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006.日本のものづくりの潜在力

これほどまでに、自ら作ることにこだわる民族を、私は寡聞にして知りません。

第2次大戦で、アメリカ軍の圧倒的な物量作戦に屈した私たちは、戦後、日本は加工貿易の国だと教えられてきました。国内に資源がないから、原材料を輸入して、それを巧みな技で加工し、付加価値の高いものにして輸出する、それが資源のない小さな日本の生きる道だ。子供のころからそう教えられ、日本の産業界は、戦後その教えの通りに事業を営んできました。

実は、世界的にみても日本は決して小さな国土面積の国ではないのですが、それはともかくとして、そうした教えは、しばらく前まで問題なく機能してきました。

しかし、ここにきて、加工貿易の国という生きる道が容易ではなくなってきました。1990年ころから家電製品に代表されるように、新興国が安価な労働力をバネに台頭してきた結果、半導体をはじめとして日本が手の内にあると思っていた市場がつぎつぎと奪われ、国内では製造業が立ちいかなくなってきたのです。2010年ころからは、地球温暖化の流れに沿って、電気自動車への傾斜が世界で始まり、石油を基盤にしたエネルギーを使うレシプロエンジンの車の将来性が危惧されています。CVCCエンジンの開発で不可能と思われたマスキー法の厳しい排ガス規制をクリアしたホンダや、モーターと併用したハイブリッド車の開発で環境問題の解決に先鞭をつけたトヨタなど、世界的な開発力で日本経済を押し上げてきた自動車産業の将来に赤信号が灯るようになってきました。

はたして、日本の産業界はグローバルな市場で生き残っていかれるのか、日本のものづくりは大丈夫なのか、危惧する議論が絶えません。

日本には高度なものづくりの技術があり、まだまだ大きな可能性を持っているという楽観論から、いや、日本の技術はガラパゴス化して行き詰っているのでITを駆使した第3次産業化、脱ものづくりを図らなければ将来はないという悲観論まで、さまざまな意見が言われています。はたしてどうなのでしょうか。

ものづくりというのは、長い蓄積の結果行われるものです。イギリスの紡績・繊維、ドイツの機械、スイスの精密工業、イタリアの繊維・服飾産業などの例を見ればそのことはよく分かります。その国の自然や歴史、伝統、文化、地政学、あるいは気候や国民の気質などによって、それぞれの国に独自のものづくりが行われ、その蓄積が花を咲かせて、世界市場でのシェア獲得につながってきます。

そうした歴史を前提にしてはじめて、その国のものづくりを語ることができるのではないかと思います。
では、私たちのものづくりとはどのようなものなのでしょうか。

・対価のためだけでなく、消費者の喜びを糧として、使う人の立場に立ったものづくりを志向する性向
・繊細な仕上がりを求めてより高い技能をめざそうとする姿勢
・仕事そのものの成果に関心を持ち、さらに良くしたいと不断に改良を重ねる継続力
などについてはよく言われますが、もう一つ
・ノーベル賞の自然科学系の受賞者数で、2023年現在は、米国籍で米国在住の南部陽一郎・中村裕二・真鍋淑郎の3人を除いても自然科学系で22名と、欧米諸国以外の国では最多の受賞者を出し、
・2000年以降で見ると、2021年までに、日本はアメリカ96名、イギリス24名に続いて三番目に多い17名を出し、ドイツ、フランス、ロシア、イスラエルを圧倒する科学技術力と創造力をもつ、
ということも、私たちの特徴と言っていいと思います。

もともとノーベル賞は受賞者の国籍を問うていません。なので、ここで受賞者数を国単位で問題にするのは本意ではありませんので、目安としてご覧ください。日本人受賞者としては、アメリカ国籍の南部陽一郎、中村修二を除いています。また、海外ではロシア国籍とイギリス国籍など複数国籍保持者を除いています。

消費者、使い手を思いやる心があり、世界中から高く評価される繊細で高度な技があり、労をいとわぬ勤勉さがあり、なおかつ、科学技術の領域で世界トップをいく創造力を有している国、そんな国がものづくりで将来がないとは、思えません。

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