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詩集 まほらの詩(うた)

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自薦の詩を載せています。 よりよい表現を追求しつつ編集します。
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2024年2月の記事一覧

詩 『平和な午後に』

詩 『平和な午後に』

僕達はお互いの肉体を頬張り
少しの痛みと共に笑い合い
空腹を満たしていた

血は丸く膨らみ
ぽとぽとと滴り生温かい
嘆きは たおやかに震えて

僕達は
新鮮な果実のように飛び跳ね
お互いを貪りながら生きていた

例えば、一つの影と一つの影
例えば、二つの影と四本足

例えば…
平和な午後の穏やかな昼下がりに
誰かが坂道を登って行くように…

詩 『届けたい思い』

詩 『届けたい思い』

届けたい思いは
風のように
誰かの心に寄り添う

届かない思いは
枯れ葉のように
埋もれてゆく

一つ又ひとつ
灯されたそれぞれの思い
幾億の瞬きの下に
しあわせに息づき
小鳥のように寄り添う

あなたは私を愛していたの?
誰かが問いかけてくる

季節は移ろい色褪せ
鏡の向こうで鈍く光っていた

あなたは私を愛していたの?
透明な風がそよぎ
小枝を揺らし 私を揺らす

会いたい 会いたいと
小鳥の

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詩 星の夜に

詩 星の夜に

人々の想いは
日暮れの街に
一つ又ひとつと灯りだす
やがて幾億の星の瞬きの下に
肩を寄せ合う
あたたかな暮し

灯りは やがて
一日の終わりの
僅なしあわせを惜しむように
一つ又ひとつと消えてゆく

そうして 
私は子守唄を歌おう
あなたの側で歌った子守唄を
夜の星のように

─ 林 花埜 ─

詩 ムスカリ

詩 ムスカリ

ムスカリよ
ひとり道端に佇み
春のはじまりを告げている
熟した重そうな葡萄色の花房

 

老夫婦の暮らす
斜向かいの一軒家
寂れた庭の
寂れたムスカリの鉢

其処は君の懐かしい故郷
旅の始まりを知る由もないが
今此処に精一杯に生きている

 

遠い日の楽しかった日々
美しい風景を駆け抜けて
君は思い出すことがあるのだろうか?
懐かしい君の故郷を
 

   ─ 林 花埜 ─