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詩「ここに産まれてきたならば」


「足から根が生えて ここからは逃げられない。そのくせ 俺には翼が無い。」
電車の車窓から見えていた太陽は雲に隠れた
若者の悲痛な叫びは遠くで微かに聴こえるサイレンの音によく似ている
非常事態だと分かっているけど
私には手が届かない
関与できない

彼等が肩を落とす度
空気はか細く震える
吊り革を持っている手が揺れに合わせて
哀しく踊る
ほんの少しの温もりを分けてあげられない代わりに
今日も勝手に祈るね
名前も知らないあなたに

美しい水の惑星に私達は産まれてきたけど
地球という星を この目に直に見る事は出来ない
視覚から脳へとチューニング不可能
それが私達の生への実感を薄くさせる
同類意識を失くさせる
家族や恋人以外と
容易には一つになれない

自分の人生を根底から支えているのは
自分自身の底力だ
今は若いから薄く感じているかもしれないけど
年を重ねると年輪の様に増えていくから…
泥がついた手で気安く触らせるな
自分じゃないものに縋るな
君を支えているのは君だ

みな人類の歴史を語りたがる
そこに夢を見るのは良いけど
ここに産まれてきたならば
歴史を語るな
己を語れ
自分自身の声で
正解も不正解も
成功も失敗もない
あるのは君の活き活きとした存在だけで

君の人生を一番知っているのは君だけだろ?
それならば胸を張れ

私の前を通り過ぎて行く
名前も知らないあなたへ

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