【小説】 うちのにゃんこ

 頑張る、って、なんだろう。
頑張ってるって、どういう状態をいうのか。
頑張ってる人って、どういう状態の人?

 通常人が嫌がることを行っている人?
勉強している人?
仕事している人?

 頑なに張ると書いて、頑張る。
何を張っているのか。
心か。
体か。

 わたしは自分が今頑張っているのかどうかがわからなかった。
学生のときには勉強中に思っていたし、マラソンの時は苦しい中で走り続けることをいうのかと考えたりもしたけれど、どの程度の苦しみの中でそれを続ければ頑張っていることになるのかはわからなかった。
「頑張れ」と声をかけられる。
「頑張ったね」と言う。
お互いに。
それが普通だったから、普通に合わせた。
わたしの考え方が、普通面倒くさがられる分類とわかっていたから、周りをうかがって、同じような言葉を、思考を止めて口にした。

 考えながら喋るということが出来ない。
できないけど、できるだけポジティブ変換して口から出す。
もう、普通じゃなくても、自分で自分の位置を選べるからいいのだ。
どうせ口から出すのなら、明るい声と、明るい言葉の方がいい。
お互いに気分がいい。
あとからどんなにネガティブになろうと、外ではそれが、わたしなのだ。

 本当の自分ってなんだろう。
外と中。
わたしはきっぱりと分かれているし、分けているし、そこが混ざるのがものすごく心地悪い。
けれど、どちらも、わたしだと思う。

 にゃんこは、わたしの内側にだけ存在する。
外で会うことはないし、彼の外の話も聞いたことがない。
彼はわたしの知る彼がわたしにとっての全てで、それ以上でもそれ以下でもない。

 「おかえり」
彼は部屋の中のいつもの位置。
わたしの方に目線を向け、顔を向け、そのままふわりと笑む。
立ち上がることも、近寄ってくることもない。
わたしが近づいてはじめて、腕を広げる。
ふわりと背中にまわった腕は、見た目にそぐわずしっかりと男のものだ。
実は体格もそれなりにある。
天使の見た目に騙されて、いざ包まれると少しどきりとする。
それもまた、心地良い。

 内側は、わたしだけでいい。
わたしのもので構成された、わたしだけの空間。
外を連想させるものなどいらない。
気持ち悪いと吐き捨てて、玄関先で外側に纏うものを脱がせ、風呂場に突っ込んだ初日が最初で最後だ。
もう彼はわたしの内側で、一度内側になったのならば、ここから出ることは許さない。
彼はふわりと笑んで、「わかった」と一言。
それ以来、彼はわたしの知る限り、わたしの内側であり続けている。


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