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【ライブレポ】Peel the Apple東阪2大都市ワンマンLIVE〜過去最大キャパらしいけど…本当に埋められるんだろうね?〜 東京公演

新メンバー2人の加入後初お披露目の舞台。
過去最大規模の会場である渋谷公会堂で見たものは、7人で固まっていたグループに2人が合流した瞬間というよりも、9人となったPeel the Apple、通称”ぴるあぽ”の「はじまりのはじまり」でした。

新メンバーオーディションが発表されたのは昨2022年12月。
7人で16箇所を巡る全国ツアーが終わりに差し掛かってくる頃でした。
オーディション締め切りに合わせるかのようにリリースされた「青春グラフィティー」はまだ見ぬ未来の仲間の背中を押す先輩メンバー7人からの応援歌のようでもあり、MVにある私服風のキラキラした衣装を着た7人の姿は、憧れのアイドルの具現のようでもありました。
その直後には品川ステラボールという当時グループ史上最大規模でのツアーファイナルも行われ、1歩踏み出す材料は揃っていました。
そこで感極まって応募に駆けこんだ方もいたかもしれません。

書類や配信審査などを経て厳選されたファイナリスト10人のレッスンや合宿の様子は、品川でのツアーファイナルで発表された地上波の番組などで密着され、自分はその番組は見ていないのですがYouTubeに上がっていた合宿動画は見ました。

「正直に言えば」
ステージでは一番下手から、松村美月さんが発表当時の気持ちを包み隠さず語っています。リーダーの松村さんはいつも、じっくり間をとって思いつめたような、考え込むような姿勢で喋るイメージがあります。
「新メンバーオーディションが発表された時、複雑な思いもあった」

合宿には現メンバーも駆けつけたようでした。
オーディション発表時、理想の新メンバー像はと問われた7人の回答は様々でしたが、全メンバーでなんとなく共通していたのは「努力できること」という一点でした。
アイドルでいることは想像以上にタフなので、それでも折れずに頑張ってくれる子がいいなぁと言っていたわけです。
初めは複雑さを抱えながらだったメンバーですが、配信を覗いてみたり、合宿で顔を合わせてみたりする中で新メンバー候補者のひたむきさに触れ、思うところも霧消していったようでした。
黒嵜菜々子さんは「すごい努力家さんたちの集まり」と舌を巻き、松村さんも「自分たちのオーディションの頃を思い出して」懐かしいようないじらしいような気持ちが芽生えてきたようです。

新メンバー発表会は、4月19日、渋谷クアトロで行われたライブでした。
そこで広島世那さんと南るなさんの2名が発表となり、ライブ配信やラジオ、さらには後で知ることになりますがレコーディングなどライブパフォーマンス以外の仕事をこなしつつ、2カ月弱の準備期間を経て9人のぴるあぽとしてステージに立ったのが6月11日の渋谷公会堂ということになります。

15曲もあるセットリストの全てをこの期間に詰め込んで仕上げるのは流石に無理があったようで、9人フルの時もあれば広島さんと南さんが捌けて見知った7人でのオンステージもあったりと、曲によってメンバー数が変動していました。
1,2曲目の「バトン」「Don’t Peel the Apple」ではフルメンバーだったのが、3曲目では2人がステージから去り、何曲か7人で披露したらまた戻ってくる...といった具合です。
新たに2人入ったといっても、7人用だった歌割りを9分割しなおしたり、シャッフルしたりするわけでもなく、パートのほとんどは7人が元々のパートをそのまま歌っていました。
いきなり新メンバーにそれなりの分量の歌割が降ってきたというわけではなさそうです。
まずはフォーメーションに2人を溶け込ませ、3年弱のグループの歴史でも初となる9人のぴるあぽを違和感なく成立させるという部分に力点が置かれているようでした。

新メンバー2人のうち最年少の南るなさんは、揃えた重めの黒髪から覗く眉毛は厳しく顔はこわばり気味ではありましたが、タオル曲「ブンブブーンサマーチューン」の腕を振り下ろすところなど人一倍キレのある動きを見せていて、これからが楽しみでしかありません。

