【ライブレポ】Peel the Apple 秋もアツいぜ!炎の全国ツアー2022 ファイナル東京公演
2023年1月8日(日)に、品川ステラボールにて7人組アイドルグループ・Peel the Apple(通称ぴるあぽ)の全国ツアー「秋もアツいぜ!炎の全国ツアー2022 」が開催されました。
10月頭に始まり3カ月にわたって展開されたツアーのファイナル、16箇所目です。
よく対バンやフェスなどが行われるインターシティーホールやグランドホールは品川駅の港南口にあるのに対し、ステラボールは逆の高輪口にあります。
品川で行われるイベントの多くはインターシティーホールで、したがってプリンスホテルの敷地内にあるステラボールに足が向くことはおろか高輪口に下りることも久しくありませんでした。
信号を渡り、敷地内に入ってこんなに坂を登るのかと半ば唖然としながら入り口のところに来ると、既に入場待機列が出来ています。
ステラボール内は指定席なので、整理番号順の呼び出しもないであろうことから、行けばすぐ入れるのかと思っていたのですが、流石に開場してすぐはまだ列が出来ていました。
S席などが先に通され、席次がその次のA席は建物に沿って上り坂に2列に積み重なっていきます。
晴れてはいますが外は流石に1月なりの寒気。
折り返しをつくり膨れ上がっていく列を目にすると、このグループの源流が昨年解散したニジマスの後継グループだという事実を思い知らされます。
2020年に8人組アイドルグループとして結成されたぴるあぽは、ニジマスのオーディションの最終審査で惜しくも選考から漏れてしまった8人から構成されていました。
既に人気グループとして知名度を博していたニジマスに合流することが出来れば、その大きな看板がそのまま自身の知名度に跳ね返り、デビュー時から相当の注目を浴びることができたはずです。
ところが8人はつかみかけていた切符を最後の最後で落としてしまった。
ニジマス新メンバー発表ライブで名前が呼ばれなかった8人を含むファイナリスト9人がライブ後プロデューサーから「このメンバーで新しいグループをつくりたい。」とのお達しを受け、30分という人生を左右する決断を下すにしては短すぎる制限時間の内に、事務所が新たに立ち上げる名前もまだ決まっていないグループへの参加を決めたというエピソードは各所で聞かれる話です。
そうしてPeel the Appleが出来上がりました。
実だけ食べられて後は捨てられてしまう運命のリンゴの皮に8人をなぞらえて、しかしリンゴの皮には栄養があり実としての役割以外にも大いに価値があるというメッセージから、そのような存在になるべくしてちょっと変わったグループ名がつけられたわけですが、ニジマスが解散してしまった今、事務所のメインストリームを走るのはぴるあぽをおいて他にいないはずです。
出演する対バンの質や規模、さらには出順などを見れば大体そのグループの人気やシーンでの期待度は推し量れます。
今のぴるあぽは、そのものさしから見ればかなりの上位にいることは間違いありませんでした。
毎年正月に開催される「NPP」、今年は枠が絞られてかなり限られたグループの出演でしたが、ぴるあぽは長尺の40分パフォーマンスを勝ち取っています。
一般には認知されていないけれど確かな魅力を備えた皮ではなく、誰からも好まれ真っ先に選ばれる実に既になっている事実を、マクセル品川の外側に伸びた長い列に見ました。
A席待機の列が徐々に動き出し、場内へと吸い込まれていきます。
まず目に入ったのは「T・ジョイ PRINCE品川」でしたが、ここは素通りしてポップコーンの匂いのする映画館特有の雰囲気に包まれながら右の壁を伝って奥に入っていくと、真っ赤な地の上に「StellaBall」という文字が目に入りました。
近未来志向の映画にありそうな赫赫とした赤です。
文字の書かれたアーチの下をくぐったところで、いよいよ日常とは異質の、ライブの空間に飛び込んでいくのだという感覚が生まれました。
壁を挟んだ向こう側にはシアタールームが広がっているはずです。
音楽ライブには、スクリーンで得る非日常体験とはまた違う非日常が待ち構えています。
たとえ全く同じプログラムであっても見え方はがらりと変わってしまうのがライブというものです。
ライブ数日前になり、チケット発券が解禁されだした頃、普段はなじみの薄いステラボールの座席表がツイッターに流れてきていました。
ファンの方が好意で上げてくれたものだと思うのですが、分かったのが大きな特徴として横に広いということ。
とにかく広いです。
