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きまぐれ短歌14 2024.05.27

[「おくさま」と呼ばれるのにも飽きてきてワンオクターブ低めに返事]

わたしは独身の中年女性である。
いい歳なので、わたしを知らない人(電話やなにかの営業の方)からは、ほとんど、「おくさま」と呼ばれてしまう。
以前は、心のなかで「奥様じゃない!」と叫びつつ、憮然としながら返事をしていた。

10年以上前のこんなエピソードもある。
とある健康飲料販売の営業の中年男性が試供品を携え、戸別訪問にやってきて、営業トークを繰り広げていた。
その方もわたしのことを「奥様」と呼ぶ。
親しみを込めたいのか、やたら「奥様」を連発してきた。
我慢して聞いていたが、途中でプチ切れてしまった。
──わたし、結婚してないんです。だから奥様じゃないんです。
一息に言い終わったわたしにその方はこう言い放った。
──そんなことどうでもいいじゃん。
そう、捨て台詞を吐いて帰っていってしまった。

──あなたにはどうでもいいのかもしれないけれど、わたしにはどうでもよくないんだよ!

十年前のわたしはそう強く思ったのだけれど、今はもう諦め、そっちがそう呼ぶのならこっちも乗っちゃる!みたいに前向きに対処するようになった。

高校生の頃観たイギリス映画で、白髪の高齢女性、たぶんマギー・スミスが、会話の相手に「Mrs」と呼ばれ、「Mrsじゃないわ!Msと呼びなさい!」と激昂していたのを、なんでそんなに怒って(叱って)いるの?と思っていたのだが…。

今はそのマギー・スミスが眩しくてたまらない。
面倒くささを厭わないプライドの高さが素敵だと思う。

十年前、なぜ、わたしはプチ切れたのか?
自己分析すると、「不全感をまざまざと実感させられる」からかなと思う。
「結婚していない」という傷口に塩をすり込まれるようで痛かった。
社会や世間の「こういうもの」という器に入っていない自分が厭わしい。
同時に妙なプライドもある。
不全感を補うように発達するプライドは自分でも厄介だな、と感じる。

あの映画のマギー・スミスは多分違っていて、独身でいることに確かな誇りを持っていたのだと思う。

真似できないけど、憧れる。

でも「奥様」は飽きるほど慣れたけれど、知らない方に「おかあさん」って呼ばれるのはまだ慣れていない。

ああ、あなたは、あのとき産んだあの子なのね!って、猫の子も産んどらんわ!

追記
短歌推敲しました。
「高め」よりも「低め」の方がインパクトと意外性あるかと思って!
したがって、フィクション短歌です。





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