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一陣の風のように マーシャ戦記③宇宙艦隊出港ス

 ソノ少女一陣ノ風ノヨウニ来タレリ。
その名はマーシャヴェリンスキー少将。
僅か14歳の少女にして陸軍士官学校を飛び級で卒業した軍略の天才である。
かのクマさん星人との地球防衛戦争において月面基地から機動歩兵一個旅団を率いて一陣の風のように来たれり。
僅か500機の機動歩兵を用いてクマさん星人5万機のベアスーツ部隊に急襲、勝利せり。

マーシャ少将は地球防衛戦争勝利の功により上級大将に昇進。地球防衛軍司令官と地球防衛大臣を兼務し地球復興五ヵ年計画を策定実施する。
そして共に戦った民間人であるマサコを地球統一政府初代大統領に任命するが実権を握り事実上地球の支配者になる。
そして地球の工業生産力をフル動員して汎用型宇宙戦艦ニライカナイを続々と建造させる。


 五年後ついに大小286隻からなる大宇宙艦隊を就役させたマーシャは新設された宇宙艦隊司令長官に就任し地球の脅威となる敵性異星人の排除、戦略資源の確保と生存圏拡大のため遥かなる宇宙遠征を実施することを決意する。
宇宙軍は僅か五年前に創設された急造の軍隊であるため兵士の数が足りずマーシャとブリューゲルが考案したAI戦術戦闘プログラムによって徴兵した多くの民間人を即席の兵士に仕立て上げた。
その中には民間人ながら模擬戦で圧倒的な成績を修めたミスターアカイという謎の男がいて、6隻のカツラギ級宇宙空母に収容されている機動猟兵356機全部隊の指揮官に抜擢された。
作戦参謀は機動旅団長時代からの盟友であるハンスブリューゲル中将が務める。
なお地球統一政府大統領は地球市民に圧倒的な人気のあるマサコが選挙で再選し、継続して地球を統治銃後の守りを固めている。
宇宙艦隊の進路は地球防衛軍総司令部での協議の結果、大マゼラン星雲に決まった。この宙域には地球型惑星の存在が確認されている。その惑星の名はコードネームポラリス。
しかしクマさん星人のもらたした情報では敵性異星人ラージノーズグレイの母星もあるという。
彼らが行く手を阻めば戦闘になるかもしれない。
会議では安全な星系への進攻を勧める声も多かったが最後にマーシャはこう言った。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と。


 ジョンFケネディスペースポート。

 地球統一政府主宰で就役した宇宙艦隊の観艦式兼壮行式が執り行われた。
重力制御装置によって単縦陣で空中を遊弋するニライカナイ級宇宙戦艦の威容を複数のカメラが撮影していく。
この後スペースポートからブースターで大気圏外に打ち上げられる予定だ。
式典会場でマーシャの書いた原稿を暗記したマサコがカメラの前で堂々と演説する。
地球環境の悪化、歴史的にみた人類の生存圏拡大の意義、外敵の排除の必要性について熱弁を振るった。今ではすっかり大統領職が板についたようだ。
式典が終わるとマサコは政府要人や宇宙艦隊の提督たちが座っている貴賓席の前に向かった。
そこにはぶかぶかの軍服を着た小柄で赤髪碧眼の美少女が腕を組んで居眠りしていた。
「マーシャ提督、終わりましたよ…」
「……う~ん、マサコさんか。いや~素晴らしい演説だったね~」
「どうせ寝てましたよね?って言うかあなたが書いた原稿じゃありませんか?」
「あ、そうだっけ?あははは。意外と私文才があるようだね。今度小説でも書こうかな」
「また冗談ばっかり言って」
「いいや本当に書きますよ。かつてユリウスカエサルがガリア戦記を著したようにマーシャ戦記をね」
「それは楽しみです。ぜひ読ませてくださいね」
「あなたが最初の読者になることを約束しましょう」
「ありがとう…。本当に征ってしまうんですね」
「うん、地球市民にはまだ公表してない情報だけどね。地球はあと30年ぐらいしか持たないようなんですよ」
「え!本当ですか?びっくりです」
「このままだとフォトンベルトっていう高電圧の粒子の海に32年後に太陽系が突入する計算です。電子レンジに地球が入れられたようになる。太陽は爆発するかもしれない」
「それは困りましたね」
「だから我々は征くしかないのです。移住可能な地球型惑星を見つけるためにね」
「マーシャさん、あなたがいないと寂しくなる。五年前あなたが月から来なければ私たちはみんなクマさん星人にやられていたでしょう。あなたは人類の救世主ですよ」
「うん、なにせ私は神に選ばれた天才美少女マーシャちゃんだもん。…な~んてね。私もあなたと出会えてうれしいですよ。一民間人でありながらよく大統領の重責を務めてくれましたね。今後も地球をよろしく頼みます」
「ええもちろん」
そう言ってふたりは固く握手を交わした。
「万が一敵性異星人が来襲したらマーシャランドで迎撃して下さいね」
マーシャランドとはマーシャが世界各地に作った複合娯楽施設である。だが実は内部に対異星人兵器ふぉれすとどわあふ砲などが隠蔽されてありいざというときに軍事要塞として利用できる。
「はい分かりました」
「それと今土星の輪でクマさん星人の一個艦隊が資源採掘を行っています。いざというとき彼らに救難信号を送れば援軍として駆けつけてくれるでしょう」
「はい」
クマさん星人とは五年前ヴィレ平原で雌雄を決した後講和条約を結び同盟星となった。昨日の敵は今日の友である。
「それから…。ビルくんからの伝言です。今度会ったら五年前に言えなかったことを言うよ…だって」
ビルとマサコは恋人である。大統領補佐官としてマサコのサポートをしていたのだが今度の宇宙遠征艦隊に自ら志願して入った。
彼は宇宙軍少将に任官され旗艦スピッツの艦長になった。
ちなみにマサコの妹であるドワーフのミユもオブザーバーとして旗艦スピッツに帯同している。
「ビル…必ず生きて帰ってきてね」
そう言って涙ぐむマサコ。
「もちろん帰ってきますよ。だけど地球と高速で移動する我々は時間の流れが違う。帰って来たときマサコさんはおばあちゃんになってるかも」
「やだマーシャさんたら」
「ふふふ。冗談です。でもきっとビルくんなら老けたあなたでも愛してくれるでしょう」
「ええええビルは熟女好きですから」
「ではまた」
敬礼のポーズを取るマーシャ。
「御武運を祈っています。マーシャさん」
マサコの目から一筋の涙が溢れ落ちた。

大マゼラン星雲


 Jの型をした発射台から次々と宇宙戦艦が追加ブースターを点火し打ち上げられていく。
やがて大気圏外で集結した大小286隻の艟艨は、旗艦スピッツと6隻のカツラギ級宇宙空母を中心に輪形陣を組むと一路大マゼラン星雲を目指して、遥かなる宇宙へと出撃して征った。
果たしてその眼前にはどんな困難が待ち受けているのであろうか…。
この時マーシャ19歳の春であった…。

【続く】





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