キャパは2階席などと合わせて2000弱のようですが、同じくらいの規模の他の会場でもここまで幅のきいた会場は少ないのではないでしょうか。
赤々としたアーチをくぐった先にある、フロアの入り口は下手後方でした。
自分の席は上手寄りだったので席を突っ切るように横を抜けていったのですが、果てしないは言い過ぎにしても歩いているだけで横長を十分に体感しました。
チケットにあったのはF列。
A列が最前列のはずなので、発売開始から遅れて取った割には前の方かなと思っていたのですが、番号を照らし合わせながら横に歩いていくごとにどんどん不安になっていきました。
F列を見つけるのはすぐでしたが、番号にたどり着くまでが長い。
横へ横へと移動し、ようやくたどり着いたところは上手側のスピーカー前でした。
座席表を見て多少覚悟していたとはいえ、恐らく体の向きを斜めにしないとステージをまともに見られないような位置に少しばかり面食らいました。
普通なら見切れ席になってしまいそうなものです。
それでもまた端っこというわけではありません。
驚くことに、向こう側の上手端に向かってはもう数席あります。
奥行きが広いライブハウスは何度か観てきたつもりですが、こういう幅広なタイプのホールは初めてでした。
恐らくメンバーにしても規模もさることながらその幅の広さは初めてのはずで、構造上いつものように縦への意識だけではなく横にも気を回さないといけないことでしょう。
ステージに眼をやれば、横の広さを存分に活用した舞台装置が鎮座していました。
自分はツアー途中からぴるあぽのライブに行くようになったので経緯をよく知らないのですが、今ツアーでは野球に絡めた演出がたびたび登場しています。
アンコールで着てくる衣装は各メンバーカラーのストライプが入ったユニフォーム風の衣装で、野球好きなら食いついてしまうようなワードが散りばめられた応援歌風の「リーリーGo!」はツアー前におろされた、リード曲的な扱いでした。
ステージ上にあったのは、まるで球場のバックスクリーンのような光景でした。
左側には黒地に白で1番黒嵜、2番小田垣...と7人の名前がスタメンのように横書きされた表があり、右側には、こちらは特に名前などありませんが左と対称的なスペースが空いています。
中央やや下には試合が終わったばかりなのかスコアボードが。
ぴるあぽチームが守っていたリードを相手に終盤粘られ追いつかれるも、9回表に突き放して逃げ切ったという展開で、7-5という、点の取り合いで退屈しない、面白そうな試合です。
得点も各チームのヒット数も、「7-5」になっているのは無類の野球好き、黒嵜菜々子さんの名前に由来するのでしょうか。
スコアボードの上にはビジョンがあります。
恐らくリアルタイムでメンバーのパフォーマンスをカメラが捉えてここに映すのでしょう。
そういえば、入場の時に中央ブロック後方をつぶしてそこにカメラがいくつも陣取っているのを目にしていました。
ビジョンには今、りんごの形をして足元に車輪のようなものがついたツアーロゴが文字通り踊っています。
土埃を上げ、悪路を走っているかのよう。
大型ビジョンにスコアボードに得点表。
ここだけでバックスクリーンとしては十分すぎる完成度だったのですが、自分がうなってしまったのはその両脇でした。
バックスクリーンの右下と左下には横長のパネルのようなものがあり、そこにはグループのロゴが書かれています。
絶妙なライティングで光ったそれは、球場でよく見るスポンサー企業の看板のようでした。
バックスクリーンとセットで、本物の球場にありそうな外観が出来上がっています。
自分は神宮球場がぱっと思い浮かびました。
のちにこの”看板は”メンバーが後ろを通り、こちらに姿を現したときにはセンターから出てきたかのように見せるいわば目隠し用の衝立だったと知るのですが、野球フリークがスタッフにいるのだろうと思わせる、凝ったセットでした。
賑やかな舞台装置を眺めていると、開演時間はあっという間でした。
場内BGMのボリュームが上がり照明は暗転しだし、フロアは少しずつ立ち上がっていきます。
まず現れたのは、メンバーではありませんでした。
ビジョンが切り替わり、ツアーを振り返る映像が流れてきました。
ぴるあぽはこのツアー中、ライブが終わる直前からスタッフの方が袖でカメラを回し、メンバーがフロアにお辞儀をして捌けてくるところを待ち構えているのが通例となっていました。
汗で上気したメンバーから一言コメントをもらい、それをすぐさまツイッターにアップしてきたのですが、振り返りコーナーにはそこで撮られたであろう映像が入っています。
初日の東京にはじまり北は札幌、南は福岡と、各地のライブを近い距離で撮った短い動画が次々と現れてきました。
