新刊レビュー:イム・スンソン『暗殺コンサル』

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推理作家が実際の殺人にも興じる。そしてそれを上手くやってのける。しばしば見られるプロットだ。あるいは推理作家は追い詰められて殺人という最終手段を取らざるを得なくなる。しかし小説を書くのとは違い、冷静に事を運ぶことはできない。当然上手くも成し遂げられない。これもしばしば見られるプロットだ。上手くやる方とやれない方、どちらがリアルな設定なのだろうと時々考える。

イム・スンソンの『暗殺コンサル』もアマチュアではあるが、推理作家が殺人の実践者となる。

主人公の「僕」は大学時代授業もそっちのけでパソコン通信推理小説同好会で入り浸り、作品を発表していた。

兵役に行き、除隊した「僕」は就職活動に大きな不安を感じることとなる。そんな彼を「会社」がスカウトする。事件が解決される過程より、殺人がいかにして行われるのかに拘ったところが気にいったのだという。

「会社」が「僕」にやってほしい仕事とは指定した登場人物の設定に基づく――当然実在の人物なのだが――、暗殺の台本作りだったのだ。

主人公の担当マネージャーは入社の返事をした当日に顔を合わせたのに、なぜか彼の理想かのような容姿をしている。主人公1人の身元を隠すためだけに実際に社員のいるダミー会社を作ってしまう。そのように「会社」は大きな力を持っているようだが、どこまでのことができるのか判然としない。

そんな「会社」での暗殺コンサルとしての生活がどこか突き放したような回想のような一人称で綴られていく。

「僕」は普通の人間なのだと思う。普通の人間がいくら条件がいいからと言って、暗殺稼業などに従事するかという意見は一理あるが、それなりの葛藤をし、入社を断るほどの勇気や義侠心も持ち合わせないという意味で平凡な人間だ。

本書では殺しの仕事を素人にさせる時は一回こっきりが基本だという話が出てくる。捕まるか、あるいは人を殺した素人がまともではいられないからだとか。計画を立てているだけとはいえ、「僕」にも当然影響が生じる。そんな遍歴がこの小説の読みどころだろう。

今年は韓国ミステリの新刊を4冊読んだのだが、私が1番好みだったのは本書であった。『破果』も趣は大分異なりながら殺し屋の話であったけど、韓国では殺し屋ものって人気ジャンルの1つだったりするのかな。

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