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【ライブレポ】可憐なアイボリー 1st Live Tour 『青春リベンジ!』ファイナル東京公演

終盤に解禁されたミリタリー風の真っ黒な新衣装と新曲「拝啓ライバル」。
「負けんな負けんな」「これは戦争なんだ」
一歩先をゆく“ライバル”に向けて一騎打ちを挑むようなメッセージで、サビの振り付けには、拳を前に突き出して殴りかかるようなポーズが入っています。
これまでHoney Worksプロデュースの可愛くキャッチーな曲を持ち曲に、常に可憐さと寄り添っていた10人組アイドルグループ「可憐なアイボリー」にとっては活動2年弱で初めて笑顔を失った曲ではないでしょうか。

1st Live Tour 「青春リベンジ!」は3月25日の福岡公演に始まり、広島、香川、愛知、大阪を経てファイナルの東京・品川ステラボールにやってきました。
ファイナル公演にあたり、一つサプライズがありました。
チケットの何次先行かを終え、おおよその動員が見えてきたであろう5月の半ば、同事務所で同じくHoney Worksサウンドプロデュースの10人組グループ「高嶺のなでしこ」のゲスト出演が発表されたのです。
たかねこと”カレアイ”の交流の機会は、これまで意外とありませんでした。
今年春先の楽曲交換で初コラボをしたくらいで、互いに意識しあいながらも、ある一定以上の距離感を維持していたようです。
曲コラボからここにきて急接近しています。

たかねこ」ゲストが初動での発表でなくファイナルが差し迫ったころだったのは、動員増のためのカンフル剤という見方もある意味では正しいのかもしれませんが、しかしそれだけが理由ではありませんでした。
現状、知名度としてはたかねこのほうが上回っています。
元ラストアイドルメンバーが3人もいてデビュー前から注目されていたことが決定的な差だと思いますが、YouTubeのMV視聴やSNSの伸びといった見える数字を比べても、可憐なアイボリーの一年後にデビューしたたかねこのほうが上なのです。
この世界、分かりやすい数字だけでは比較しきれないところもありますし、数字で上回っていることがグループの差をそのまま反映しているとも思えません。
とはいえ、同じ10人組で、楽曲の提供元も事務所も同じグループの動向は多少なりとも意識せずにはいられないはずです。

たかねこの登場はライブ中盤の、可憐なアイボリーメンバーの衣装替えも兼ねた間隙でした。
暗色系のロングワンピース衣装で「乙女どもよ。」など3曲を深刻な顔つきで披露していき、Honey Works曲の可愛い側面しか知らなかった自分は青天の霹靂のような感情だったのですが、可憐なアイボリーが新衣装で「拝啓ライバル」を披露したのはこの直後でした。

たかねこが去った後にみると、歌詞もパフォーマンススタイルも、否が応でも意識せざるを得ません。
曲中に出てくる“君達”のフレーズが指すものはたかねこに他なりませんし、冒頭に繰り返し出てくる「僕達と君達とでは一体何が違うのか」はたかねこに数字上では後塵を拝してしまっている状況を表現しているのでしょう。
たかねこ以外のグループだったりライブアイドル全体を”君達”としていると捉えられるかもしれませんし、あるいは自身のことではなく我々に向けた応援歌という見方も出来るかもしれません。
10人それぞれ、歌詞を貰ったときに追い抜くべき存在を別々に思い浮かべたかもしれません。
ただ、このライブ構成を見せられた自分は少なくとも、ライバルにたかねこを意識づける曲だと直感しました。
前を行くたかねこの背中を追いながら、「君達は気づいていない 後ろから来る足音に」と挑戦状を叩きつけているようにしか思えないのです。

かねてから可憐なアイボリーは「この10人で大きくなりたい」「トップアイドルになる」と公言し、心をひとつに皆で高め合っているところが最大の魅力だと語っていました。
福田ひなたさんは言いました。
「Zepp Divercity Tokyoでライブすることが夢」
そこに立つためにまず、「拝啓ライバル」を通して共通点も多く身近な(しかし大きい)存在である高嶺のなでしこを見据えたのではないかなと思っています。
自分が可憐なアイボリーを知ったのは今年の事で、未だに語れるほど詳しくもありません。
しかしながら、後発グループなのに先を行く高嶺のなでしこを見てメンバーもファンも思わないところは無いはずだというのは確信的にありました。
たかねこと”カレアイ”、どこにどんな差があるのでしょうか。
「何が違うの?」なんとも言えない、モヤモヤと溜まっていった気持ちをはっきりと言葉にして「いつか交えよう」と決心を示したのがこの曲ではないかと思うわけです。

拝啓ライバル」を出したところでたかねこへの視線があからさまなライバル視になるとも思いませんし、これからも互いに付かず離れずの距離感で仲良くやっていくのでしょう。
MCでの永尾梨央さんの進行や口調は実に丁寧で、あくまでホストとして高嶺のなでしこをお迎えするという誠意にあふれていました。
この関係性はそうそう変わっていくことはないはずです。
けれども、心の奥底で燃える、時として表に出しにくいほど汚い心をここでさらけ出したことで、何かが変わるのではないか。
今はやりのSNSで長文を書き連ねるでもなく配信でぶちまけるでもなく、曲とパフォーマンスだけで表現しきった姿を見て、そういう予感がしました。