ごくごく短い動画だっただけに、体感としてあっという間だったのだなというぴるあぽチームの時間感覚を追体験した気がしました。
長くて短い旅路の締めくくり。
ほどなくして、いつもの登場SEが流れてきました。
もちろんここでもしっかりビジョンを使っています。
各メンバーの紹介VTRです。
最初の暗転の時にメンバーが出てくるのだろうと立ち上がったフロアは、振り返りのVTRが始まって一旦は座ったものの、流れてきたSEで再び立ち上がりました。
スポンサー看板風のボードの間から、今度は本物のメンバーが登場してきます。
まだ場内は暗め。
紹介VTRに気をとられていて、センターから出てくるシーンを一瞬見落としました。
ここで再びメンバーと自分との位置をはかります。
やはり上手端からだと、右足を前に出して身体を傾けないときちんと見えなさそうでした。
早速始まった一曲目はホイッスルの音から。
「リーリーGo!」。
野球にまつわるフレーズが並び、野球の応援歌風でもありつつ「かっとばせーぴるあぽ!」とグループを鼓舞するような曲です。
一発目から佐野心音さんの絶叫の煽りが聞こえてきました。
ツアー前にリリースされたこの曲、恐らく今回のバックスクリーン的セットやユニフォーム仕様の衣装はこの曲ありきで組み立てられたはずで、今ある環境にこれ以上ないほどぴったりな曲からライブをリードしていきます。
ところで気になるのはここからの視界。
斜めを向いたときに前の方にさえぎられたことや、下手まで目を凝らすには角度が急すぎたことから、中央から上手側に視点を絞らざるを得ないことはすぐに悟りましたが、上手側だけを見るにしてもまだ距離を感じます。
ここからどうコミュニケーションを深めていくのかと思案気味になっているころに真っ先にやってきたのは小田垣有咲さんでした。
いつもであれば演者側は、ステージから見て角度の付いた斜め側、多くの場合デッドゾーンになっているエリアに気を留めることは少ないと思うのですが、この日はそこに沢山のお客さんがいます。
小田垣さんはそこにも進んで目線を送っていました。
少しの寒さと大舞台を見届けることからくる身震いが、包み込むような笑顔で収まっていきます。
なおも上手からセンター方向へと視線をやると、今度は佐野心音さんにぶつかりました。
フォーメーションでちょうど斜めを向いているときだったのか、軸足をずらして立っているこちらと真正面から向き合うという状態になっています。
正面にむかったブロックに対して佐野さんは得意のウインクをしました。
あの表情は自分だけに向けられたものだろうとそのブロック一帯にいた多くの方がそう思ったはずで、事実自分も勘違いをした一人です。
そう思わせてしまう魅力が、佐野さんの頻発するウインクにはあります。
序盤の序盤は、穏やかに場を温めていくような曲が連続しました。
「サニーガール」に「Happyyyy Pop!」。
イントロやサビなど振り付けを真似しやすいポイントが多く、これもぴるあぽの特長です。
おかげですっかり振りを覚えてしまいました。
自分がまだ通算3回目のライブだとは信じられません。
「サニーガール」の振り付けを、7人はレクチャーするかのように進めていきます。
間奏ではピースサイン2回の後キラキラを現すように手をさらさらと振り、次のフレーズでは両手をパーに開いて上下させながら左から右へ。
ニコニコしながらやってみせるメンバーを見てしまうと、自ずと真似したくもなります。
3カ月という長期にわたったツアーの最終日、日常の定期公演や対バンライブ、あるいはShowroom配信を行いながら全国各地を巡り、初日公演以来の東京に帰ってきました。
地方公演の前にはその地に前乗りし、地元の方々にビラ配りをすることもありました。
佐野さんや春海りおさん、小田垣さんなどは学業と両立させながらツアーを完走したメンバーです。
ツアー後半からは明確に「品川ステラボール完売」を目標に掲げ、あらゆる場所で唱えてきた結果、ライブ前日に完売。
万感胸に込み上げるものはあったはずですし、思い入れが浅いはずの自分ですら、スーツケースを引いて新幹線ホームを移動するメンバーの後ろ姿を見てぐっときました。
それは、見ず知らずの人の写真なのに、小田和正の歌をまぶすと不思議とじーんとくる、発作的な感動に近いのかもしれませんが、当事者なら袖から映像を見て涙を流すことだって全く不思議ではありません。
思いがあふれてくる材料は揃っていたはずですが、7人はどことなく落ち着いているのがMCからは伝わってきました。受ける感覚としては、この日が独立した特別なライブというより、これまで15回やってきたツアーと変わらず、あくまで「ツアー東京公演」という風に見えました。