大物感があるなと思ったのが、もうひとりの新メンバー・広島世那さんでした。
緊張からかはじめは青白く見えていた顔は曲が進むごとに血色を増していき、歌割りがないところでも歌詞を口ずさんだり前方の席に話しかけるような素振りをみせたりと、見るからに緊張を脱しているのがわかりました。
どこかの曲で長めパートを与えられていたのですが、そこでも非常に落ち着いています。
最悪他でミスしたとしても、センターで視線を集めるこのパートだけは絶対に外してはいけないという練習の跡や、固い信念みたいなものが伺えました。

本編ラスト「はじまりのはじまり」で、黒嵜さんが歌い始める時、メンバーの頭上にある大きなスクリーンに歌詞とともに地図が現れました。
世界地図を簡略したようなアニメっぽい絵で、緑色に塗られた大陸や青色の海がそれらしい形をして一面に広がっています。
その絵が上下左右に動いていくのを見ると、RPGかなにかの”ぼうけん”かのよう。
冒険ではなく「ぼうけん」という感じです。
4方向のカーソルでマップを動かしているような平面の映像を見ていると、なんだかこの画面もぴるあぽらしいなと思えてきました。
ぴるあぽの曲やライブに触れると、いつまでもフレッシュで前しか向いていないような姿はときに現実離れしているように思うことがあります。
これは幼稚だとか子供っぽいというのとはまた話が別なのですが、メンバーくらいの年齢(20代前後)になれば否応なしに実感するであろう青春の影みたいなものをあまり感じず、なんというか二次元的な明るさを覚えるのです。
嫌なものから目を背けているのとも違っていて、そういう苦しさも飲み込みながら前へ前への歩みを止めておらず、そうしたところが現実世界に生きる自分にはまぶしく映ります。

南さんがのちにツイートしていたように、はっきりとしたものから内部的なものまで、ミスはいくつかあったんだろうなと思います。
いきなり完成品に仕上げてきたというよりは、ひとまず見せられるレベルに持っていくというのが今回のゴールだったのでしょう。
ただ、そこにはまた振り出しか...という悲観的な空気は漂っていないように見えました。
これからしばらくライブでの曲目が限定的になり、日の目を見ない曲が出てきたりもするでしょう。
あるいは、7人で完成させたもののクオリティが一時的にでも下がってしまうことは避けられないかもしれません。
悪いように見るならば、ここから少しばかりの停滞ということになってしまうのかもしれません。
ただ、一見ネガティブに見えるこうした障害も、ぴるあぽにとっては物語を盛り立てる小さなステップであり役者のようでした。
グループとして初めて与えられた「Don’t Peel the Apple」の衣装をベースに、かすかに見える金のラインで装飾をつけて豪華になった新衣装は、困難さえも楽しみだったであろうデビュー当時の気持ちを7人に思い出させていたかもしれません。
お披露目という意味合いが強い今回のライブでしたが、2人の加入はそれだけ大きな影響をグループに与えたのだろうなと思います。
開演直前のVTRにあった「ぴるあぽ新章の幕開け」の言葉を噛みしめずにはいられませんでした。
人が増えたというだけには留まらない意義が、広島さんと南さんの加入にはあったのだろうなと想像してしまいます。
気になっていたほころびが縫い合わされ、緊張という言葉をあえて出さなくても2人のカラーがより濃くなったとき、肩を組んで前に出していく一歩は大きなものになるのでしょう。
争奪戦で勝ち取ったアットジャムのメインステージしかり、ライブアイドル自害にアプローチ出来るTV番組のレギュラーが奏功したのか、ファンはやはり多い。
秋には2ndミニアルバムを出すことが発表されました。
いまのぴるあぽの状態はとても良いはずです。

開演前は真っ暗で何も分からなかったステージは、はじまりとともに光が差し込んでその全貌を徐々にあらわしはじめました。
波立たせた深い赤のカーテンと、はるか上に金色っぽい装飾が見えます。
LINE CUBE SHIUBUYAはてっきり歴史ある渋谷公会堂の建物をそのまま引き継いだのかと思っていたのですが、同じ敷地内の別の場所に建て替えられていました。
非常に新しく、床も椅子も呼吸を感じるような木を中心としたつくりです。
座面は赤。
ステージと座席の境界線に位置する照明からは主にブルーの光が放たれていました。
奥で光る白色光はときに眩しいほどです。
建て変わっても音楽堂としての威厳を引き継いでいるようなホール内で、1曲目「バトン」で聴こえてくる音は歓声のようでも悲鳴のようでもありました。

