を向いてのパフォーマンス。
義勝がエビぞりみたいにして巨匠と背中を合わせに行くシーンもありました。
自分の居たところは、2席ぶんへだてて花道のすぐ横でした。
目の前にメンバーがいる。
こんなに近いのは初めてでした。
未だに信じられません。
義勝は足を蹴り上げたりクルっと回ったり、ベースのプレイ以外の動きも軽やかです。
ファンの方のレポではメンバーに対し「この曲好きなんだろうな」というコメントがありました(下に紹介させていただきます。愛が深い文章です)。
移籍発表の時、巨匠だったと思うのですが「移籍じたいはみんなには関係ない事だと思うんだけど、俺らにとっては新たな挑戦」というようなことを言っていた記憶があります。
SNSのコメントで、具体的な文言は定かでなく元を探しても見つからないので確度は薄めですが。
今後の行く末に気をもむファンを慮って「関係ないこと」と言ってくれたのだと思いますが、そうだとしても4人がやりたいことを叶えるために移籍し(恐らく)、その答えを「BUBBLE~」で示してくれたという点では大いに関係がありました。
数年後の今、改めて振り返っても、選択に間違いはなかったと4人は思っているのではないでしょうか。
花道にわざわざツインボーカルが揃ってやって来て、ほぼ360°から見守られるなか演奏していたのは「BUBBLE~」だけ。
あの時出した結論の正解が、この演出には詰まっていました。
2015年と同じ光景
次はトーンを落として「照れ隠し」。
年明け、KEYTALKは「あなたの思い出写真」を募っていました。
家族、友人、恋人など...もちろん一人の思い出でも、どしどし送ってくださいと応募していたのですが、その写真がここで使われていました。
スクリーン一面に多数の写真が並んでいます。
横書きの歌詞もあった気がします。
全く知らない人の写真なのに、音楽に乗ると感じ入ってしまいます。
「Love me」に引き続き同じフレーズを出してしまいますが、口下手で不器用という感じのする巨匠の歌声が合います。
照れながら言っている感じが伝わってきました。
「バイバイアイミスユー」の前に、義勝から一言。
「一回目の武道館の時はみんなが素敵な景色を見せてくれて...勘のいい方はもうお分かりかと思うんですけど」
映像でしか知らない2015年武道館では「バイバイアイミスユー」の時、シンガロングするところでファンが一斉にスマホライトを点灯するというシーンがありました。
メンバーへのサプライズです。
それを今度はメンバー主導でやろうというのでした。
慌ててスマホを取り出します。
演奏中、2015年当時のフロアの様子がスクリーンに映し出されました。
あの頃は点灯のタイミングで頭上のスクリーンに「3,2,1」の合図が現れていたことを初めて知りました。
スクリーン越しに見る当時の合図をたよりに、ライトを掲げます。
「バイバイアイミスユー」の後、巨匠が一人花道へ向かいました。
二本あったスタンドマイクは一本しかなく、そこにギターが置かれていました。
冒頭で「特別な存在だと思っていたけど、この7年半で打ちのめされることも多くて」と語ったのはこの場面です。
近くだったので、マイクに通して場内に響く直前の、巨匠の生の声が聴こえてきました。
そうして披露したのが初披露の新曲「未来の音」。
ジャケットで天使みたいな子が持っている風船の束が葡萄色なのは、武道館となにかかけているのでしょうか。
巨匠が花道を下りてじっと待っている3人の元へ戻ってきたとき、武正や義勝が口々に「おかえり」と声を掛けました。
ノンストップでつづいたのが「黄昏シンフォニー」。
ライティングが白昼から夕刻の色に変わっていき、おかえりの言葉が家庭的な暖かさになって響いてきました。
思い出深く大好きな曲です。
同じくロッキンのグラスステージで披露されたときには、スクリーンには歌詞が表示されていました。
ロッキンでこの演出はなかなか無いことだと思います。
イントロのギターの音から郷愁が漂い、一日の終わりに差し掛かる時のふっとした安心感、家に近づいてきて方の抜ける感じがこのフレーズだけでも見事に再現されています
