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差別と闘った先人への感謝~クリス・コルファー

『魔法ものがたり』の献辞

著書『魔法ものがたり』(日本語版上巻・既刊。2022年春、下巻発売予定)には、献辞としてこう記されています。

自分を受け入れてくれない時代に、
それでも自分らしく生きた勇敢な人びとに。
今のぼくがあるのは、あなたたちのおかげだ。

ー クリス・コルファー ( 田内志文:訳 平凡社刊)

To all the brave people who dared to be themselves during a time that didn't
accept them.
Thanks to you, I get to be me. 

この献辞についての、ご本人のコメントをご紹介します。


名もなきLGBTQの先駆者

ー あなたは、よりどころとされる方々…おそらくはLGBTQの先駆者の方々に、この小説を捧げていらっしゃいますよね。
この献辞を書かれたときには、どなたか特定の人物を思い浮かべていらっしゃったのですか?

クリス:誰もが知っている名前を挙げるとしたら100人ほどになりますが、実際には、名もない人々のことなのです。
このことについて考えると、とても気持ちがたかぶります。
(つづく)

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その勇気や誠実さに対して、決して報われることのなかった方々が何百万人といらっしゃいます。
しかし、その方々が立つべきときに立ち上がって下さったおかげで、僕は自分の好きなことができ、愛する人と一緒にいられるのです。
そのときにどれほど勇気が必要だったか、僕には、想像することもできません。

今現在でさえ、世界の他の地域では、このウェブサイトを隠れて読み、生きる権利を求めて闘うための励みを探している方々がいらっしゃるのです。
その方のいらっしゃる地域がどこであれ、この先の人々から感謝されることを感じていただけたらと思います。

ー クリス・コルファー 2019.10.15  Advocate.com インタビューより

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ー You dedicate your novel to those whose shoulders you stand on — presumably LGBTQ pioneers. Did you have any particular figures in mind when making this dedication?

There are a hundred names I could list that everyone knows, but it’s really about the people who are unknown. I get pretty emotional when I think about it.
There are millions of people who never got to reap the benefits of their courage and honesty, but because they stood up when they did, I get to do what I love and be with who I love. I can’t imagine the bravery it took.
Even right now, there are people in other parts of the world reading this website in secret, looking for encouragement as they fight for their right to exist.
Wherever they are, I hope they can feel the future’s gratitude. 

ここで、数多くの名もない先人の勇気に感謝されると共に、現在でさえ、LGBTQ支援のサイトを隠れて読まなくてはならない方々がいらっしゃる事実を明かされています。

 

「存在する」だけで殺される

クリス:ご存知の通り、僕はあまりにも幸運です。なぜなら、この国に暮らし、今世紀を生きているからです。 

どこか…もしも、どこか他の場所に生まれていたら…
たとえ現代でも、他のどこかに生まれていたら、僕は、屋根から放り投げられるか、死ぬまで石で殴られていたかもしれません。
ただ、「 存在する」たったそれだけのためにです。

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でも、ここで暮らし、今の時代に生きているので、受賞歴のある俳優や国際的なベストセラー作家になれたし、その特権も沢山持っています。

これも、何千の…何千もの、とてもとても勇敢な男性や女性が僕より前にいて、多大な犠牲を払って下さったおかげなのです。
ですので、この本をその方々に捧げます。

ー クリス・コルファー 2019.10 TV番組「 ザ・トゥナイト・ショー」より

You know, I'm so fortunate, because I live in this country in this century.
Where, if I had been born somewhere else, even now, if l'd been born somewhere else, I could be tossed off a roof or stoned to death simply for '' existing,"
But because I live here and I live now, I get to be an award-winning actor, I get to be an international best-selling author, and I have a lot of those privileges, because of thousands and thousands of very, very brave men
and women who came before me and sacrificed a lot.
So, yeah, this book is for them.

前の時代、あるいは場所によっては現在ですら、いかに非人道的な差別が行われているかが伝わるコメントです。

ここで、クリスさんは「受賞歴のある俳優や、国際的なベストセラー作家になれた」とおっしゃっていますが、
俳優としては、ゴールデングローブ賞をはじめ、いくつもの栄誉に輝き、作家としても、ニューヨークタイムズ社「全米ベストセラー」の常連として、何度も何週間も1位になっています。

さらに、米タイム誌「世界に最も影響力のある100人(2011年)」にも選ばれ、表紙を飾りました。

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しかし、この栄誉については、このように述べられています。


「タイム誌の100人」に選ばれたが

ー 2011年に、あなたはTIME 100、つまり、タイム誌が毎年「世界に最も影響力のある100人」を選ぶわけですが、その一人になられましたね。どんなお気持ちでしたか?

クリス:あれは、信じられない栄誉でしたね。以来、約10年になりますが、僕にはいまだに、そのことが理解できていません。

けれども、タイム誌は決して、僕が人に「良い影響」を与えるとは明言しませんでした。そこは、つねに意見が分かれるところなのでしょう。

ー クリス・コルファー 2020.10.10 The Daily Telegraph.com

▼「TIME 100」

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2011年、つまり今から10年前の話ですので、その後LGBTQに対する理解は進んできたとは思うのですが、昨年秋にもこうおっしゃっているということは、まだまだだということなのでしょう。


子どもたちが自分らしくいられるように

最後に、断片的になりますが、インタビューよりご本人の発言部分を抜粋させていただきます。

クリス:「この新刊(『魔法ものがたり』)は自分にとって、執筆するのが最も大変な作品でした、なぜなら、抑圧や偏見、性差別といったテーマの本質が複雑だからです。」

「(この作品を書いたのは)子どもたちが自分らしくいられるようにと、平等のために戦ってきたすべての人(のためです。)」

「今日の現実の中を何とか切り抜けようと、今まさに努力している若者たちに対して、励まし、やる気を起こさせ、鼓舞するような本を書くのが、僕のゴールなのです。」

「僕の本には、多くの血と汗と涙が注がれています。皆さんに、楽しんでいただければ幸いです。」 

ー クリス・コルファー 2019.10.19  Parade.com インタビューより

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(原文)
The accomplished 29-year-old said that the new book was the most difficult one for him to write because of the sophisticated nature of the topics of oppression, prejudice and sexism.

He said that he wrote the book for “everyone who has fought for equality so that children can be themselves,” no matter who they are.

“I made it my goal to write a book that encourages, motivates and inspires young people who are just trying to cope with reality today,”

“I put a lot of blood sweat, and tears into my book. I hope that people enjoy it.”  

「子どもたちが自分らしくいられるように」との先人の思いを継ぎ、執筆を中心に活動されているクリスさん。
次回は、その闘いの一端にふれてみたいと思います。





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