【門外不出】＃１ アル中でも執筆依頼が途切れない、ライターの仕事術

約30年、細々とライター業を続けてきたアル中の私だが、数年間の暗黒期を除けば、仕事に枯渇したという経験があまりない。依頼された仕事のギャラの半分近くを酒に費やしているのに、なぜやっていけるのだろうか。もちろん酒以外の支出が少ないというのは大きいが。先月のカクヤスへの支払いは、8万円超え。あああ、家賃とたいして変らない……。先月の原稿料は30万円程度だ。30万から、カクヤスが8万。家賃が10万。……残金12万で私はどうにかしているという話ですね、携帯電話代も2万円ですし。どうやって生きていられるのか。間違いなくギリギリの生活だ。

実際、私の暮らしをサポートしてくれているのは編集者だと思っている。基本的に一度仕事を依頼してくれた編集者は、二度、三度と仕事を依頼してくれる。ただし、私が朝から寝るまでお酒を飲んでいるので、電話がかかってくることは少なく、基本的にはメールで仕事の依頼が舞い込んでくる。情けないことに、電話だと依頼された内容も私は忘れてしまうからだ。
　
ただし、依頼が入ると、まず私は取材先をとにかく調べる。私の最大の趣味が酒だとしたら、2番目の趣味は情報収集なのだ。例えば、取材相手が医師だった場合は、その方の基本情報はもちろん、出身地ではどんなグルメが愛されているのか、父母兄弟までネットで調べる。調べきれない情報は「ちょっとうかがいたいのですが～」と、シレっと電話をかけて聞いている。取材相手に「よくそんなことまでご存知ですね！」と言われたなら、しめたもの。あとはどんなに口が固い、気難しい爺さんもスラスラと聞いていないことまで話してくれる。たいがい「これはオフレコね」と言われるが。

「他人の懐に入る」。

これが、取材時にもっとも重要だと思う。懐に入るための情報収集だ。しかし、時間が足りず情報収集が甘くなることがある。そんな時は布団の中で情報収集をする。アルコールで頭が麻痺していない時は、どちらにしろ深く眠れないものだ。うつらうつらと寝た時に思いついたアイデアをすぐ書き留められるように、取材ノートは枕元にキープしている。

それから、ライターである以上、編集者から構成を考えろと指示されることもある。ライティングだけにとどまらず、構成も校正も、なんなら校閲までできるライターは、ある意味最強かもしれない。

まず、構成から考えてみよう。テーマ、ターゲット、悩みがあるのなら、構成を考えるのは結構、簡単。例えば、テーマが「介護」、ターゲットが「介護施設に入れたい家族」、悩みが「要介護の家族が介護施設への入居を嫌がる」であれば、要介護者と家族に向けてどんなコンテンツをつくれば良いかが見えてくる。読むのは家族なのだから、具体的な金額、家族と要介護者それぞれの気持ち、施設に入れるメリット・デメリット、どのようなタイプの施設があるのか？を、厚生労働省などの公なデータとともに説明すればいい。この時、「～だと思います」などの信憑性に欠けるデータはNGだ。エビデンスは公のデータから引っ張ってくる。これだけで信憑性が5割増しになる。あとは起承転結を考えるだけだし、途中に身近な人のエピソードを入れても良い。

また、「読ませる」文章にしたいのなら、過去の偉大なる作詞家や小説家を真似て、結論から書くのがおすすめだ。今となっては懐かしいmixiの日記をかつて私は毎日書いていた。とある日の日記タイトルは「鳩」。日記の出だしは「鳩が家に入ってきた」だった。この日記は閲覧数が多かった記憶がある。また、現在、別の場所でアル中についても気まぐれにブログを書いているが、やはり「救急車で運ばれた」などのタイトルは引きが強い。今後を生きる表現者たちは、タイトルと1行目こそが勝負だと思っていただきたい。

そうして原稿を書く体裁を整えたなら、今度は営業だ。どんなに自信がある文章を書いても、誰の目にも止まらなかったら1円のお金にもならない。ちなみに私は、一応生きていくだけのお金だけは稼いではいるが、よりよい求人情報を見つけ出し、毎日のように応募している。年齢もあり8割は書類選考の段階でお見送りになるものの、2割は好意的な返事がくる。

なお、多くの同業者に「やたらと履歴書を書くこと」をおすすめしたい。この企業にはどんな人材が求められるのか、それを頭の中で整理して、女優になって志望動機を生み出すのだ。仕事なんて受かったモノ勝ちなんだから、そこまで演じきれば良い。一見、無駄に思えるこの作業は、原稿を書くのにとても役立つと思っている。

最後に大切なのが納期だ。納期はもちろん守らないといけないし、それが社会人としての当たり前のルールだ。理想は、締め切りの3日前には原稿を提出すること。だが、これがなかなか難しい。結局、編集者や読者から選ばれ、仕事の「おかわり」がくるライターというのは、どこか不安定だっとしてもやることはきっちりやっている人だと思う。

長くなったので、その２へ続く。