力強い巨匠の歌声と、中性的な義勝の歌声の絡み合いがツインボーカルを立てるKEYTALKの魅力ですが、それはこの曲も例外ではありません。
この日は義勝の高音の調子も良さそうで、まだPAも先の通り雑味がなかったことから交互にパートを歌いあうところは気持ちよかったです。
個人的に良いなと思うのが、義勝が歌う1サビ「暮れていく街並みをずっと眺めていた」というフレーズで、「まちなみ」のファルセットと「いた」の強い発声とのコントラスト。
何度聴いたかという曲ですが、書くことを意識しながら改めて聴いてみると泣きそうになってしまいます。
本当に良い曲です。
「大っぴらには言えないんですけど、僕があるワードを言ったらみんなが少し遅れて独り言を言ってくれるらしい」
どこのMCか忘れましたが、武正が非常に曖昧な言い回しでフロアに何かを呼びかけようとしていました。
「ぺーい!」のコール&レスポンスです。
やはりこれがあってこそKEYTALKのライブ。当然ながら久々です。
かつては「男子ー!」とか「女子ー!」とかファンを細かく分けて「ぺーい!」のレスを貰っていましたが、流石にそこまではやりませんでした。
とはいえ基本的にはいつものKEYTALKという調子。
武道館でも変わらずいられるのがまた良さです。
硬質なKEYTALK
終盤戦。
「踊るんじゃなくて暴れろ!」
武正がこう言い、「太陽系リフレイン」「DROP2」「夕映えの街、今」と硬質な曲が次々と投下されました。
「太陽系リフレイン」とメンバーが曲名を告げたとき、はじめは何と言っていたのかが聞きとれませんでした。
食い気味で入ってきた歓声にかき消されてしまったのです。
ギターソロに差し掛かるころ、武正が花道にゆっくりとした足取りでやってきました。
それまでステージ上下の端に寄っていることが多かったので、初めての至近距離です。
MV通りのイングウェイマルムスティーンスタイルではありません(「アオイウタ」もこのスタイルです)が、弾いたことがない自分でも見とれてしまうほど綺麗なギターソロでした。
やってる人がみたらもっと凄さを感じるのでしょう。
好きな人も多く、流石に盛り上がる三曲。
思えば自分が行きだした頃は、詩的な曲よりこうした硬い岩のような、ザ・ロック的な曲を聴くことが多かった気がします。
「アーカンザス」とか「ロトカ・ヴォルテラ」「zero」とかの路線です。
武正は弾きながら器用にツーステを踏み、義勝もそれらしい動きをしていました。
レーザー光は一段と光量を増し、CO2ガスも焚かれて前がよく見えなくなってきます。
スモークが吹き荒れる中、小高いところに鎮座して唯一動かない八木氏は、空間の全てを支配しているようでした。
スティックを鞭のように扱います。
暴れろと言われた通り、自分もこのあたりから動きが大きくなりました。
まともな判断が出来なくなってきています。
ラストは「MONSTER DANCE」で終了。本編は21曲でした。
蓄積が生んだ即興
すぐさま手拍子が発生(アンコールは昔から手拍子でしたか?)してメンバーが再登場。
武道館公演のタイトルは2015年も今回も変わりません。
「1」と「2」の連作です。
開演前にかの有名な「シャル・ウィ・ダンス」が流れていたのはそのつながりでした。
アンコール1曲目は、待ち構えていたこの曲です。
「shall we dance?」
武道館に向けた全国津々浦々ツアーに合わせて制作した「KTEP4」の、会場で購入できるフィジカルのCDにのみついていたボーナストラック的な曲です。
ツアーで買った人にはメンバーから手渡しでCDを頂けるという特典もありました。
インディーズ時代にはインストアで販促イベントをやっていたようですが、個人的には初めて目と鼻の先の距離でメンバーを観る機会でした。
コロナの制約の中、ツアーで全国の中小規模のライブハウスをまわるだけでなく、出来る限りファンと近い距離にまで下りてこようという、メンバーによる計らいです。
