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松井健「柳宗悦と民藝の現在」吉川弘文館

学習院大学時代に白樺派の気鋭の美術評論家としてゴッホ、セザンヌ、ゴーギャンを初めて的確に紹介した柳宗悦。特に有名なのはウィリアム・ブレイクの神秘主義の研究である。彼はブレイクの中に大乗仏教の菩薩道と通底する普遍性を感じていた。こういう素地の上に「民藝という言葉の創造と発見」が展開される。李朝の白磁壺によって開眼された柳の「民藝の美」に対する感覚は実に直観的なものであったという。柳は学習院時代、師であった西田幾多郎よりも禅学者の権威であり師であった鈴木大拙から思想的な影響を強く受け、感覚的心情的理解を深め、それらを言語化するために「新たな読書」に励んだそうだ。彼の宗教哲学は実に現実肯定的で、魂の救済にも
つながる力をもっていた。柳は軍隊や戦争を生理的に嫌悪し、また朝鮮の知識人との交流も手伝って「朝鮮の友に贈る書」などの植民地政策批判を堂々と行った。それ故周辺には特高課の見張りがついている程であったという。柳の関心はマイノリティに向かい、沖縄県の地元民の民藝発掘に発展する。この本の中で印象的だったのは柳の宗教哲学の根底にあるのは「孤独」であったという点だ。もちろんこれは世間一般の孤独ではなく近代的自我の確立によって生じるものだ。だからこそ、深いのだ。改めて再評価されるべき人だろう。

富山県福光には光徳寺という「民藝運動の隠れたメッカ」がある。ここにいくと柳の残した業績が存分に楽しめる。富山に来てほんとによかった^^

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