だからと言って平熱かというとそんなことはなく、内にこもった熱やテンションは十分伝わってきます。
近づくのもの憚られるほど熱を発しているわけではないというだけのことで、むしろこのくらいが適温に感じました。
3曲を終えてひとしきり喋ったころ、7人の背後からはスタンドマイクを持ったスタッフの方が出てきました。
次のパフォーマンスに使うのでしょう。
ところが、置かれたのは3本だけ。
少しの違和感が生まれるのと同時に、確信めいた考えが浮かんで違和感をすぐに跳ねのけました。
あの曲に違いない。
ぴるあぽを知りたての数カ月前、持ち曲を一つずつ紐解いていく中で印象的な曲がありました。
デビュー曲「Don’t Peel the Apple」もシングル化とされた「勇敢JUMP!」も王道ポップスでいいのですが、マイナーコードで悲運の雰囲気漂うこの曲は、20曲以上あるぴるあぽの持ち曲の中でも異彩を放っていて、それだけに強く引き付けられたのです。
「リフ:レイン」という曲です。
なにせ一風変わった曲なので、聞いてすぐにライブのレパートリーにあまり入らないであろうことは分かりました。
ツアーでも恐らく一回もかかっていません。
それが最終日にようやくお目にかかれそう。
なぜスタンドだけでここまで確信できたかというと、かつてツイッターに、スタンドマイクを使った「リフ:レイン」のパフォーマンス動画が上がっていたからでした。
しかもその動画を見る限りでは参加しているのは全員ではなく、たしか2人でのパフォーマンスだったのでスタンドマイクが7本きっかりないことにも納得するばかりか、3本だからやはり、と確かな予感になったのでした。
予想通り、「リフ:レイン」からライブは再開しました。
7人中4人が袖に捌けます。
ステージに残ったのが黒嵜菜々子さん、佐野さん、松村美月さんという恐らくグループの中でも大人びた雰囲気をもっているメンバーだったのは、そこまで見通せてはいませんでしたが、スタンドを前に並んでみると妥当さというか納得感があります。
3人となったところで、先ほどまでのMCの和気あいあいとしたエンタメ的雰囲気は霧消し、余韻すらも払いのけるかのようにジェット機の飛び立つようなイントロが流れ出しました。
トークに耳を傾けるために座っていたフロアは慌てて立ち上がります。
紫色の光がほのかに照らされ、黒嵜さんから歌いだしました。
スタンドをわざわざ用意するだけあり、この曲は動きというよりもそのボーカルワークに力点を置いているはずです。
背後にスクリーンを控えた特別なこの日だと、さらに歌っているときの顔の動きも加わるでしょうか。
上がって下がっていくギターのリフに、ズトンとくるパーカッションの音。
暗めのメロディを背にした黒嵜さんの低音は、過去のライブレポでも触れましたがよく響きますし、スクリーンに映った物憂げなその表情も、決しては明るくはない繰り返しの未来を見通しているかのようで、曲の土台がここで出来上がっていました。
いつもは笑顔の多い佐野さんや松村さんも、すっかり暗い表情に包まれています。
聴きどころはサビのコーラス。
その時の情景を今は鮮やかに思い出すことは出来ませんが、音源で聴いたままの、厚く層を成して広がっていく音は思い出せます。
スタンドの前で立ち尽くしたままかと思っていたら、ソロの時には歌わない2人のメンバーが動きで見せる場面も多くありました。
笑顔を抑えた3人がスタンドマイクを手にして退場していったあと、今度は遊園地のような賑やかさがやってきました。
またしてもユニット曲。
「本気Love magical」を、春海りおさん、山崎玲奈さん、小田垣さんの3人は実に楽しそうにパフォーマンスします。
先ほどまでの暗い雰囲気が嘘のようにどこかに行ってしまいました。
マイナスとプラスで空気が中和されて迎えた次の曲は「君と水平線」。
黒嵜さんと浅原凛さんによるデュオです。
仲良しな二人が手をつなぎ、海の向こうに見えるカモメを思わせるようなゆらゆらとした腕の動きとともにのどかに歌っていました。
この曲、サビに入るとファルセット気味になります。
簡単ではないパートだと思うのですが、2人はこともなげに出していました。
黒嵜さんに対しては低音が得意というイメージが自分が観てきたなかで定着していたので、こんな声も出せるのだと驚きました。
2人が歌い終わったところで、残りの5人が出てきたのでユニットコーナーはこれで一旦終わったのでしょう。
7曲目は「we are…hungry戦士」。自己紹介風のこの曲から再度7人でのパフォーマンスを続けるのかと思いきや、曲が終わると全員がまたどこかに去ってしまいました。