身体を大きく曲げながら歌う佐野心音さんの歌声にはやはり気圧されてしまう威力がありました。
明るくなった髪のおかげで、華が一層出てきているように見えます。
煽りもいつも通り好調で、なんの不具合もなさそうに見えたのですが、後に明かしたところによると実はのどの調子が悪く、直前まで山崎さんに煽りをお願いしようか迷うくらい絶不調だったというのです。
声を出すときの体の折り方がいつも以上にオーバーだったのは、絞り出すように声を上げていたからだったのでした。

初めて観たときからぴるあぽのボーカルで印象的なのが、音が何そうにも重なって聴こえること。
恐らくは下地にコーラス音源を入れているのだと思いますし、メンバーの声の性質もあるのでしょう。
様々な音は、網をかけるようにアンプに一旦集められたあと拡張されます。
今回のように2000人規模という会場の大きさも加わると広がりはさらに増し、花火の余韻を楽しむかのようにパラパラと音が降り注いできました。
その中心で音を貫いていたのが佐野さんでしたが、もう一人の声も無視できませんでした。
松村美月さんは、これまで佐野さんと対極にある印象で、伴奏や裏のコーラスに負けるか負けないかのラインで繊細な声を保っていたように思っていたのですが、この日は繊細さを失わないまま存在感を増していました。
リーダーなので喋る機会が自然と多くなるのもありますが、この日は松村さんがMCで感情や言葉を発する場面が特に目立ちました。
歌もしかりで、心にしたためたものを吐き出すような姿勢です。

アニメエンディングテーマの話題になった時、センターで解説しながら喜びを口にしていた山崎玲奈さんは、ことのほか鼻が高く、汗で光った顔に影が落ちたときの表情には胸を突かれる感覚がありました。
毎日継続しているSHOWROOM配信(できたらもう少し早い時間にやってくれると嬉しいです)ではいつも声が明るく快活で、少し抜けているキャラクターはメンバーで集まったときによくツッコまれています。
落ち着きよりも若々しさが前に出てきているので、最年少と間違えられることもある山崎さんですが、目線を切る直前の表情だったり、パフォーマンスに入っているときの表現は成熟しているように見えました。

音とダンスのはめ方が抜群にうまいなと思ったのは浅原凜さんでした。
止まるところを止め、かとおもえば前の動作を長引かせることもあったりと、ダンスは意のままという感じでした。
切ない「冬色センチメンタル」での目をつぶった苦しげな表情は、もしかして泣いているのではないかという思いすらこちらに抱かせ、アイドルに対してこういう表現は適切なのか分かりませんが官能的でしたし色気がありました。

ぴるあぽの大きな特徴をほかに挙げるとするならば、振り付けの手軽さもあるでしょう。
浅原さんのように突き詰めたメンバーを見るととても同じだなんて言えませんが、ダンスがとっつきやすいのは間違いありません。
見やすく、真似しやすいです。
勇敢JUMP!」で応援団のようにフレーフレーと腕を前や横に出してみたり、「目の前の人のため」でピシッと指を指すところなど、10人目のメンバーと言ってしまうとおぞましい話ですが、9人に負けじと自分も強く指を前にやりたくなってしまいます。

曲数もそこまで多めのボリュームではなかったということもあり、フリコピをして楽しんでいるうちに気が付いたらライブの終演時間を迎えていました。
センター0ズレのかなり良い位置にいたのですが、細かい記憶はほとんど飛んでしまっています。
それでも、充実した感覚は手のひらや体温にちゃんと残っていました。
あれこれ言葉が出てくるよりも先に、脳が動く指令を出していたのだと思います。
文章が際限なく浮かんでくることだけが良いライブではありません。
身体に残った熱もまた、楽しかったことの記録です。

最初のMCで松村さんはこう言いました。
「(新メンバーの)せなるなに、ぴるあぽに入ってよかったと思ってもらえるようなライブにしたい」
夏フェスにアットジャムのメインステージ、それ以外のライブでも動員の中心となる機会は多いでしょう。そして秋にはアルバムリリース。
この日は発表されませんでしたが、秋から冬にかけてはワンマンやツアーなどももしかしたらあるのかもしれません。
合流ではなくまっさらな状態で始まったぴるあぽ新章は、一つの思い残りもない「はじまりのはじまり」でした。


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