これまでと趣向を変え、かっこいいカレアイをはじめて見せたというだけに留まらない意義を「拝啓ライバル」に見た気がします。

全員を取り上げる義理もないので各メンバーに触れるつもりはなかったのですが、主に上手側を追いかけているうちにそれぞれに対して何かしら自分なりのポイント見えてきました。
可憐なアイボリーは、10人もメンバーがいるにも関わらず個性が喧嘩せず、かといって影に隠れることもありません。
それが何より希少な武器だと思います。

品川ステラボールはライティングが非常に綺麗で、ただでさえビジュアルの強いメンバーをさらに鮮明に映し出していました。
最近よく実感しますが、たかがライトと侮れないもので、照明の光り方でステージの画質は大きく変わります。
フォーメーションは何のよどみもなく、一筆書きのように形を変え、前から順番に腰を下ろしていくなど縦の連携が必要な箇所ではコンマ単位のリズムがぴったりとハマっていました。
個性が出ているといっても統率は十分で、手首をひねる動きだったり指先を残す振り付けは10人が一様の動きをして綺麗でした。

メンバーを見ていると、自分の得意な表情や顔のパターンをそれぞれで確立しているような気がします。
カレアイ現場では「カメアイ」というそうなのですが、両サイドや後方の席からカメラを掲げたファンの方々が沢山いました。
そのことでより意識していたのかもしれませんが、一瞬を切り取った時のキメ顔に抜かりがありません。
SNSに上がる自撮りや、MVのリップシーンとまるで同じ、完成された表情をしているシーンが目立つのです。

序盤は上手に来ることの多かった波左間美晴さんをよく見ていましたが、常にニコニコした笑顔を崩さずに、じつにイメージ通りの顔つきでした。

土屋玲実さんは、可愛い系の声質のメンバーが多い中にあってボーカルの根っこを支えているという印象です。
土屋さんもまた、MVなどでよく見る、目じりや眉が下がった困り顔をよく作っていました。
その表情を一目見てしまうと素通りできず、一体どうしたんだろうとほんの少し気がかりになります。
わずかながら、頭に残る時間が生まれるのです。
自然とその表情をするのが上手いなと思っていました。

その土屋さんとMCの時隣同士で、下手端でずっと手を繋いでいた福田ひなたさんは「僕らはきっとすごくない」かの下手→上手移動で腰を低く落としていたのが印象的でした。
ラストの「ファンサ」でメンバーはステージを降りてファンのいる座席のほうに向かっていったのですが、自分の席の近くに来たのが福田さんでした。
ステージで見ると背が高い方なのかなと思っていましたが、近くで見るとこんなに小さいんだと気付かされます。

もう一人、背の高いメンバーが小坂ねねさん。
メンバーいち背が高いような気がするのですが、手足の長さと、割に合わない顔の小ささは頭で整理がつかないほど別次元でした。
記念撮影のとき、「ねっちゅ可愛いよー!」とひときわ大きな声が座席から飛んでいたのもわかります。
それでいて、ShowroomやYouTube番組などで喋ってみると結構抜けていたり奇天烈なところがあるから面白い。
七分丈をまくって半袖にしたような桜色の衣装だと、腕から指にかけての細さが際立ち、ダンスの細かさもよくわかります。
ある時Showroomで「私はあんまり長いフレーズを任されることがない」と言っていましたが、「ハンコウ予告」の「3,2,1」など、短くとも頭に残るシーンでのソロカットが多い印象です。
良いように言えば小坂さんは、ほんのわずかな時間でもインパクトを残せるから、あえて眺めのパートを用意するまでもないということなのだと思います。

冒頭「いつだって戦ってる」「ハンコウ予告」の2曲はとりわけ照明が暗めでした。
顔には影がかかり、暗闇で蓋をされた中で目が光るメンバーがいました。
高澤百合愛さんです。
メンバー総出で「悪い顔」が現れるのは「拝啓ライバル」ですが、この2曲での高澤さんの目で訴える姿は、シャープな見た目もあって切れ味の鋭いナイフのようでした。
直接話をしたこともなく、ライブもまだ2回くらいしか行っていないので、ネットで近影を見るしかなかったのですが、そこで抱いていた、のんびりとマイペースな高澤さんのイメージはライブを通してかなり変わりました。
メンバーの中で一番ギャップを感じたかもしれません。

対して柴咲あかりさんは、ここの2曲でもイメージ通りの笑顔。
これもこれで安心しますし、見続けていたくなる表情です。

全身をくまなく使った小田桐ななささんのダンスは、上背があるだけにダイナミックです。
「拝啓ライバル」の2番、がなるように「並ぶこと目指してるだけじゃ君達に届かない」というフレーズがあるのですが、2番が1番の単調な繰り返しになっていないのは小田桐さんのソロパートが色を付けているからだと思います。
このパートがあるとないとでは随分と印象が違っていたかもしれません。

