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木村洋二「笑いを科学する」新曜社

副題にユーモアサイエンスへの招待とある。関西大学教授である著者が関西大学講義「笑いの総合科学を目指して」において展開している「笑いの統一理論」をベースに人文科学・文学・医学・脳科学・社会学など他領域の泰斗新鋭たちが織りなす論文集だ。

笑いの負荷離脱モデルとは①ズレて(図式の予知)②ハズレて(図式の駆動離脱、連結)③ヌケて(駆動いていた賦活活動出力)④アフレる(余剰化したメモリー量)現象である。「備給の振動」=トランスミッション的なメカニズムといっていい。出力が大きいほど負荷がたまるので、外れたときの方が笑いは大きい。

人類はアル(存在する)もの、プラスの価値の方を向いて思考してきた。しかし、笑いはナイもの、無の世界、空っぽの世界である。しかし、<あふれる無=笑い>が人間の精神を成り立たせているという事実が実際にある。

だからこそ医学やビジネスの現場において笑い・ユーモアが大変な力を発揮するのだ。西洋には聖画や聖像に笑みがないように笑いを俗なものとして排除する節があるが、日本には笑いが文化の深層に存在している。それは仏教との関連が深い。この土壌がある日本から世界に<笑いの科学>を発信しようとした木村教授の主張に感銘した。

残念ながら著者は今はもう亡き人だが、この笑いの科学はずっと継承されていくだろう。

<メモ>
・ニーチェはツァラストウトラを通して「笑い=至高なもの」と語らせている。それは現実の価値を瞬時に無化するものであるからだろう。笑いこそ人類再生の鍵 (ニヒリズムによる無価値化からの価値創出)。

・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が見出した日本人の微笑。その中には思いやりと謙譲の徳が込められている。この微笑で思いだされるのは『弥勒菩薩半跏思惟像』である。

・禅宗においては寒山と拾得のように「笑いの引力」を貴重なものとする。円空や木喰が彫った仏像もみんな笑っている。こんなにも豊かに笑う聖像をつくった民族は日本民族しかいない。

・ギャグには教養がいらないが、ユーモアには教養がいる。

・ユーモアのある人材は自由な発想と斬新なアイデアを生み出せる。

・ユーモアは魂の武器である。

・ユーモアは心から心へ伝える具体的な愛の表現だ。

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