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季語「凍てる」を詠んだ句より一句

凍てにけり障子の桟の一つづゝ   久保田万太郎


「凍てる」は水が凍ることだが、
俳句の季語としての「凍つ・沍つ」は
寒さに関するもっと広範な意味がある。
一般的な寒さよりもっと強い寒気の感覚をいい、

 それを五感で感じるすべての事象に反映する。
月や星も凍てるし、鐘の音も凍てるのである。

 この句は「凍てにけり」と上五で「けり」の切字が使われている。
いきなり上五に「けり」が使われて言葉が切られているため、
次に出てくる言葉への期待感が高まる構造になっている。
したがって、ここで出てくる中七、
下五で何をいうかが
句としての出来を左右する。

 この句では障子の桟が出てくる。
「凍てている」のを感じるのは「障子の桟」かと
意外な展開にしてあるのが、
この句の巧いところだ。

 障子の桟は冬日の淡い光を
格子状の影として部屋に落とし、
寒々しさを増している。
 一つの桟から次の桟に視線を
動かすような表現を使い、
寒さの感覚を障子の桟で表現したところが
この句の見事なところだ。

 作者の久保田万太郎は、
1889年(明治22年)に浅草に生まれ、
長じて小説家、劇作家、俳人として活躍した。
浅草生まれであることから、
下町に暮らす市井の人々の心情を一貫して描いた。
 1953年、73歳で鯛の刺身を喉に
詰まらせるという不遇により亡くなる。
当人としては余技としていた俳句が、
今ではもっとも知られているかもしれない。

文:黒川俊郎丸亀丸

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