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015.きままに働く職人たち

次に紹介するいくつかのことばは、ある国に出かけた人間が、その国の作業者をみて発したことばです。このことばは、どこの国の人が発したものか、また、なかでいう「作業者」とはどこの国の人をさすのかをあててください。

①「作業者は、日常の糧を得るのに必要な仕事をあまり文句も言わずに果たしている。しかし彼の努力はそこでとまる。・・・必要なものはもつが、余計なものを得ようとは考えない。大きい利益のために疲れ果てるまで苦労しようと思わないし、一つの仕事を早く終えてもう一つの仕事に取りかかろうとは決してしない。」

②「作業者は、言われたことはする、でもそれ以上に仕事をしようとはしない」

③「忙しそうであるが、適度に働く」

これも厳密に国名をあげるのは難しいとして、おおよその見当はつきそうです。

受講者の中には海外工場の勤務経験者もいたりしますので、海外工場に勤務する日本人が、発したことばではないかという想像がつきます。

「言ったのは日本人で、作業者は中国人?」

という答えがだされますが、それはブーです。

「じゃ、作業者はタイ人ですか?」

「ベトナム人?」

「インド人?」

インドネシア、マレーシア、ラオス、バングラデシュ、ミャンマー・・・とASEAN諸国の名前がつぎつぎと出されますが、どれもこたえはいずれも「ブー」。

作業者はともかくとして、言ったのは日本人という点で、疑問の余地がないほど一致しています。問題はどこの国かだ、ということで迷っているようです。自明の理に思える答えが違うと言われて、皆さんは迷いはじめます。

確かに、これらのことばは、海外進出が活発になった1980年以降、海外に派遣されている日本人担当者から、現地の作業者についてよく聞かされたことばです。

そのニュアンスは、嘆くというよりも、「もっとしっかり仕事をすれば仕事も覚えられて力がつくし、会社の業績もよくなり、収入も増えて、暮らしも楽になるのにどうしてしないのだろう」という、自分たちの思いが伝わらないもどかしさを訴えているようにうけとれました。

最近は、こうした現地の人たちの仕事ぶりを理解して、教育の仕組みをうまく作り、彼らにモチベーションを持たせて高い生産性を実現している日系の工場もいくつかでてきています(③「最強の工場をつくる48の工夫」日本能率協会)。

とはいえ、働くことに金銭の対価以上の意味を見つけて、仕事に積極的にとりくむ人たちは、全体から見れば、まだ一握りといっていいでしょう。

確かに、日本人が海外で嘆くことも多いことばですが、でも、引用したことばは、日本人のものではなく、言われた作業者も、それらの国の人たちではありません。いずれも、「ブー」なのです。

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