ツアーでこの曲を披露するとき、義勝は「4人でスタジオに集まってゼロから生み出した曲」というような紹介をしていました。
4人の合作なのですが、テンポや調が変わったりノリが変則的になったりと一曲とは思えないほどの展開の多さで、4人分のアイデアをうまいことつなげて1曲のボリュームにまとめたというより、4曲分の要素を無理矢理入れてしまったようなところが実験的で面白いです。
拳を上げるのも連続4回のときもあれば3回の時もあり、初見ではまず何をやってるか分からないのですが、ハマったときは気持ちがいい。
過去の曲のタイトルや歌詞が詰め込まれているのも特徴です。
実際に制作しだしたのは4人でスタジオに集まった去年ですが、そこで突発的に生まれたというよりは、最初の武道館から今までの蓄積があってこその「shall we dance?」でした。
星が綺麗に光っています。
忘れられない天井
曲終わり、八木氏以外の3人が後ろを向きました。
真っ先に振り返った巨匠の姿を見てフロアが湧きだします。
赤く縁どられたサングラスをしていたのでした。
となると次にやってくるのはこの曲しかありません。
「Summer Venus」。
クラップする手が痛くなり、腕もしびれはじめました。
なんのかんのと言われても、楽しければそれでいいような気がします。
「さあ」「いけんの」ビール缶の片面にそれぞれ手書きのラベルを張ったフレーズは「サマビ」のフレーズです。
そのビールを巨匠が一気に飲み干し、かすかに残ったビールが垂れてきました。
ラスサビでは銀テープが飛び出しました。
ここでは思わずステージから目をそらし、日本国旗が掲げられた天井を見上げてしまいました。
よく画像や映像で見る、数えきれないほどの銀テープ演出の真ん中に自分がいる。
幾何学模様をした屋根と国旗の間を埋め尽くす「また遊ぼうぜ」のテープという光景は、なかなか忘れられそうにありません。
というか、絶対に忘れないと確信したから思い切り顎を上げて天井を見たのでした。
一枚の銀テープが、伸ばした手の上に落ちてきました。
足元にはつかみきれず散乱した無数のテープがあります。
つかんだその一枚を握ったまま最後のフレーズまで拳を上げていましたが、たった30秒くらいの間にテープはくしゃくしゃになっていました。
アンコールラストの曲は「アワワ」こと「アワーワールド」。
クラゲのような手が伸び、小規模ライブハウスの光景が乱立しました。
最後までKEYTALKは踊らせるバンドです。
叩き終わった八木氏の顔がアップになったとき、やや目がうるんでいるように見えました。
しかし感極まってというよりは充実に満ち溢れています。
かなりぐっとくる表情でした。
最後の挨拶は撮影可能。
ステージサイドから隅々までメンバーが来て手を振ります。
ドラムで身動きのできなかった八木氏が転がりながら花道に来てくれたのは嬉しかったです。
メンバーの特徴を微妙にとらえたかわいい「モンスター」も登場しました。
メンバーとの共演を見るのは初めてな気がします。
帰り道、お堀に映る城跡を見ながら涙が出てきました。
良い位置で観た最高のライブがもう過去のものになってしまう。
書き忘れましたが、KEYTALKは3月15日に未披露のデジタルシングル「狂騒パラノーマル」をリリース、8月には7枚目のフルアルバムをリリース後、全国ツアーを開催予定です。
武道館後も歩みを止めず、なにもこれで終わりなわけではありません。
それなのに、寂しさに似た感情が生まれていました。
こうして1万字越えの文章を書きながらも、何回か”キて”しまいそうになる瞬間がありました。
ライブ中に泣くのは何度もありますが、ライブ後はさほどありません。
バンドはおろかアイドルでも、ここまで長い付き合いのアーティストはいません。
今後の「shall we dance?3」開催を願い、いや、この際会場はどこでもいいです。
自分もメンバーも健康なまま、数カ月単位でライブで会えていれば。
それだけです。
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