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カレーの隠し味

18で上京したその冬、恋をしていました。
セカンドですが。
なので、お互いの家に行ってもかいがいしく料理を作ってあげたり、作ってもらったりしたことはない。
私自身セカンドを務めるのは初めてで、好きだけどどうしようもない感じで日々フワフワしていた。

カレーの話をしましょう。

その頃の私はまだまだ甘党で、カレーはお家派。
小林カツ代さんの影響でキーマにハマり続け、
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独自の進化を遂げたカレーの内容物は主に
①合いびき肉 ②スライスした玉ねぎ ③ニンジンをすりおろして炊き込んだ色だけターメリックライス ④ルーは甘口と中辛のブレンド
という、貧乏学生にありがたい感じで構成されていました。

話が戻りますがフワフワの恋の相手は年上の芸術家で、長年付き合った恋人(ファーストの方)の間で失われたときめきやリビドーを私にぶつけまくっていた。
夜中に商店街を一緒に走ったり、バイクでどこまでも遠くに行ったり、ベッドから出ないで一日中いちゃいちゃしたり。それはそれで楽しかった。
でもいつからか私が、もっと親密になりたい。この人の核に触れてみたいと願うようになってから、私はこの人にとってつまらない人間になっていったのだと思う。
会話もだんだん少なくなっていった。

ある日「カレーに隠し味って入れる?」と聞くと

「ネクターピーチをちょっとだけ入れるよ」との答えが。

「ネクターピーチ!?合うの?」

「うん。ほんのちょっとだよ。初恋の味になるんだよね。あと葉の物入れたりするな。キャベツとか」

「へ~ぇ…」

たしかにバーモントカレーの箱にはリンゴと蜂蜜の画が描いてある。
辛くなりすぎたカレーに、私自身もチーズを入れたり牛乳を入れたりするなぁ…とかなんとか思いながら家路につく。
寒空の下、通り過ぎる自販機の中になんとなくネクターピーチの姿を探してしまう。


しばらく飲んでないな、あれ。

結構好きだったんだけどな。

子供っぽいのか、甘すぎるのか?


一人暮らしのアパートまでたどり着くと、最寄りの自販機に見つけた「それ」
記憶に反して硬いスチール缶が、手にずしりと来る。
キンキンに冷えた真っ赤な缶に、肉感的な桃のイラスト。
重いプルタブを起こして一口飲むと、甘酸っぱい水っぽい液体が流れ込んでくる。

(あれ、もっと甘ったるくてドロドロした感じだと思ってた)

しかし着実に私のお腹を冷やしてくる「それ」は、12月の夜に外で飲むものではなかった。

持って帰ってカレーに入れた。

あんまりいい隠し味とは言えなかった。

キャベツはたまに、カレーに入れている。

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