バックスクリーンのビジョンには映像が。
事前に収録したVTRコーナーがここから始まるようです。
流れてきたのは、新春書初め。
一年の始まりということで、7人が2023年の抱負を思い思いに書いていく様子が映し出されていました。
3人と4人に分かれて一斉に書いていったのですが、書き始めたはいいものの漢字のつくりを忘れてしまうメンバーがいるなど、小学生ぶりくらいであろう書道に悪戦苦闘している
のが面白かったです。
そして一人ずつ発表。
山崎さんは「魅力」が書けずに新たな造語を生み出し、「BIGになる」と書いた小田垣さんには、つい日本語のみという縛りで考えてしまう書初めで英語をチョイスしたところに、そのビッグさの片鱗を見た気がしました。
各人が選んだ言葉の理由もそれぞれコメントし、またそこでもキャラクターが出て笑いが起きつつ、中盤のブロックに入っていきます。
暗がりの中、再びセンターからやってきたメンバーが着ていたのは、それまでの赤い千鳥格子柄が入った衣装ではありませんでした。
薄いピンクを取り入れた、それぞれで全く異なる私服風の衣装です。
初めて観たはずなのに見覚えがあるような気がしたのは、ライブ開始から2時間ほど前に理由があります。
ツイッターにいきなり、こんな動画が上がりました。
これからのツアーファイナルで披露する新曲のティザーです。
タイトルは「青春グラフィティー」。
青春とは言うものの、MVに登場するメンバーは一様に大人びたように見え、未熟さよりも遥かに成熟が勝っていました。
売れた売れないで語るのはナンセンスだと思ってあまり好きではないのですが、ライブアイドルという域ではもはやないような、非常にメジャー感ある完成度です。
もともとルックスでは十分すぎるくらいの引きがあった7人ですが、アイドル衣装ではなく私服に着替えたことで、それを真っ向から食らった気分でした。
曲名からして青春を題材にしたものであることは間違いなさそうですが、自分は一般的な青春だけでなく、ぴるあぽとして7人が歩んできたアイドル人生にも通じている気がしました。
現在ぴるあぽは新メンバーオーディションを開催中です。
ツアー数日後の1/13に書類を締め切ったばかり。
印象的なシーンとして、MVには一枚の紙を眺める黒嵜さんがいます。
ティザーの30秒間に長めの時間をとってこのカットが入っていることからも、黒嵜さんの手にした紙が数分間のMVで重要な役割を持っているのでしょう。
オーディションのことを頭に置いた時、見えそうで見えないその紙の内容はもしかしたら...と考えてしまうのです。
その紙こそ、アイドルオーディションの募集要項ではないでしょうか。
ぴるあぽが16箇所を巡ったツアーファイナルと平行してオーディションを走らせ、ファイナル直前に「青春グラフィティー」を先出ししたことは、別々のようで全て繋がっているように思います。
歩道橋の上で一枚の紙を手にした黒嵜さんのソロショットでティザーは終わります。
その後の展開へのワクワク感を抱かせたまま終えるこのシーンは、未来のぴるあぽメンバーが最も悩むであろうアイドルへの入り口とも言い換えられはしないでしょうか。
この曲は、恐らくその場で立ち止まって迷う新メンバーの背中を押す曲になるのかもしれません。
佐野さんはこの曲で、拳を固めて静止するサビ終わりの振り付けが好きだと言っていました。
確かにここの振り付けは一発で頭に入ってきて、勢い一本で行くのかと思ったところで急にピタッと止まるのは目を引きます。
展開や音の使い方がどことなく「夏、恋はじめます」「冬色センチメンタル」と似ているのも特徴で、ともに手がけている多田慎也さんの作品なのかなと思ったのですが、そのようでした。
このあとセットリストは「夏、恋はじめます」「冬色センチメンタル」と続いたのですが、いわば多田三部作のつながりはその境目が分からないほど綺麗です。
流れが分かりやすいので聴きやすく、春→夏→冬と、季節の移り変わりも感じられました。
淡い色の私服風衣装は、互いに似通った歌詞のあるこの2曲の片思いソングによく合っています。
「冬色センチメンタル」は12月のツアー名古屋公演で披露されたばかりの22曲目の新曲でしたが、今後も夏→冬のリレーは見られることだろうと思います。
それくらい、鉄壁のリレーでした。
ここで触れておきたいのが浅原凛さん。
浅原さんは、画面を通してみるのとステージとのギャップが大きく、生で観るとかよわさがハイライトされて映りました。