衣装チェンジのあとから、曲が進むにつれてメンバーの汗や上気した顔が目立ってきました。
他のメンバーが口々に「お手本にしている」「ダンス動画見ながらいつも踊っている」と言うほどダンスを身上としている名切みあさんは、過酷になっていく後半戦でこそいきいきとしているように見えます。

可憐なアイボリーのMVを見ると、10人を映す配分に偏りができるだけ生まれないようにリップシーンやソロカットを撮っていることが伺えます。
多少の多寡はあるもののパート割りも比較的平等で、サムネの画像をとっても誰かが極端に前に出すぎることもありません。
ただ、その中で最もセンターが似合うメンバーを強いて挙げるとするならば、自分は寺本理絵さんではないかと思っています。
グループのボーカルの幹となる歌声だったり、一度見たら忘れない強力な目力。
センターに来たときに感じるしっくり感は、ステージ中央が寺本さんを呼んでいるのかとさえ思ってしまいます。
いつだって戦ってる」のビジュアルはフェアリーズの伊藤萌々香さんを彷彿とさせます。
伊藤さんもまた、不動のエースでセンターが似合うアイドルでした。

年齢は関係ないと教えてくれたのが永尾梨央さんでした。
年齢的には最年少ということになっていますが、落ち着き(と簡単に言ってしまっていいのかわかりませんが)が誰よりもありましたし、「リズムの取り方あってるか梨央ちゃんによく聞く」とメンバーが言うように、司令塔的な働きすら透いて見えるようです。

ぎじれんあい」ではメンバーが必死にコール指南動画を上げてくれているのですが、自分は予習しきれておらず、突っ立ったままでした。

ただ、こうなってしまっていたのは自分だけではなさそうでした。
どうも、会場全体から教えられたとおりのコールが飛んでいる感じがしないのです。
よくよく耳をすますと、ステージにほど近い席はやはり熱心な方が多いので結構声を出していらっしゃるのですが、それより後に行くとまばらです。
今回のライブの席種はカメラ席を除いて3種類あり、一番安くて後方の席には「後方彼氏面席」というユニークな名前が付けられているのですが、まさにそのような状況でした。
可憐なアイボリーは地下にとどまらずもっともっと大きくなっていくグループだと思います。
地下っぽいコールなどなくても良いと思っているので、個人的にはこれくらいの声出しがちょうどよかったのですが、終盤に行くまではメンバーがファンをかなり引っ張っているような関係性でした。
メンバーが望んでいる盛り上がりにはやや物足りないのかなと、失礼かつ超上から目線ながら思ってしまったのですが、形勢は最後の曲「ファンサ」で逆転しました。

その前の「僕らはきっとすごくない」は自分としてはかなり好きな曲で、ここだけでも高まりましたし、Lの字にした指を振るイントロなど真似しやすいのでフリコピしている方も多めでした。

着きかけた火はここで留まらず、「ファンサ」でさらに燃え上りました。
見たこともない光景でした。
小坂さんのサビ前の「いくよー!」を号令に、拳を振り上げるサビでは無数の腕やサイリウムが天井に突き出します。
「こぶしあげて!もっと!汗をかいて!もっと!」
栓をして我慢していたものが抑えられなくなったのか、それとも全ては「ファンサ」への助走だったのか。
実際にそんなシーンはありませんでしたが、どこからか筒が破裂し、いくつもの紙テープが頭上を舞う様子が目に浮かびました。
それほど充実感があったのでした。
寺本さんから永尾さんへの落ちサビは細かなクラップが発生。
白やピンク、オレンジの細い光が差し込む中、いつしか頭は澄み切り、気分は晴れやかになっていました。
青春は楽しいことだけじゃなくて、辛いことも苦しいこともある」直後の寺本さんのコメントです(ニュアンスです)。
痛さや苦しいところも抱えながらも、可憐なアイボリーが2時間ちょっとの間で示してきたのは突き抜けるような爽やかさという青春、これのみでした。
青春の色に青は欠かせないとこれまで思っていました。
そんな思いは、寒色系を一切使わなかったライティングで否定されました。

連帯感もあり、全く無駄がありません。
本当に、スッキリとしたライブでした。
このステージを見せられたからこそ、「拝啓ライバル」が口先だけではないことがよく分かります。

「拝啓ライバル」の最後には、こんな歌詞があります。
「この涙で芽吹くはず 可憐な花 僕達は...」
グループ名の一部が歌詞に入るのは初めてでした。
「武器」だの「戦争」だの黒くて荒廃した感情がとりまくこの曲の中でなお、花が咲くはずと願っているのです。
黒で支配された中に咲く花は青空の下より美しい。
可憐なアイボリーというグループは、そういう存在なのかもしれません。


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