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触媒な彼

友達と話していても思うことなのだけど、まあまあ長くつきあっていて、そこから出ないと…というとき、別れるための触媒のような人が現れると思う。Partnerとはできないことも、ほかの人となら、こんな可能性もあるんだよ、と見せてくれる。
その人とつきあうことはないけれど(もれなく振られる)、そうして私たちは別れ、しばらくすると、また合う人を見つける。今回はそんな人の話。


インサイド・ヘッド

この話を思い出したのは、Inside Out 2を見に行くことにしたからである。

Inside Outは当時のboyfriendと見た。Endroll最後にいろんな人の頭の中が映って、男の子の頭の中が「GIRRRRRRRLLLLLLLL」となっていておもしろくて、お互いに笑ったことを覚えている。
「この映画、Pixarのアニメだけど、全然子供向けじゃないな」
いわゆる普通のデートはあまりしていなかった私たちにとって、映画に2人で行くというのは珍しかった。ほかに映画に行ったのは、彼を含めたgroupでGodzillaを見に行ったこと。それだけである。

彼氏はこういう時のために

映画に行ったのは、私たちのつきあいも終わりが見えてきたころだった。Semesterが終わってしまい、classmateだったこのboyfriendとは、わざわざ会おうとしないと会えない状態になった。
そんな中、Inside Out見たいんだけど一緒にどう?と誘ったところ、彼もちょうど見たいと思っていたらしく(映画好きだった)、一緒に行くことになった。

ところが、当日、である。
「今日行くって約束したのに、連絡が来ない」
そう言って私は自分の部屋で困りながら、housemateに連絡をしていた。このhousemateはすぐに私の部屋まで来てくれ、私は彼の前で泣いていた。
人前で泣くのはめずらしい。
この彼の部屋にも前に行ったことがあった。Labも見せてくれたことがあった。出会ってまだ数か月だけれど、なんだか急激に仲良くなっていた。

「彼氏というのは、こういう時のためにいるんだよ」
そう言いながら、この彼は涙を拭いてくれ、textingについてアドバイスをくれた。これに従って、"いいよいいよ、連絡くれなかったんだし、また今度で"というやりとりをboyfriendとしていたら、"行くって行ったんだから行くよ"ということで来た。そうして部屋に来て、まあなんとやらのあとに、Uberに乗ってInside Outを見に行った。

「寝たのか?彼を操るためには、寝ちゃいけないって言ってるじゃないか」
帰ってくると、このhousemateに聞かれた。
「その作戦は、自分も苦しめることになるから、良くないわ」
と、当時のtherapistに言われたものだ。そのとおりである。


距離を詰める

当時私は40人の寮に住んでいて、夏になり、新しく来た人たちが何人かいた。そのうちのひとりがこの触媒な彼だった。
彼は普段私があまり会うことのない、Friendlyですぐに距離を詰めて来るタイプだった。自信があるのだろう。見た目も、英語も、性格も。座っていれば肩が触れた。ピアノの椅子のとなりに座ってきた。こういう距離の詰められ方に、どうやら私は弱いらしい。うちの家族にスキンシップは皆無だった。触れられた覚えがない。

この家には、調律はずれているもののピアノがあって、私はわりと弾いていた。彼はショパンのノクターンとYirumaのChaconneをよく練習していた。ある日、私がノクターンをさらっと弾いたら―私は何年も前に発表会で弾いたからして、そらで弾けるわけだが、
「まじか、今まで俺、自分の恥をさらしていたわけか」
と驚いていた。そんなことはないのだよ、と返した。

男は犬と同じ

で、この彼は、特に恋愛について、まあいろんなことを教えてくれた。
「男に教えるには、犬に教えるみたいに、簡単にやらないとだめなんだ」
「もっと早くこういうことを知っていれば、男たちを躍らせて楽しめたのに」
「特に君は、メイクなんていらないんだよ」
「好きじゃなかったら、こうやって仲良くはしないよ。だけど君はもうすぐ引っ越すじゃないか」
元カノに会いに毎日のように遠くから通っていた彼も、今は勉強のため、誰も探していないそうだ。

私の友達が来ていて、座って待っていたところに入って来て、話し込んでいたこともあった。
「頼むから、私の友達を好きにならないでくれ。前にそういうことがあって、もううんざりなのだ」
「わかったよ。でも…楽しみが減るじゃないか!笑」