YouTubeのダンス動画では、素人目に見て一番ではないかと思ってしまうほど力感と柔軟性を備えた動きを見せるのですが、ステージに立ってみるとダンスのキレはそのままに、力強さという像がかすみ、いじらしいところがふいに現れてくる気がするのです。
浅原さんはぴるあぽの圧倒的センターではありますが、守りたくなるような雰囲気がにじみ出ているところに真骨頂があるのかもしれません。
季節の移り変わりを感じさせるセットリストで来たこのブロックの最後は「アオハルスケッチ」と、季節が再び春に戻って終わりました。
続いてはコーナー企画。
今度は映像ではなく、メンバー7人によるステージ上での企画です。
題して「炎の16番勝負」
ぴるあぽにとっては大先輩の”えじちゃん”(江嶋綾恵梨さん)の代わりにやってきたという”てじちゃん”こと手島優さんの進行で、ここからは進んでいきます。
この16番勝負はツアーの恒例企画となっていて、各地でメンバー対抗のミニゲームを行い、最下位となった人が罰ゲーム(モノマネ)をするというものでした。
最下位となった回数は集計され、16箇所目のファイナル公演を終えた時点でビリとなった人には大罰ゲーム「バンジージャンプ」が待ち構えています。
ファイナル前の時点でビリ、つまり最下位の数が一番多いのは浅原さんと山崎さんで4回。逆に最もビリを免れてきた松村さんと小田垣さんは1回しか最下位になっていません。
浅原さんと山崎さん、どちらかの罰ゲームはこの時点でかなり濃厚だったのですが、今回の罰ゲームは「ババ抜き」。
普通のババ抜きではなく、トランプのワンペアとジョーカーのみを使った、1対1の究極のババ抜きです。
対戦ペアはこれまでの戦績から並べられ、まずは1位と2位のメンバー同士が対戦、勝ったメンバーはぶじ抜けられ、負けたメンバーは3位のメンバーと対戦、勝ったほうが抜けて負けたほうがさらに下位と...というトーナメント形式の戦いでした。
最後は逆トーナメントの頂点にいる山崎さんと対戦し、最後までババを握っていたメンバーがバンジーと、こういう具合です。
下位メンバーは依然として不利ながら、上位メンバーにも負け続けたらバンジーの可能性があるという、ただトランプを引くだけなのに緊張感あるゲームでした。
ここからいちいち対戦を追っていくと長くなるので割愛しますが、追い込まれた時のメンバーの反応がそれぞれ違っていて、そこが面白かったです。
異様なまでに心理戦に執着する佐野さんに、顔から生気を失った浅原さん、そして表情を悟られまいと眉を上下させる山崎さん。
トランプを手にした瞬間に挙動がおかしくなるメンバーが続出でした。
結果は、決勝で浅原さんと山崎さんとの対決となり、最終的に山崎さんが敗北。
バンジー決定となってしまいました。
面白いことに、全メンバー負けの可能性はあったものの、初戦の松村さん以外は順位が低いメンバーが高いメンバーを負かすという下剋上が一切なく、ある種順当すぎる終わり方でした。
波乱を期待させながらも、驚くほど順位に忠実な結果。
これもまた、15箇所もまわったツアーだからこそなのかもしれません。
バンジーが確定して雷に打たれたかのようにショックを受ける山崎さんを、春海りおさんが慰めるように頭を撫でていたのが印象的でした。
真剣にバンジーを嫌がっていた山崎さんですが、ここはプロとしてポジティブに変換したコメントを残し、そろそろ曲かと思ったその時。
もうひと波乱がここで起きました。
突如流れてきたのは「ワルキューレの騎行」。
地獄の黙示録や、藤原喜明の入場曲でおなじみの旋律のテーマですが、流れてきた瞬間、7人がまるで条件反射のように崩れ落ちました。
叫びだすメンバーもいます。
どうやらこの曲、ぴるあぽにとっては因縁深い曲らしく、過去何度か配信などでサプライズが起こる前触れとしていつも流れていたようです。
いつのまにかそれが刷り込まれ、曲を聴くだけでビビってしまうようになったのでしょう。
世代的になじみがないであろうこの曲が、ガキの使いの「CRASH」よろしく、メンバーにトラウマを蘇らせました。
その音は、やはり今回もお知らせの序曲でした。
ただ、嬉しいお知らせです。
「重大発表」
スクリーンに注目し、出てくる文字に目を凝らします。
その内容は、「東阪ワンマンライブ開催」。
日付は6月4日と11日です。
ということは夏が過ぎるまでツアーはもうないのでしょう。
大阪会場はGORILLA HALL OSAKA、1週間後の東京公演は、ヒントを示すかのように場内を撮ったいくつかの写真が出てきました。
ホール内、エントランスに外観。
LINEのキャラのぬいぐるみが置かれたエントランスがあるこの会場は「LINE CUBE SHIBUYA」。かつてはCCレモンホールとも呼ばれた「渋公」です。
