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短編シナリオ『#5 ギャップ萌え』

15時。
社内の休憩室にはカップ式自動販売機が置いてあり、コーヒーの他にも様々な飲料が取り揃えてある。

目の前に立っているのは萌子。何を買おうか悩んでいる。
卓也、休憩室に入って来る。

卓也「お疲れ」
萌子「お疲れ様です」

卓也は萌子の隣に立つ。
萌子、卓也の結婚指輪を見つめる。

卓也「何飲むの」
萌子「悩んでるんで、先どうぞ」
卓也「いいよ後で。休憩入ったばっかだから」
萌子「いつも何飲んでるんですか?」
卓也「いちごオレ」

萌子、卓也の方を向く。

卓也「何?」
萌子「可愛いですね」
卓也「そう?」

萌子、小銭を入れていちごオレのボタンまで手を動かす。

萌子「アイスとホットどっちですか?」
卓也「いいよ俺の分は」
萌子「私が飲みます」
卓也「ああ……いつもはアイスです」

萌子、いちごオレのアイスを選択する。

萌子「甘いもの好きなんですか」
卓也「まあ好きだし、子どもが」
萌子「ああ、息子さんでしたっけ」
卓也「そう、男2人。5歳と3歳」

萌子、いちごオレを持って椅子に座る。

萌子「大変ですね」
卓也「そうね。2人とも歳近いから、よく喧嘩してるよ」
萌子「わー、奥さん大変だ」
卓也「土日も朝から晩まで遊んで、へとへとになったと思ったら中途半端な時間に寝ちゃって夜寝ないし」

卓也、いちごオレのアイスを選択する。

萌子「それが毎日……」

卓也、いちごオレを持って萌子の隣に座る。


萌子「先輩って、ギャップありますよね」


卓也「え?」
萌子「結構遊んでそうな見た目ですけど、家族仲良くて、いちごオレが好きで」
卓也「ああ……子どもが甘いもの食べたり飲んだりしても飽きたら残しちゃうじゃん?その度に飲むから段々好きになってきたっていうか」
萌子「ギャップですね」
卓也「そういえばさ、バッグにあれ付いてたよね、キーホルダー」
萌子「LUNASEAですか」
卓也「そう。好きなの?」
萌子「はい。母が好きで。キーホルダーはライブグッズです」
卓也「へえ。ギャップだね」
萌子「そうですか?」
卓也「うん。可愛いものが好きなのかと思ってた」
萌子「なんでですか?」
卓也「甘いもの好きって聞いたからさ」
萌子「……へえ」
卓也「ギャップって、なんで魅力的に見えるんだろうね」
萌子「あー、ギャップ萌えとか言いますもんね」
卓也「俺がケーキ好きだったらギャップ萌えになるかな」
萌子「……まあその風貌なら」
卓也「いちごオレが好きなのもギャップ」
萌子「……ええ」
卓也「じゃあ、」
萌子「ギャップって、良い意外さに驚かされることだと思うんですよね」
卓也「良い意外さ」

萌子、いちごオレを飲み干す。

萌子「恋愛において、誰かを思ってドキドキするって結局は心臓の発作ですから、意外さにびっくりした時のドキドキと似ている気がします」
卓也「……結構現実的なんだね」
萌子「だから真面目な人が意外と積極的な姿とか、男らしい人が意外と奥手だけど一生懸命な姿とかへの意外さが、好きかもに発展するんだと思いますよ」

卓也、萌子の話を聞きながらいちごオレを飲む。

萌子「でもそれは、ギャップ以前に普通の姿で好かれていることが大事です。だから、先輩が甘いものが好きなのも、ケーキが好きなのも、元から良いイメージじゃないと意味が無いわけですよ」


萌子「このギャップ、要らないと思います」

萌子、卓也のいちごオレを飲み干す。

卓也「えっ」
萌子「ブラックコーヒーからいちごオレ派に行くのは難しいんじゃないですか?好かれたいからするギャップは嘘ですから。嘘つきですから」

卓也、黙って萌子を見つめる。

萌子「洗濯とか、掃除とか、料理とか、休日は子ども2人を連れて奥さんを1人にするとか、そういうことしたら良いんじゃないですか?ギャップ萌え、するんじゃないですか」

萌子、立ち上がり紙コップを勢いよく捨てる。

萌子「あと私、甘いもの好きじゃないですよ。別部署の友達が、私と同じ部署の既婚者に言い寄られてるって言うから、慰めるためにケーキ買っていっただけです。私が1番好きな食べ物はぼんじり、1番好きな飲み物はハイボールです」

萌子、卓也に近付く。


萌子「ギャップ萌え、しました?」


萌子、卓也を睨みつけた後お辞儀をして去って行く。



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