なんだか急激に仲良くなったわけだが、なんとなく距離を詰めづらい感じがあったのも事実だった。楽観的な私に対して、そんなこと言ってどうする、と言ってきたり、「これだから効率が悪い。Engineerは効率重視だから、絶対にそんなことはしない」なんて言ってきてむかついたりした。私は君に怒っているのだ、と伝えたこともあった。Again, 私がこう言うのは、珍しい。

とはいえ、やっぱり仲は良かった。
"元彼と別れることにしたのだが、これからはどういう人を探せばいいと思う?"とほかのhousemateに聞いたところ、
「ああいうの(触媒)と、けんかしながらやっていくのも一つだと思う。あとはHazeのことが大好きな人か。年下のイメージは沸かないけど、相性で合うものはあるだろうしね」
そう言われるような人だった。ちなみにこう言ってくれたこの人とも一悶着あったのだが、書くことはないかもしれない。

終わりにしよう

私はといえば、5月に卒業し、夏の終わりに引っ越す、その前にboyfriendと別れるつもりでいた。しばらく会わずに連絡を取らないことが続き、気持ち的にも離れてきたころ、私は別れることを決めて呼び出した。

このboyfriendから、もうつきあうのはやめよう、と言われたことは何度もあった。そのたびに引き留めたのだが、これが何度も続くと、どうせ戻ってくるんだよな…とわかり、あっさり受け入れるようになった。その後まもなく、やはり彼は戻ってくる…を繰り返した。On and offというやつである。
だけど、いったん私が別れると決めたら、それは完全に終わりだ。
「別れてから女性の立ち直りが早いのは、別れる前から始まっているからなんだね」と、↑のhousemateは言っていた。

"LinkedIn profileの写真を撮ってほしい"とboyfriendに伝え、department buildingの前で撮ってもらった(ちゃっかりな私)。そうして私たちは、つきあい始める前、彼が"君のことは好きなのだが、好きだからこそ、友達でいるしかない理由がある"と私に伝えたのと同じ場所へ向かった。
「いつか終わるってわかってたよね。別れましょう」
「理由は?」
「Opportunity cost. lol」
「ってことは、誰かいるのか?」
「いないけど?」
「Opportunity costって、そういう意味だろ」
経済学を勉強した私たちは、そんなやり取りをした。私は彼が部屋に置いていったコンドームを返した。
「君はスカートが短すぎる」
「これはスカートじゃなくてキュロットだよ」
「知ってる」
そう言った後、彼は自転車で去って行った。
私は深呼吸をした。その後の元彼との話はこちら。


別れたあとは、触媒な彼に伝えた。そうか、とさして興味もなさそうに彼は言った。そのあたりから距離感が微妙になったのだが、そんな違和感がある状態で突っ走ることしか知らず、自分の気持ちよりも流れに従うべきだと思っていた私は、今度映画にでも行かないか?と誘った。その場ではもちろんYesと言われたわけだが(ここで断る人は、どうやらいないらしい)、そのあともちろん彼は距離を取った。ピアノのある部屋にも来なくなり、心なしかほかのhousematesとも距離を取っていた。

当時、私は自分がAro-Aceであることは知らなかった。考えてみれば当然恋ではないわけだが、なんか近くにいて、好きでいてくれそうないいやつがいるから、どうにかなる流れなのでは?と思った、それだけだ。
この人は完全に野良猫というやつである。

違ったんだな…とは思ったわけだが、おかげで私は元彼とすんなり別れられたわけで、感謝もあった。それからしばらくして、私が引っ越す直前には、元気で、と言ってくれてHugをした。

数年後

そうして、そんなことも忘れて、何年も経ったころ。カメラが得意な友達に素敵な写真を撮ってもらいupしたところ、この彼から久々にmessageが来た。
現在の仕事やなんやらのやりとりをしたあと、私たちが当時住んでいた家が取り壊されるらしい、と彼から聞き、当時のhouse managerであり、今でもつながっている人に連絡を取った。取り壊されるのは事実だった。

「僕の国に遊びにおいでよ」
「それなら写真を撮ってくれた友達も連れて行こうかしら」
と言ったところ、なんだか感触が悪くなり、それっきりだ。

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