恐らくグループ最大規模のワンマンライブ開催という朗報にメンバーは、一も二もなく喜びの声を上げていました。
先ほどまで言葉数少なく、神経をすり減らしていたとは思えません。
グループが発足してから2年余りで渋谷公会堂でワンマン。
多くのグループが羨ましがるであろう芽の伸ばし方をしている今のぴるあぽですが、元はと言えばニジマスオーディションに落ちたメンバーの集まりでした。
オリジナルメンバーはみな「敗れた者」の経験から始まっているのです。
活動が始まってからは波がありながらも比較的順調だったかもしれませんが、初めに決定的な負けを経ている。
それがぴるあぽのなりたちであり、キャラクターでもあります。
スルスルと難なく進んでいるように見えても、敗者から始まった背景があるから歩んだストーリーに一層の共感を呼ぶのかなと思っています。
ただ一つだけ気になったことがありました。
松村美月さんです。
メンバーがみな喜びに浸っている中、松村さんはマイクを身体に引き寄せて下を向き、何事か考えているようでした。
松村さんは前回行ったツアーの千葉公演でも、地元で凱旋公演の小田垣さんが喋っている間下を向いて考え事をしている風だったのですが、リーダーなりに思うところは人一倍あるのかもしれません。
さてラストのブロックは強めの曲が続きました。
圧で押してきます。
タオルを回す「ブンブンブブブンサマーチューン」では薄まっていたスモークが再度焚かれ、それをタオルで拡散しているような感じでした。
最後は7人が持っていたタオルを客席に投げ入れて終了。
お客さんが頭上で競って取り合いました。
ラスト「はじまりのはじまり」から「Va!Vamos!」は、来ると分かっていても圧倒されます。
「はじまりのはじまり」では前のパートと被って次のパートが聴こえてくるという、余韻とフライングの重なりによって音が束になる瞬間がありました。
「Va!Vamos!」だったかと思うのですが誰かのソロの時、やや下手よりの中央あたりに水色のサイリウムが目に入りました。
そのサイリウムが目立ったのは、付近で光っていたほとんどが水色ではなく別の色だったからです。
そのパートで歌っているのは水色担当の浅原凛さんではありませんでした。
それなのに水色が光っている。
理由はすぐ分かりました。
センターやや下手側、つまり水色に光らせているファンの方の目の前くらいに来た浅原さんが、ソロ歌唱をも食わんばかりの熱のこもったダンスをしていたのです。
目に見える範囲で限定すれば、このパートでの主役は浅原さんでした。
切ない曲では苦しい表情を見せて弱さをさらけ出す一方で、どこにいても自分がセンターだという矜持を浅原さんからは感じます。
「Va!Vamos!」Cメロ。
「君を連れ出して巡るよ」
「世界中のMUSIC 終わらないアドベンチャー」
佐野さんのソロ、そして一人ぶんあけて山崎さんと松村さんが2人で歌います。
その間を割ってラスサビ前最後のフレーズ「冬の空に全力の夏を見つけろ」を歌うのは浅原さん。Vの字をした指を天に掲げるところまでが綺麗に決まっていました。
終わりにかけて、楽しい曲ばかりのはずなのに松村さんがやや険しい顔をするときがありました。
先ほどのMCでの意味ありげな顔つきといい、こちらが深く考えすぎなのかもしれませんが気になっています。
ともかく「Va!Vamos!」までで本編は終了。
あっさりとした挨拶をして、私服風衣装の7人は下手側に消えていきました。
すぐに始まった手拍子に導かれるようにメンバーが出てきたのは、本編終わって割とすぐでした。
衣装はまたも変わり、赤のストライプがメンバーカラーとともに入ったユニフォームタイプの衣装。
ツアー地方でのアンコールと同じいでたちでした。
オーディションに選ばれなかったことが始まりだったグループの船出の曲「リンゴの皮をむくな!~Don't Peel the Apple~」を1曲目に披露し、ファイナルもそろそろ終わりだという雰囲気になっていきます。
後はMCでそれぞれがコメントを残し、ラストの曲を披露するだけ。
感想を言い合ったり、フロアをじっくりと眺めるのも、もうこのひと時以外にはありません。
このツアーファイナル、ユニットの曲を除けば構成の大部分が地方ツアーと似通っていて、アンコールが2曲というのもしかりでした。
残された曲が「さんきゅー!」であろうことは、今までの会場でもそうだったことからも容易に想像できます。
ファイナルということを意識しすぎないように、できるだけ平静を保って地方16公演目のつもりでこなしてきましたが、メンバーを見ると途端に寂しさが襲ってきたようでした。
