かくれて本を読む子どもたち~クリス・コルファー
前の記事では、『魔法ものがたり』(日本語版上巻・既刊。下巻は2022年春発売予定。小学校高学年以上。)がLGBTQの先駆者に捧げられた本であることをご紹介しました。
俳優また作家として成功されたクリス・コルファーさんですが、今もなお、ご自身も差別と闘っていらっしゃいます。
その一つが、著書の出版差し止めです。
発刊禁止の国々
「キッズプレス」の子どもリポーターへのコメントです。
クリス:最近でも、いくつかの国やさまざまな民族では、いまだに出版の禁止が行われているんだ。実際、僕の本が発刊禁止になっている国だって、結構あるんだよ。
なぜかというと、僕の本には強い女性の登場人物が大勢(おおぜい)出てくるけど、多くの国では「女性が強くなって、リーダーになれる」という考えは好まれないんだ。だから、そういう本は禁止されるし、僕の本にはLGBTの登場人物も出てくるから、それを違法だとして禁止にする地域もあるんだ。
(つづく)
LGBTQだけでなく、強い女性がいるというだけで、発刊が禁止される国があるのですね。
▼ たしかに、『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』でも、女性たちが大活躍しています。
クリス:でも、それって、なんだか馬鹿みたいだと思う。
だって、国が発刊を禁止するたびに多少なりとも批評されるから、自動的に有名になっちゃうんだよね。
本の内容に関心を持たせたくないんだったら、逆に公開しておけばいいのに。
こういうことを知っておくのは、大事なことなんだよ。
僕たちが、他の多くの地域みたいに「知ることを禁止」されない国(アメリカ)に住んでいるのは、とても幸運なことなんだ。
(つづく)
「かくれて読んでくれている子どもたち」
クリス:そして、だからこそ、僕は、本当にこの物語を書きたかったんだ。
僕の本をかくれて読んでくれている子どもたちが、世界中にたくさんいるのを知っているからね。
2019.11.12 キッズプレスのインタビューより
https://youtu.be/XehXXyXVsGQ
児童書なのに、堂々と読めない環境の子が大勢いるなんて、胸の痛くなるような話です。
そういう差別的な国の子どもたちこそ、クリスさんの本を読んで励みにして、いつか未来を変えていただきたいものです。
『LGBT への迫害状況・国別レポート2020』
LGBTQに対して差別的な国とは、実際にはどのようなところなのでしょうか。
2020年に「難民研究フォーラム」が「LGBT への迫害状況・国別レポート」をまとめています。
私は、「難民の研究機関が?」と少し不思議に思ったのですが、このレポートの前文には、
世界 70 以上の国や地域が、憲法、国内法または地域法により
・同性愛行為や性別に適さない服装
・LGBTの権利を訴える活動や言論
などを取り締まりの対象とし、「犯罪化(Criminalization)」している。
(2019年末「国際レズビアン・ゲイ協会」調べ)
と記されています。
LGBTQまたはその擁護者であることが「犯罪」とされているために、亡命せざるを得ない人々が大勢いるのです。
▼ こちらの本文(日本語)では、各国の詳細な現状が報告されていますが、どの国のどの事例にも、私は驚かずにはいられませんでした。
あまりにも痛ましい出来事が、ひと昔前ではなく、2019年などここ最近に起きているのです。
177ページものボリュームが、それだけ多くの迫害が行われていることを物語っています。
しかも、「本調査の対象は、LGBT または同性愛行為を犯罪としている国に限定されているため、それらを犯罪としていない国は調査対象になっていない。」とのことで、これが氷山の一角であることがうかがえます。
一番必要な人の手へ
別のインタビューからです。
ー 私たちは、未だに書籍を発刊禁止にするような…そして、書いた言葉そのものも攻撃にさらされるような世界に生きていますね。
小説家として、検閲と戦うことを、ご自分の使命だと考えていらっしゃいますか?
クリス:もちろんです。一番必要とする人たちの手に著書を届けるには、信じられないくらい戦略が要るのです。LGBTQをテーマにしている場合は、特にそうです。
(つづく)
何とかしてその子たちの手に著書を届けようと、努力されているのですね。
クリス:そのため、多くの作家が、登場人物の信条や性自認について、ページ上には書かずに発刊後に明かし、叩かれています。
ですが、僕はそうした批判には必ずしも賛成しません。LGBTQの登場人物やLGBTQへの言及があれば、何であろうと、簡単に発刊禁止にする地域もあるからです。
ただし、こうした地域へ、秘密裡に表現を伝える方法はあります。『魔法ものがたり』の登場人物のカンサス・ヘイフィールドが狙っていたのがそれです。彼の持つ信条は、処女作においては決して直接的に扱われてはいませんでしたが、手がかりを十分に織り交ぜてあったので、圧政的な国でカミングアウトできない少年が彼と関わり、自分はひとりぼっちではないと知ることができたのです。
一人の少年が「自分はひとりぼっちではないと知る」ために、これだけのことが必要だなんて、差別の理不尽さに改めて憤りを感じます。
「どうぞ、僕を出版差し止めに」
クリス:しかし、僕は、検閲というものが、現代において生き残っていけるとは考えていませんね。
事実、政府が検閲を受けたら、自ら墓穴を掘ることになると思いますよ。あっという間に、真実を知りたい大衆が押し寄せ、どうしようもなくなることでしょう。
そういうわけで、ぜひ僕を、出版差し止めにしてください。
ー クリス・コルファー 2019.10.15 Advocate.com インタビューより
差別的な検閲になど屈しない、という決意が伝わってきますね。それも、そこで苦しんでいる子どもたちを思えばこそなのでしょう。
一人でも多くの子が、クリスさんの本によって癒され、自信を持ち、勇気を得られることを願っています。
ー We’re living in a world when books are still being banned — and the written word itself is under attack. As a novelist, do you see it as your duty to fight against censorship?
Absolutely. You have to be incredibly strategic to get your book into the hands of the people who need it the most. Especially when your books have LGBTQ themes.
So many authors get criticized when they reveal a character’s orientation or gender identity after publication instead of on the page. But I don’t always agree with those critics. In some places books are instantly banned if they have any LGBTQ characters or LGBTQ references whatsoever.
But there are ways of getting representation into those territories that goes under the radar. That’s the purpose of the character Xanthous Hayfield in A Tale of Magic. His orientation is never directly addressed in the first book, but there are enough clues so a closeted little boy living in an oppressive country can relate to him and know he’s not alone.
But I don’t think censorship can survive the modern age. In fact, I think governments shoot themselves in the foot when they apply censorship. It instantly triggers a wave of curiosity and publicity you can’t buy.
So please, by all means, ban me.
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