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短編シナリオ『#10 聞き捨てならないって』

翔太「あー、また落ちた」
卓也「資格の勉強、するんじゃなかったのかよ」

卓也、キッチンから麦茶を持ってくる。

一人暮らしの卓也の家。

翔太は卓也のテレビゲームを借りて集中している。

翔太「今人生を学んでんの」
卓也「人生?」

翔太、リスタートを押す。

ゲームが始まり、主人公がスタート位置に来た弾丸を避ける。

卓也「あっぶねえ」
翔太「これはさっき引っかかり終わったから大丈夫」

主人公が高くジャンプするとブロックが現れて装備を付ける。

翔太「人生にはな、困難がたくさん待ち受けてるわけ。それを一度経験しただけで、失敗しただけでもうやめたって言うのは違う。その失敗は一度やったから、次はクリア出来る。こうして前に進むことが出来るんだな。よっ」

主人公が敵を避けて先に進む。

卓也「人生といえばさ」
翔太「お前そこから話題作れるんだ、すご」
卓也「俺、人生で心残りがあるんだよ」
翔太「24年しか生きてないのに心残り?もう少し心持っておいた方がいいんじゃない、先は長いぞ」


卓也「小学校の時にさ、女の子に告白されたことあって」

翔太「お、いいね」
卓也「俺もちょっと気になってて、その子の教室通る度に覗いたりしてたの」
翔太「他クラスね、いいじゃん」
卓也「教室で帰り支度してたらさ、その子俺のクラスに来て」
翔太「うん、あ、やられた」

翔太、ゲームをリスタートする。

卓也「卓也君のことが好きですって、言ってくれて」
翔太「うん、で?」
卓也「でも俺、断ったんだよ」
翔太「なんで」
卓也「その子、当時から眼鏡掛けてて、幼稚園から眼鏡だったから相当度強いし分厚い眼鏡でさ、他クラスでは若干いじめられてて。俺もいじめられたら嫌だなって、思っちゃって……」
翔太「……まあ、子どもは残酷だからな、小学生のお前にとっては英断だったんじゃないの」
卓也「それから高校まで同じだったんだけど、一度も話さなくてさ、やっぱりあの時俺も好きだって言えば良かったって思ってるんだ」
翔太「ふーん」


卓也「そんなことを一週間前に思い出したんだよ。事務所のテレビ観てて」
翔太「……ああ、休憩室の?」
卓也「そう。彼女がさ、テレビ出てたんだよ」
翔太「へー」

ゲームオーバーの表示が出て、リスタートを押す。

卓也「彼女、有名になってたんだ」
翔太「あ、お前あれだろ。有名人になった彼女観て、あの時付き合ってたら今有名人の恋人でいられたなって思ってんだろ。うわ、お前せこいねー」
卓也「違うよ、そんなんじゃない」
翔太「あ、じゃああれか。今から、俺小学校の時に貴方に告白されたけど、今なら付き合えるかなって聞くやつだ」
卓也「そんなことしない」
翔太「あっそ」

翔太、ゲームに真剣になる。初めて見るボスに驚く。

翔太「やばい、どうしたら良いんだ……」

翔太、テレビに集中してコントローラーを動かす。


卓也「俺が止められてたらって、思って」


翔太「んえ?」

翔太、ゲームに気を取られる。

卓也「彼女、その界隈では有名な結婚詐欺師なんだって」
翔太「え、え?」
卓也「同世代の若手エリート捕まえて結婚ギリギリまで一緒にいて婚姻届出す前に別れたり、もうすぐ死にそうな爺さんと結婚して遺産がっつり貰ったり」
翔太「ちょ、ちょっと待って、俺今ボスが」
卓也「テレビに映ったあの子、めちゃくちゃ綺麗だった。小学校の時、眼鏡の奥にはこんなに素敵な子が待ってたんだと思ったんだ」
翔太「話止められる?ちゃんと聞きた、あ」
卓也「可愛くなってやるって思ったのかなって、俺があの時俺も好きですって言ってたら彼女の未来は変わってかなって、思って」

卓也、泣き出す。

翔太「ちょ、あの、ティッシュ、俺の後ろにあるから、な、あの、ちょっと待って」
卓也「でも過去はもう戻らないって分かってる。だから俺も、前を向こうと思ってさ」

卓也、スマホを操作する。
翔太、焦りながらテレビを見つめる。
卓也、翔太の隣にスマホを置く。

翔太「ごめん、今見れないんだけど、ちょっと待って」
卓也「結婚相談所に入会してさ、俺、来月この子と結婚する」
翔太「え!?」

翔太、卓也のスマホに目を向ける。

美人と幸せそうな顔をする卓也が写っている。
テレビからゲームオーバーの音が流れる。

翔太、テレビに目を向ける。

翔太「あっ、あ……」

翔太、卓也を見る。
卓也、幸せそうな顔。

翔太「……お前の方が適任だわ」

翔太、卓也にコントローラーを渡す。


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