松村さんか誰かが「ねぇ...」と小さく息をつぎます。
その息遣いからは、進んでいく時間に逆らってもうしばらくここに留まっていたいと食い下がる気持ちが見え隠れしているようでした。
松村さんが切り替えて場を整え、端のメンバーに感想を振ったらあとは流れつくままに締めへと向かっていくだけです。
巻き戻すことは無理でも、押しとどめてはおけないものでしょうか。
「幸せだけど、寂しい」
こう言い出すメンバーがいました。
言い得て妙だと思います。
以降誰も口を開こうとせず、なんともいえない空気が流れ始めます。
それが打ち破られたのは、またしてもこの音楽でした。
ワルキューレの騎行。
再びメンバーは力が抜けたようにしゃがみこみます。
重大なお知らせは、東阪ワンマンだけではありませんでした。
バックスクリーンに現れた文字は、「地上波冠番組決定」。
これから行われる新メンバーオーディションの模様もここに収められるそうです。
最近テレビをつけたらぴるあぽをよく見ると山崎さんは嬉しそうにツイートしていましたが、ゲストなどではなくラテ欄にグループの名前が固定で書かれる日がやってきたのです。
メンバーの喜びようはワンマンと同じかそれ以上でした。
いったんよどみかけていた空気の流れが、また活発になってきました。
気分が上がってきたところで、メンバーによるコメントに移っていきます。
この日のぴるあぽを観ていて感じたのは、グループ史上最大の規模でのワンマンではあるものの、まだまだここが通過点だということでした。
どのグループだって今の動員や規模が最高点だと満足しきることはないとは思うのですが、ぴるあぽは必要以上に特別感を演出するようなことはしませんでした。
ツアーファイナルは例外なく全てのアイドルグループが最も気合いを入れる舞台だと思うのですが、時に気負いが過ぎてやけに重くなってしまうきらいもはらんでいると自分は思っています。
それは周年ライブなどでも同じなのですが、つまるところ大事なライブであればあるほど、なんだか緊張が伝わってきたり、期待しすぎるがゆえに肩透かしを食らった気分になったりすることも正直あったりするのです。
こちらも身構えて身体を固くしてしまっているのが悪いのだと思いますが。
ところがぴるあぽのファイナルはここまで何度か書いてきたように、あくまで「16箇所目の地方公演」という位置づけに自分は見えました。
良い感じに肩の力が抜けています。
VTRコーナーや対決企画は長めでした。
普通ならここで冷え切ってしまい、連続して曲がかかっているときの熱に戻すのは簡単ではないはずです。
しかしちゃんと再沸騰しますし、良いものを観たなという満足感はこれまでの地方公演を優に超えていきました。
ライブ前にメンバーがことあるごとに語っていたのは「ファイナルをソールドアウトさせる」。
つまり、ファイナル公演にあたった目標はライブを成功させることではなく、その前に入りきらないほどのお客さんをその場に集めることでした。
こう書いてしまうと非常に誤解を招く気がしますが、もちろんライブの成功は誰の頭にもあったと思います。
ただそれを誇大に言い過ぎることがありませんでした。
前売りソールドを強調することでライブそのものの重みが相対的に軽くなったような、そんな気がしました。
その決して低くない目標が達成されて幕を開けたファイナルでは、メンバーはパフォーマンスをしながらも心は既に次に向いていたのかもしれません。
MCでコメントを語り出したときも、泣き出しそうになるメンバーや、少し涙を流すメンバーこそいましたが語り口はみなきっぱりとしていて、涙が出て詰まりそうになったらコンセントを引っこ抜くかのように「本日はありがとうございました!」と途中で切って頭を下げていました。
ことさらにお涙頂戴の演出をするわけではありません。
でもそれくらいが、自分のようなツアー途中からライブに行きだしたような人間にとってはありがたかったです。
知らないことを補完しながら、共にに行ったことがない地でも追体験をした気になりながら楽しめました。
初めから感動させようと思って作られるものは、一見立派でも所詮つくりものでしかないと思っています。
ぴるあぽを観てたち現れてくる感覚は、ハリボテではなく本物だったような気がしました。
秋に始まったこのツアーは、発表されたときから年をまたぐことは確定していたにも関わらず「”秋”もアツいぜ!炎の全国ツアー”2022”」と銘打たれています。
旧暦でいえば冬にあたるこの3カ月間。
ファイナルをもって、ぴるあぽの2022年と長い秋がようやく納められました。